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スポーツの指導者も意識するべき原理・原則

みなさんいつもご覧いただき有り難うございます。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
年が明けて1カ月ほどが経過した頃かと思いますが、皆さんはお正月ボケなど無くトレーニングを再開しているでしょうか?
私は昨年末、非常に調子よくトレーニングを継続することが出来ていたため、ここ数年で一番体調に波の無い年明けを過ごしトレーニングも普通に継続出来ています。
「正月ぐらい休んだらいいのに」
と思われるかも知れませんが、休んで生活習慣を崩す方がよっぽど身体にとってキツいですし、完全に筋肉の疲労を抜いてしまうと、緊張感がなくなりどこかしらの関節の痛みが再発するので、お正月も自宅の庭にある手製の器具で
https://www.sbdapparel.jp/contents/202005/2997
休まずトレーニングを継続するのが一番健康的だという結論に達しました。
私も20代の頃は、盆も正月もなくトレーニングばっかりやってるマスターズの人を「狂ってるだけやな」と冷ややかに見ていたのですが、自分がこの歳になってみて「止める方が身体に悪い」という新たな境地に達し、あの頃冷ややかに見ていた先輩方の気持ちがようやく分かってきたというわけです。

【トレーニングの原理・原則】

さてそんな休まずトレーニングするトレーニング仙人への入り口に立った2023年ですが、最初のコラムは真面目な話から入ろうと思います。
皆さんはトレーニングの原理・原則というものは耳にしたことがあるでしょうか?
これは専門書の種類によっても呼び方が違っていたり、3原則とか5原則とか多少言い方が違ったりする場合があるのですが、私がトレーニングを習い始めたころに東海大学のトレーニングセンターに勤務されていた、体育の非常勤の先輩方から「まずは原理・原則の意味をよく理解するところから入れ」と口酸っぱく言われたものです。
これも当時は「覚えるだけやろ」ぐらいにしか思っていなかったのですが、今になって振り返ってみると、ものすごく深い話だったんじゃないかと思い返し、トレーニングだけでなくスポーツ全般に言えるコーチングの根幹のようなものではないかと考えるようになりました。
そこで今回はこのトレーニングの原理・原則のおさらいと、これをスポーツの指導にもどのように応用するべきなのか?について考えていきたいと思います。

【三原理・五原則】

先に書いたように原理も原則も専門書によって若干書き方が異なる場合もあり、読んでると「これとこれ同じ意味やんな?」って事も多々あるのですが、私が一番わかりやすく分類していると思うのが「三原理・五原則」と呼ぶ分け方です。その内容は以下の通りで

オーバーロード(過負荷)の原理
特異性の原理(SAIDの原理)
可逆性の原理

漸進性の原則
全面性(全身性、全体性)の原則
意識(自覚)性の原則
個別性の原則
反復性(継続性)の原則

このように分類されます。

トレーニングの三原理とは簡単に言うと
「トレーニングに対する効果はどのように起こるか?」という、身体適応の基本的な仕組みについて言明したものです。
オーバーロード(過負荷)の原理とは
「体力レベルを向上させるためには一定水準以上の刺激が必要である」

特異性の原理(SAIDの原理)
「トレーニング効果は刺激を受けた体力要素に現れる。(目的に合ったトレーニングが必要である。)」

可逆性の原理
「人の身体は可逆的であり、トレーニングを行えば筋肉はつき、トレーニングをやめると元のレベルに戻ってしまう」

という感じです。

これにたいしてトレーニングの五原則とは
「トレーニングの三原理に基づく、効果的なトレーニング方法を構築するための基本ルール・法則」です。

漸進性の原則
「身体を成長させていくためには常に過負荷になるように徐々に負荷を漸進する必要がある」

全面性(全身性、全体性)の原則
「全身を、或いは各体力要素(筋力・持久力・柔軟性等)を偏ることなく全体的に万遍無くトレーニングすると効果がある」

意識(自覚)性の原則
「トレーニングをしている箇所を意識することで効果が高まる。またトレーニングの意味、意義、目的等を理解して高い意識を持って行うことで効果は高まる」

個別性の原則
「個人によってトレーニングの効果は異なるため個人差を考慮する必要がある」

反復性(継続性)の原則
「トレーニング効果を最大限に引き出すためには何度も反復し、一定期間以上継続して行う必要がある」

という事になります。
原理とか原則というとものすごく難しいこと、あるいは堅苦しいことのように聞こえますが、よくよく見てみると当たり前のことを言っているだけだと思います。
しかしこの当たり前のことをしっかり踏まえてトレーニングを行うことが何よりも大切だということです。

【スポーツの指導者も意識するべき原理・原則】

ではこのトレーニングの原理・原則というのは筋トレだけの話なのでしょうか?
私はそうではないと思っていて、スポーツ全般に共通する考え方であり、さらに言えば人間が成長するためには、どんなジャンルにおいても共通する理念だと思っています。
スポーツに例えれば
柔道を例にとると
60㎏級の選手にとっては66㎏級の選手と乱取りを繰り返すことは過負荷といえます。反復性の原則にのっとり継続して練習し、自分も強くなりますが相手も強くなるので負荷は常に漸進していきます。相手に勝つために個別に課題を抽出し、それが引手の強化だとすれば克服するために三人打ち込み等で引手を意識して取り組み、その効果は特異的に現れます。しかし引手の強化ばかり意識していたらスタミナが疎かになり延長戦でバテるようになったので、夜はランニングで持久力強化に努めパフォーマンスを全面的に鍛えようとします。全国大会が終わり1週間のオフがあったので完全に柔道から離れたら、練習を再開したときに少し引手もスタミナも低下していました。これは可逆的です。

このようにトレーニングの原理・原則と呼ばれてはいますが、実際のスポーツの現場を想像しても普通に日々繰り返されていることであると言えます。

ではこの原理・原則のなかで特にスポーツの指導者が日々の練習の中で意識すべき部分はどこでしょうか?
私は過負荷の原理と漸進性の原則、そして個別性の原則。この3点を特に意識して日々の練習を行って欲しいと思っています。

過負荷の原理と漸進性の原則、これらを合わせて漸進性過負荷とも呼びます。
先ほどの柔道の例でも述べましたが、スポーツが強くなったり上達したりする一番手っ取り早いのがこの漸進性過負荷を練習中に与え続けることです。

ラグビーでも外国人留学生のいるチームは自然とコンタクトプレーが強くなるのですが、それも普段から体の大きな留学生相手にコンタクトプレーの練習をすることで過負荷が選手たちに与えられているからです。
同じスポーツをしている年齢の近い兄弟で、しばしば弟の方が兄よりも競技成績が良いという家庭を見るのも、小さいころから常に自分よりも少し大きいお兄ちゃんと一緒に練習をしたり遊んだりしていることで、常に過負荷が加わった状態で成長しているので、同じ年齢の子に比べるとパワーやスタミナがつくのが早いという事です。
当然外国人留学生も日々強く大きくなっていきます、お兄ちゃんも同じように成長していきます。なので手抜きさえしなければ常に負荷は漸進されていきます。

またこの発想は筋力やパワーにおいてだけでなく、テニスや卓球などスピードや反応速度を競うような競技でも同じことが言えます。
自分よりも動きの速い選手と一緒に打ち合うことで自然と目と体がスピードに慣れレベルが向上します。これはスピードの面で過負荷が加わっているという事です。
サッカーやバスケットボールでも、自分と同じレベルのスピードの選手と毎日競り合うよりも自分より素早い選手と毎日競り合っている方が機敏に動き続けなければならないため、常に過負荷を与えられている中でのトレーニングとなります。バレーボールやバスケットボールで常に自分よりも背の高い相手とジャンプ力で競り合っていると、毎日全力でジャンプすることを強いられるので過負荷が与えられていると言えます。
つまり自分よりもちょっと強かったり重かったり速かったり高かったりする相手と一緒に練習する環境を作ることは自然と過負荷を与え続けることとなり、その中で競争させることで漸進性がうまれます。このようにアスリートは自分自身を成長させるための過負荷を受ける環境を求めて強豪校や有名チームに集結するようになるとも言えます。
また最近はGPSなどを使って練習中のランニング量やスピード、加速度などをリアルタイムで計測しながら練習をする方法を取り入れるチームが多いですが、これも競技力向上の面で使えば「今日は試合の1.2倍の走行距離を出そう」「今日は試合の1.2倍のスピードでプレーしよう」などというように過負荷を与え「先週よりも距離を伸ばそう」「先週よりも速度を速めよう」と漸進性を持たせる練習を可視化しながら進めることが出来ます。

逆に漸進性過負荷が競技練習の中で与えられないような練習環境を作ってしまうと、常に自分と同じか自分よりも弱い・小さい・遅い相手と対峙し、全力を出さなくてもプレーできる状態で練習することになりますので進歩が見られなくなるでしょう。
また毎日同じようなメニューを繰り返すだけの練習では「こなすだけ」の練習となり成長は見られません。例えば毎朝グラウンドを10周するというラントレをするにしても「毎日1秒ずつタイムを縮めよう」とか「先週は○周目まで○○秒を切っていたので今週はもう1周多く○○秒をキープしよう」というように漸進性過負荷を与え続けようとしなければ体力の向上は見られません。
技術練習にしても「先週は平均して〇〇回成功したので今週はもう1回多く成功させよう」というように常に漸進性を持たせる事が成長を続けるためには必要です。そして「先週は練習の最初に〇〇回成功したから、今週はダッシュした後に〇〇回成功できるようにしよう」となると漸進性に過負荷が加わることになります。

そして次に大切なのが個別性の原則です。
どんな競技でも一般的に効果があるとされている練習方法や練習の流れ、プログラムのようなものは存在すると思います。
習得する技術も戦術も補強で取り入れられる体力トレーニングも、ある程度の練習方法は既に確立されている場合が多いと思います。しかしそれらの練習方法やプログラムが全ての人にとって100点満点の方法とは限りません。なぜならば人間はそれぞれ違った生き物だからです。同じ身長・体重・性別だったとしても全く同じプログラムをやったところで同じように上手くなるとは限りません。恐らく双子の兄弟でも差は生まれるでしょう。
そんなわけで練習方法はその選手の特性を考慮しながら個別に最適化を目指すべきです。
これは最近流行りのエビデンスベースのトレーニングにも言えることですが、既に確立された方法や、科学的根拠を元に考えられた理論があったとしても、それは紳士服売り場に並んでいる規制のサイズのスーツのようなもので、多くの人の身体に合うように作られていますがオーダーメイドのようにピッタリではありません。
 個別性の原則を盛り込んだ練習づくりの難しさは、その競技のプレーヤー数が多ければ多いほど難しくなります。大人数の練習をコントロールするのはただでさえ難しいうえに個別にアレンジすれば更に管理が難しくなってしまいます。このような場合は、チーム練習とは別に個人練習や課題を克服する時間を設け、チームとしての行動や規律を遵守できる範囲で、個別に課題に取り組むことの出来るスペースを練習時間の中に確保する事が必要です。そうすることでオーダーメイドとまでは行きませんがセミオーダーぐらいのプログラムにはなるはずです。そして選手に自主性が芽生え自分自身で足りない部分を補う練習を追加して行うようになればオーダーメイドにより近付くでしょう。

【まとめ】

今回はトレーニングの原理・原則についておさらいするとともに、各競技スポーツの練習でも応用する考え方について紹介しました。三原則・五原理はスポーツに限らず、何らかの能力を伸ばそうとするときには共通する仕組みであり、様々な事柄にあてはめて応用することの出来る規則や法則のようなものだと思います。
いわゆる名監督や名コーチ、有能な指導者と呼ばれる人は、意識してか?無意識か?本能的にか?は分かりませんが皆このようなポイントを押さえた指導を行っている場合が多いと私は思います。
これから春シーズンに向けての冬季練習に入るチームも多いかと思いますが、身体作りでも技術練習でも、原理・原則に則った練習プログラムを行い、レベルアップして春を迎えられるよう頑張っていきましょう。

文:佐名木宗貴


ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦績
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 93kg級 6位

ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年    全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年    日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年    関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター

資格
・日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
・NSCA認定 CSCS
・日本パワーリフティング協会公認2級審判員

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