このエントリーをはてなブックマークに追加

ウエイトトレーニングをするべきレベル~スポーツを行う目的と競技動作で鍛える限界~

みなさんいつもご覧いただき有り難うございます。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。

毎年3月のコラムでは同じ事を言っているかも知れませんが・・・
めちゃくちゃ目が痒いです。鼻が痒いです。夜中は咳が止まりません。
小学4年生の時には箱ティッシュを持って登校していたような記憶があるので、もうかれこれ34年ぐらいこの酷い花粉症に悩まされているのですが、今年は特に酷いです。

関東に住んでいたときと大阪に住んでいるときを比べると、やや関東に住んでいるときの方が花粉症は酷いように感じているのですが、今年は大阪でも酷いです。
鼻炎が続いて副鼻腔炎になってしまい、あまりに体調が優れないので2月の中旬から1ヶ月ぐらいはトレーニングも中断し、子供の試合を応援に行く以外は極力外出しないように努めています。

私の場合はトレーニングが出来ないと仕事でもアイデアに乏しく、良い仕事が出来ませんので本当に1年で一番最悪な季節なのですが、それを補うためになるべく色んなスポーツをYouTubeで見たり、スポーツ選手の伝記を読んだりして感覚を現場から離さないように工夫をしています。

南半球のプロラグビー選手の中には1年の半分は南半球でプレーして、南半球が夏になってくると今度は涼しい日本に来てプレーするような人もいて「渡り鳥みたいな奴っちゃな」と言っていたのですが、ある意味自分の能力を最大限活かして快適に生きていくためには理想的な生き方なんじゃないかと最近思います。

私もそのうち2月~4月は花粉や黄砂、pm2.5などを避けて南半球のどこかの島国で仕事をして、ゴールデンウィークぐらいにひょっこり帰ってくるような生活がしたいなと毎日考えています。

さてそんな妄想ばかり膨らまして現実逃避している辛い日々ですが
先月のコラム
https://www.sbdapparel.jp/contents/202303/5836
が私の身の回りでは思いの外好評でして
普段口で言っても聞かないのに
「あっ!その話ネットで読みましたよ」と言ってくれて
「ネットに載ってたらちゃんと読むんかい!」
という感じでネットを利用すればグチグチ言わなくてもみんな勝手に理解してくれるのかと、味を占めたわけではないのですが、今月も関連した話をさせていただこうと思います。

【スポーツを行う目的】

先月のコラムでは購入と投資の違い、そして焼き芋屋さんとカレー屋さんの例え話を紹介しましたが、もう一つこれに追加する考え方として
「なぜウエイトトレーニングをしなければならないのか?」
に対する私が考える答えと、競技スポーツに取り組むうえでの考え方について今月は書いていこうと思います。

まず最初に申し上げておかなければならないのは、スポーツを行う目的は人それぞれ違うということです。当たり前のことなのですが、まずここから勘違いしている人が多いのがスポーツ界の悩ましいところです。
一部の職業スポーツ選手とそれを目指す人以外にとって、スポーツは余暇を充実させる活動であり、リフレッシュであり、日常生活のために心身のエネルギーを充電するためのものです。つまり人生をより充実させるために+αで行うものであり、その目的も必要とする活動上限も人によって様々です。

例えば毎朝早起きしてウォーキングを1時間行っている30代の男性が6人いるとします。
Aさんの目的は「プロの競技アスリートだが前十字靱帯を断裂してしまったので競技復帰のためのリハビリ」だとします。
Bさんの目的は「半年後に出場するボディビルコンテストのためのダイエット」だとします。
Cさんの目的は「結婚したいので体脂肪を減らし女性にモテるからだになる」だとします。
Dさんの目的は「1ヶ月後に行われる職場の健康診断で再検査にならないための準備」だとします。
Eさんの目的は「1年前に心臓血管系の病気になってしまったのでリハビリと予防のため」だとします。
Fさんの目的は「特になく、早起きして歩くこと自体で清々しい気持ちになるので」だとします。

この6人の目的は別々のものですが、AさんやBさんの目的は高貴なもので、Cさんの目的は不純でしょうもないものでしょうか?
Eさんの目的はからだのためだから素晴らしくて、Dさんの目的は健康診断が終わるとすぐに辞めてしまいそうだからしょうもないでしょうか?
Fさんは単なる変わり者でしょうか?

もしそう思うのならあなたは「競技」スポーツという「狭義」な世界に捕らわれているかも知れません。
スポーツや運動を行う目的は人それぞれです。

ではこれをラグビーというスポーツにあてはめて、社会人になりたての23歳の若者の場合で考えてみましょう。
Aくんは「日本代表を目指してリーグワンでプレーします」
Bくんは「リーグワンでプレーをしますが日本代表までは目指していないのでチームでレギュラーになれるように頑張ります」
Cくんは「リーグワンではないけれどラグビー部のある会社に就職できたので仕事と両立しながら頑張ります」
Dくんは「仕事はフルタイムでしっかり頑張りたいので週末だけのクラブチームで精一杯頑張ります」
Eくんは「仕事をしながら週末にクラブチームで選手を続けますが、仕事に影響しない程度に留めて楽しく汗をかいて健康第一で頑張ります」
Fくんは「仕事をしながら週末にクラブチームで選手を続けますが、練習は適当に流して昼からみんなでビールを美味しく飲むために頑張ります」

この6人のラグビーを行う目的も別々のものですが、Aくんに比べるとBくんは駄目な人間でしょうか?
AくんBくんに比べるとCくんDくんは中途半端でしょうか?
AくんBくんCくんDくんに比べるとEくんは臆病者でしょうか?
Fくんみたいならやらない方がマシでしょうか?

違いますよね、目的は人それぞれです。
他人の価値観でとやかく言うものではありません。
みんな1度の人生を自分の好きなように使う権利があります。
とことん競技力を高めてチャンピオンを目指すという人生が良ければ自分の限界までチャレンジすれば良いし、高校や大学でスッパリやめてその経験を活かして次の目標へチャレンジしたいならそれはそれで素晴らしい選択です。

逆も然りで、50歳を過ぎて周りからもう無理だと言われようが、プロサッカー選手として日本代表を目指す人も素晴らしいし、同じように現役に拘りいつまでもボクシングの世界チャンピオンを目指す人生も素敵です。
いずれにせよスポーツを行う目的も、どのレベルで行うのかも人それぞれで、1人1人が自分の人生を充実させるために取り組めば良いものだと思います。

【ウエイトトレーニングが必要かどうか】

それはウエイトトレーニングを行うか行わないかという選択でも同じで、結局は
「やりたければやって、やりたくなければやらない」
だけの話なのです。

ただ、先月のコラムで例にした焼き芋屋さん競技とカレー屋さん競技のように、競技スポーツの中にも色々な種類があって、中には
「からだを鍛えておかないと楽しく出来ない」
「からだを鍛えておかないと怪我をしてしまう」
というような競技が存在します。
またそうでない競技でもレベルが上がって行くにつれて「からだを鍛えておかなければ怪我のリスクが高まる」という競技も沢山あります。

前者でいうとラグビーやアメリカンフットボールが代表的なので、先に例に出したラグビー選手A~Fくんでウエイトトレーニングをするべきかどうかを考えてみると
AくんBくんは間違いなくやらないと目標を達成することは難しいでしょう。
CくんDくんはラグビーの練習と仕事を両立するだけで精一杯かも知れませんが、やはり自分のからだを守るためには無理をしてでもやった方が良いでしょう。
EくんFくんは「無理をしてまで勝利を追求しない」という前提に立てば、必ずやらなければならないとは言い切れません。
ただコンタクト系球技ですので、コンタクト局面で勝てなければ「楽しめない」可能性が高いので「他の人がやっていない可能性が高い」からこそやった方が楽しめるのではないかと考えます。

また後者でも例えばサッカーの選手などは、ラグビーほど身体接触が激しいわけではありませんが、ボール獲得のための競り合いではからだが当たり、押し合うようなプレーはあるので、あまりにも体重差(筋肉量の差)があると安全にボールの争奪が出来るとは考えにくいでしょう。
そしてもちろん競技レベルが上がれば上がるほど、要求される体格もスピードも高くなることから「競技練習にプラスして」からだ作りをしなければどんどんリスクは高まってしまいます。
怪我をしてしまうとどんなにスピードがあってすばしっこくても試合も練習も出来ません。つまりスポーツを楽しむことは出来ません。

「好きなスポーツを楽しむことが出来なくなるリスクを少しでも減らすために、好きなスポーツ以外のこともやらなくてはならない」
これが競技レベルが向上するにつれ必要性が高まる、コンディショニングとしてのウエイトトレーニングの位置づけかなとも思います。

傷害の予防という観点では、身体接触が全く起きないスポーツでも同じでして、以前私が指導していた弓道部の選手は、肩や腰に元々あった痛みがウエイトトレーニングで全身をバランス良く鍛えるようになってからは軽減しました。恐らく競技特異的な動作を反復する中で、筋肉の付き方や筋力がアンバランスになり、日常生活での姿勢に歪みが生じていたものが改善されたためではないかと考えられます。

またそれまで鍛えていなかった背中や腕を鍛えるようになった事で弓の飛距離が伸び、その結果、余裕を持って的を狙うことが出来るようになり競技力も向上したそうです。
一見するとウエイトトレーニングによる競技力向上効果をイメージしにくい競技かも知れませんが、実はこの様な形で貢献できるわけです。

【競技練習でからだは自然と鍛えられる】

私は今年で45歳になるのですが、自分がこれまで生きてきた時代のトレーニングを振り返ってみると、先進的で科学的な根拠に基づくトレーニングと、伝統的なトレーニングがちょうど交錯した分岐点を生き抜いてきたハイブリッドな世代ではないかと思っています。

知識としてはどんどん科学的な理にかなった方法論が入ってくる一方で、現場で実践するには環境を揃えたり周囲の理解を得ることが難しく、伝統的な方法と対極に立ってしまう場面もあったのですが、自分自身も伝統的な方法を実践していた世代である事から、その効果や副次的な恩恵にも一定の理解があり、戦うというよりは共生しながら移行させるという方法をとってきた世代ではないかと思います。

これは私がまだ若い頃に、スポーツの現場で中心的な立場で活躍されていた、ウエイトトレーニングが一般的ではなかった世代の指導者の方々とよく議論させて頂いた話なのですが、

「ワシらの頃はスクラム組んどったらスクラムに使う筋肉が鍛えられたもんや」
「タイヤをひたすら押しとったら脚は鍛えられるんや」
「ひたすらバットを振り込むとバットを振るために必要な力が強くなるんや」
「柔道の筋肉は柔道をやっとったらつくんや」
「走り込みで下半身が出来あがるんや」

などと、昔はウエイトトレーニング無しでも競技練習をひたすら反復することで、競技特異的な負荷をからだに与え続け、結果的に競技に必要な体格を獲得していたという、
「経験に基づいたからだ作りに関する実践報告」
を度々頂き、有り難く拝聴したものです。

嫌味でも何でも無く、これらの意見は全くもって間違いではありませんし、ある意味
「心身の健康のためにルールのある遊びでからだを動かす」というスポーツの本質的な部分では正しい解釈であると私は思っています。
わざわざ追加してウエイトトレーニングでからだ作りを行わなくても、好きでやっている競技練習の中に存在する動作を反復練習し過負荷するだけでも十分、競技に必要とされるレベルまでからだが成長し、尚且つ競技特異的な部分に筋肉がつき、競技特異的な力が発揮されるようにデザインされ、更には長時間かけて反復することで精神力も向上するという、1つのナイフに缶切りと栓抜きと爪切りが備わっているような非常に効率のよいトレーニング方法だったわけです。

当時は・・・

先月のコラムでも書かせていただいた通り
競技スポーツの中には、焼き芋屋さんタイプの競技もあればカレー屋さんタイプの競技もあり様々です。
そして前述したようにスポーツの楽しみ方も様々です。
楽しみ方が様々であるというのは、競技者が身を投じる「競技レベルの層」も様々であるということです。

競技練習だけで得られるからだ作りまでで競技を楽しんだり、同じ体力レベルの人と怪我の無いように戦い、勝った負けたを楽しむ程度なら、ウエイトトレーニングを追加して行う余裕がないのなら、無理してやらなくても何ら問題はないのではないかと私は思います。

また料理で例えるなら
お家で焼き芋を焼いて楽しむだけで良いという人もいれば、お店を出して色んな人に食べてもらいたいという人もいると思いますし、世界焼き芋コンクール(があるかどうかは知りませんが)で優勝したいという人もいるでしょう。
家で焼き芋を楽しみたいだけの人に、何が何でも1本1000円ぐらいする薩摩芋を買いに行けということは私は言えません。

カレーでも「これ、お店で食べるより美味しいんちゃう?」と家で言ってもらえるところで楽しむも当然よし。「でも実際お店を構えてミシェランに載りたい」まで追求するもよし。そこは人それぞれの目的によって違って良いと思います。

しかし残念ながら競技レベルというのは時代と共に向上します。そしてトップを目指すということはフィジカルにも上限が無いということです(個人の適性範囲はありますが)。
よくテレビなどの企画で昔の名選手と現代の選手を比較して夢の対決を語るような番組があると思いますが、おそらくほとんどの場合は(競技人口が圧倒的に昔の方が多かった競技などは別)現代の選手の方がレベルは高いでしょう。
「そのスポーツで受ける刺激だけで発達する身体レベル」で優位性のあった当時と今では環境が違うのです。

ウエイトトレーニングもサプリメントも医科学的な知識も無かった頃は、ただひたすらに競技動作を反復する、あるいは競技動作に多少の負荷を加えて補強運動とする程度の刺激で発達するレベルのフィジカルで十分だったのかも知れませんが、今は世の中にウエイトトレーニングもサプリメントも医科学的な知識も普及してしまいました。
競技力を向上させ「勝利」を目的として競技を行うためには、「競技から得られる刺激で発達可能な範囲を超えた」からだが求められるようになってしまいました。
またスポーツに競技として取り組むことの出来る年数も増えたため、以前よりも長期的に競技に取り組むことが出来るようになり「からだ作り」と「技術練習」を分けて計画的に取り組むことの出来る時間が今はあるのです。
そのため「怪我を予防する」事の重要度が以前よりも増していると考えられます。

この様な背景から「競技練習だけで自然と発達するレベル」を超えたからだ作りを効率的に行うことが必要となったのです。

【トレーニング変数を漸増する事が出来るのか】

先々月のコラムでも書いたとおり
https://www.sbdapparel.jp/contents/202302/5766
継続してトレーニング効果を得るためには、負荷を段階的に漸増させる事が必要です。つまり漸進性過負荷の原則に則ってトレーニングを行う必要があります。
これがウエイトトレーニングを利用すれば(重量)と(反復回数)(セット数)という非常に分かりやすい変数で、段階的に増加させていく事が可能となることは想像出来ると思います。最近の競技スポーツのためのトレーニングでは、これに(速度)を組み込む試みが様々な器具やアプリを使用して行うことが出来るようになっていますし、ボディメイクで言えば(可動域)も大切な変数と言えます。

では
「ワシらの頃はスクラム組んどったらスクラムに使う筋肉が鍛えられたもんや」
「タイヤをひたすら押しとったら脚は鍛えられるんや」
というトレーニング方法にこれをあてはめてみると
まず重量をどう漸増していくか?
これはもしかしたら徐々に体重の重い相手とスクラムを組むことで可能となるかも知れません。
またスクラムマシンなどを使っても徐々に重くしていくことは可能だと思います。
タイヤも「どこに置くねん」という問題はありますが、沢山色んな重さを用意しておけば出来るかも知れません。
もちろんウエイトトレーニングの方が重りの足し引きは簡単ですが、出来ないわけではありません。

では反復回数はどうでしょうか?
これは押す動作に置き換えると距離で表せるでしょう。あるいは押した歩数です。
例えば5m押すというトレーニングをするとして、6m押せてしまったら重量を増やす。これはウエイトトレーニングと同じなのでこれも可能としましょう。
そしてセット数も可能です。
可動域は膝と股関節の屈曲角度でコントロールできるから、これも可能。

「ホレみてみぃ、出来るやないか」

こう思われるかも知れません。
出来ますよ。
むしろスクラム練習ではそうして下さい。
良い練習になると思います。

しかしある一定のレベルを超え、強くなってしまったら変数を増やす事が難しくなりませんか?
例えばチームで一番スクラムが強くなってしまったら・・・もうそれ以上の重量は漸増できませんよね。もし1人で何人も押すようになったら・・・その動作は競技特異的な範疇から逸脱しているでしょう。
もしも競技特異的な動作のまま過負荷を続けられたとします。それでもいずれは負荷を漸増できなくなります。なぜなら芝が捲れたり、地面が掘れて滑ったり、スパイクが折れたり破れたりするはずだからです。

サーフェイスやスパイクのポイントの長さにもよりますが、人工芝だと400kgを超えたあたりから芝にスパイクがかからず滑って進めなくなることが多いです。
重量が増せば増すほど前傾する角度が地面と水平に近付きますので、足関節の柔軟性にもよりますが足裏面と地面との接地面は減り、地面に刺さるスパイクの本数も深さも減少するので、結果脚力があったとしても伝えることが難しくなりスパイクが噛まなくなり、滑るか地面が掘れて進めなくなるわけです。
これは筋力の限界でセットを終えているのではなく、スパイクとサーフェイスの限界でセットを終えていることになり、トレーニングとしては成立しなくなることを意味します。

つまり漸進性過負荷を加え続けても、いずれは筋力の限界以外で動作を行うことが出来なくなるわけです。
また見た目の姿勢や動きが競技動作に似ていたとしても負荷を高め続けると、その速度や力の方向が変わり、その動作が競技特異的ではなくなってきます。
さらにウエイトトレーニングに比べると、トレーニングの準備自体に手間と時間がかかることは容易に想像できます。
この3点からトレーニング変数を漸増する事が最終的には難しくなるため、レベルが上がれば上がるほどからだ作りのための効果はなくなっていくものと考えられます。

同じようなことが他の例でも言えて

「ひたすらバットを振り込むとバットを振るために必要な力が強くなるんや」
も全くその通りなのですが、バットの重さを増やしたり休息時間を短くするなどして負荷を漸増しようとすると、いずれ動きは競技特異的ではなくなりますし、怪我をすると競技練習自体が出来なくなるので非効率的です。回数を増やすという方法もありますが、練習時間だけが無限に伸びていくためこちらも非効率的です。

「柔道の筋肉は柔道をやっとったらつくんや」
も全くその通りなのですが、柔道の技術が増せば増すほど柔道の練習では、筋力の使い方に緩急が生まれ効率良く的確に筋力発揮と脱力を使い分けるようになり、上達すればするほど負荷を分散する事が出来るようになります。

また先々月のコラムでも例に出したように自分よりも力がある、階級が上の選手と乱取りを繰り返していれば競技練習内でも意識的に過負荷を加え続けることは可能ですが、余程大所帯で様々な階級の選手が一緒に練習している環境でも無い限り、段階的に負荷(相手)を大きくしていくことは難しいと思います。

乱取り稽古でなくとも、三人打ち込みや引き出し動作などの特異的な運動を切り取って負荷をかけ反復する方法でも、からだを作ることは可能であると思いますが、3人を引きずって進んだり、担ぎ上げたり出来るようになったら結局次は4人に増やさなくてはなりません。そして5人…・6人…最終的にブレーメンの音楽隊のようになってしまいます。
その間、他の人は練習できません。つまり技術練習としては高負荷で効果的でも、からだ作りと考えると非効率なのです。

また、格闘技系で自重トレーニングを重視する指導者も多くいますが、こちらも同様に腕立て伏せにしても綱登りにしてもバーピージャンプにしても、自体重で行うだけでもその人にとって大きな負荷となっている間は効果がありますが、10回できたら20回、20回できたら30回・・・とやはり回数だけが無限に増えていき、時間効率はどんどん悪くなっていきます。背中に重りを乗せたり、腰にぶら下げたりと、やはり重量で過負荷をしていかなければ回数だけやって満足する事になります。

「走り込みで下半身が出来あがるんや」
も同じで、もちろん走ることは様々なスポーツの基本動作なので、それを反復することは良いことに決まっているのですが、長距離を走ることで身につく体力は長距離を走るための体力です。

競技の特性上、長距離を走っているのと全く同じ負荷が下半身にかかるというスポーツがあるのであれば長距離で下半身を作っていただくだけで十分なのかも知れませんが、「競技練習でかかる以上の負荷を与えて、より強い力を発揮できる下半身を作り競技に活かしたい」と考えるのであれば、やはりウエイトトレーニングの方が効率が良いでしょう。

もしくはランニング自体でスレッドを引くとか坂道を走るとか負荷をかけて漸増していかなければ、からだづくりとしてのトレーニング効果は得られません。しかしスレッドも適切な重さ以上を乗せるとランニングのフォーム自体が乱れますし、坂道も都合良く傾斜が段階的に変わる道はなかなか存在しません。

スピードや設定タイムは変数として漸増する事は出来るのでトレーニング効果としては増しやすいですが、「下半身が出来あがるんや」がからだ作りとしての意味合いだとすると、いつかは負荷が頭打ちになる、あるいは負荷を漸増できなくなります。ということは、やはりウエイトトレーニングのほうが効率的ではないかと考えられます。

【伝統的なトレーニング方法を否定しているわけではない】

さてここまで話をしてきて
「じゃぁ佐名木はタイヤ押しとか坂ダッシュとかはやらさないんだな」「否定派なんだな」
と思うかも知れませんが、そんなことはありません。
むしろめちゃくちゃ推奨しています。

競技動作に近い動きに負荷をかけて
技術練習(姿勢作りや動きの習得、力の伝え方含む):からだ作り=7:3
ぐらいのイメージで適度な量をやるのは、目的を見失い過度なボリュームを課すようにならなければ競技力向上のためには必要な刺激の1つだと考えています。
しかし「競技練習だけでは到達できないからだ」を効率的に獲得するためには、ウエイトトレーニングの方が有効なので、この両方をうまく使いながら技術練習とからだ作りの間を埋めようとしています。

ウエイトトレーニングで競技能力を高めようとするのにも、特異性という壁が立ちはだかり「それだけ」では限界があります。
その逆もしかりで競技動作を反復したり、似た動作に負荷をかけたりするのにも強度や時間による非効率という壁が立ちはだかり「それだけ」では限界があります。

双方の効果を認め、また限界も認め、足りないところを補い合う事が正しい道だと信じています。

【まとめ】

近年ウエイトトレーニングによる筋肥大や筋力アップに関する研究数が増加し、身体作りに関する科学はめざましく発展しつつあります。
それに伴い、競技スポーツにおけるウエイトトレーニングの有効性も広く認知されるようになりました。

その一方で、ウエイトトレーニングが取り入れられる以前から競技練習の中で行われてきた伝統的な体力づくりのためのトレーニングは、長く競技現場で「競技練習の延長線上」で取り入れられてきたものの、ウエイトトレーニングなどに比べるとその効果について科学的根拠が乏しく、「非科学的である」とされ徐々に敬遠されるようになっています。

しかしこのような競技の経験則に基づいて現場でアレンジされてきたトレーニング方法の中には、競技の特異性に即した動作や力発揮を模倣したようなものも存在し、取り入れ方次第では有効なトレーニング方法ではないかとも考えられます。
しかしこのようなトレーニング方法は、現場で「身体づくり」として行われているのか?、「競技練習」の一部として取り入れられているのかが明確ではなく、時に選手にとって大きな負担となっている場合もあると考えられます。

フィジカル面で優位性を持つ事が必要なレベルで競技を行うのであり、ウエイトトレーニングが出来る環境にあるのであれば、からだ作りはある程度ウエイトトレーニングに任せてしまって、競技動作に過負荷するのは「技術練習」へ対する過負荷と考え、その目的を果たせる範囲で変数を漸増させましょう。

また、ウエイトトレーニングも、やって損することはほぼないと私は思いますが、競技によっては必須とまでは言い切れない、あくまでオプションの域を脱しない競技も多くあると思います。
安全な範囲でスポーツを楽しむだけが目的の人も、ウエイトトレーニングをプラスで行うことが文字通り重荷で・・・それによってスポーツが楽しめなくなってしまうのであれば、無理にウエイトトレーニングをやらなくても良いと思います。

その場合は競技を行うだけで得られる刺激があなたのからだを作ってくれますので、同じぐらいのフィジカル層で安全に競技を楽しむようにしましょう。

最後にもう一度、口酸っぱく言いますが
からだを作りとして行うのであれば負荷を漸増し続けましょう(続けようとしましょう)。
ラントレにしても筋トレにしても「競技練習以外」の+αについて多くの選手は「これで十分」という値を決めようとします。
〇〇の選手は1500m走は4分台で十分・・・とか
〇〇の選手はベンチプレスは140kgで十分・・・とか
〇〇の選手は体重は90kgあれば十分・・・など。

しかしよく見てください。
10~15年前に怪物とか言われていた高校生は、今の高校生と見比べたら怪物ですか?
15~20年前に無敵だった選手は、今出てきたら無敵だと思いますか?
20~25年前の世界記録は今も塗り替えられていませんか?(ドーピングしてたり道具の基準が変わったりしているもの以外で)

競技スポーツにフィジカルの上限は設定されていません。
トップの上限が日々更新され続ける以上、その他のカテゴリーもレベルは引き上げられ続けます。
先にも述べたとおりスポーツを行う目的は人それぞれです。
目的に合わせた上限を設定し「楽しむことの出来るレベル」の範囲内でやる分には全く問題ありません。
しかし上限のない世界(上限がないことを楽しむ世界)に身を投じながら自分の上限を自分で決めてしまうと、その時点でトップに到達することは出来なくなるのではないかと私は考えます。

文:佐名木宗貴


ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦績
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 93kg級 6位

ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年    全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年    日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年    関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター

資格
・日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
・NSCA認定 CSCS
・日本パワーリフティング協会公認2級審判員

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連する記事