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社会人大会に出るために必要なこと (学生時代からの競技への向き合い方)

みなさんいつもご覧いただき有り難うございます。
SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
強烈な暑さと梅雨明け宣言早かったんじゃ無い?という雨が交互にやってくる今日この頃ですが皆様如何お過ごしでしょうか?
私はというと、今月ついに44歳になり年々暑さに弱くなっていく身体に鞭を打ち、今日も細々とバーベルを振り回しながら自然の摂理に抗っております。
おそらく筋肉量や筋力を数値化し量的に分析すれば、そこまで悪くはなっていないように思いますが、自分の感覚や精神的な部分を質的に分析すれば、かなり衰えていることは間違いなく「良く見える状態をギリギリ保っていられる」というような表現がこの40代中盤なのかなと客観的に分析しています。
「ギリギリ見られる」うちにもう一度何らかの形で試合に出たい、と思ってはいるものの「そこまでたどり着けるのか?」という穴の開いた船で目的地を選ぶような不安もあるわけです。
そんな中ですが、先日大阪ボディビル・フィットネス連盟が主催する伝統ある大会「大阪男子クラス別ボディビル選手権」を先月同様、関西学生ボディビル連盟に所属する学生達と共に見学してきました。

【大阪クラス別ボディビル選手権】


その中で私と学生ボディビル時代に同期だった選手が20数年ぶりに復活して出場し、見事に入賞を果たしていました。
どんな競技でも同じですが、長期間競技から離れていた選手が復活するというのは大変なことです。特にボディビルという競技は準備に時間がかかるのでカムバックするには大きな覚悟と努力が必要です。
その一方で長期間トレーニングから遠ざかっていても、トレーニングを再開すれば短期間で元の状態までは戻すことが出来るという、所謂マッスルメモリーと呼ばれる現象もあり、ボディビルディングの世界では、コンテストから離れ、ジムでも見かけなくなっていた選手が数年ぶりにカムバックし好成績を収めるという事は珍しいことではありません。

これもどんなスポーツでも言えることなのですが、ボディビルにおいても「心技体」のバランスが大切だと私は考えていて、例えば心が強いというのは体を成長させるためには必要な条件ですが、そこに技が伴っていなければ心が強いが故に無理をして怪我をするかも知れません。その逆も然りで技を上達させることは体を成長させるために必要な条件ですが、どれだけ技を持っていても心の成長が追いついていなければ体を成長させるために必要なレベルの強度には耐えられないでしょう。
若い頃は当然「体」の部分は伸び盛りです、また「技」の上達も速いと思います。しかし「心」の部分はその競技を行うだけで成長するものではありません。むしろ競技から離れ、年齢を重ねる中で様々な経験をし、磨かれていくのが「心」だと思います。そう考えるとマッスルメモリー以上に競技へのカムバックにはこの「心」が成長し「心技体」のバランスが整う事が不可欠なのだと考えます。
またボディビル競技においては「技」とは「知」とも言い換えることが出来る要素でしょう。このコラムもそうですが現代では様々な形で情報が溢れかえり「知識」を得ることは昔と比べると遙かに容易になりました、しかし「知識」はあるけどそれを使いこなせなければ「知恵」が身についたとは言えません。膨大にあふれる情報から本当に必要な「知識」を選択し、「知恵」として使いこなすためには、強い「心」によるコントロールが必要です。
冒頭で述べましたように、40代中盤は肉体的には「ギリギリ」かも知れません、食べるか捨てるかに迷う、黒くなったバナナのようなものかも知れません。しかし「心」を成長させる事で20代30代には作ることが出来なかった身体を作り上げ「今が一番良い」と評価を受けている選手もいるわけです。そういうわけで私にとっては非常に胸に刺さるコンテスト観戦となりました。

【近畿クラシックパワーリフティング選手権】

また6月末のことですが、明石のパワーフラッシュアリーナで開催された近畿クラシックパワーリフティング選手権大会も少しだけですが観戦に行き、関西大学学生S&CのOBである藤井くんと若林くんの応援をしてきました。


2人はコロナ初期の2020年3月に大学を卒業した社会人3年目の選手です。
学生時代は若林くんの方が2~3回生にかけてパワーリフティングやベンチプレス大会に精力的に出場していました。藤井くんは、最初はサマスタなどに出場するボディメイク系でしたが3回生になる頃からパワーリフティングの面白さに目覚めて4回生では大活躍した選手です。
今回は2人とも一般男子の74kg級に出場して、
藤井くんは優勝。若林くんは8位でした。
藤井くんの方は社会人になってからもコンスタントに試合に出場していて、今回ついに一般の近畿チャンピオンになりました。学生時代から勉学とスポーツを両立することに長けていて、社会人になってからも仕事とトレーニングの両立に最初から成功していたというタイプです。
逆に若林くんの方は卒業してからしっかり2年間寝かせての復帰戦でした。学生時代から一つのことに集中すると脇目も振らず突っ走るタイプで、恐らく2年間は仕事に集中して環境を整えてからの復活というパターンでしょう。
2人共に言えることは学生時代からトレーニングよりもまず授業に出て単位をしっかり取ることを優先するように指導したということです。学生として当たり前のことが出来ないのであればトレーニングなどする資格がありません。学業を疎かにするぐらいなら大会など出場しなくて良いと教えました。それで出場しても誰も喜ばないし、勝っても得るものはないでしょう。
社会人となっても学生時代と同様に仕事をしっかりして、社会人としての責任を果たしたうえで大会に出場してくれていることを誇りに思います。

【兵庫県ビキニフィットネスオープン大会】

次に7月16日に兵庫県姫路市で開催された兵庫県ビキニフィットネスオープン大会に
関西大学学生S&CのOGである国田海月さんが158cm以下のクラスに出場し見事に準優勝を果たしました。

国田さんは大学2~3回生の時にビキニフィットネスの大会に出場していましたが、大学4回生の2020年がコロナで大会が無くなってしまったため今回は3年ぶりの出場となりました。
上記の先輩2人と同様に学業や就職活動を最優先で指導したので、最後の年がコロナ禍で大変ではありましたが「今やるべきこと」に集中して「前向きに」取り組む事を学んで卒業してくれました。
社会人になってからも1年目から大会に出るべきかどうか相談されましたが、まずは「周りから応援される環境作りを優先しましょう」と新しい生活に慣れることに専念しました。
幸い早生まれということで社会人2年目ですがジュニアカテゴリーに参加できるので、8/7に仙台で開催されるオールジャパンジュニアにも挑戦する予定です。

【社会人として競技を続けるために必要なこと】

上記の3名以外にも卒業生で社会人として大会に出場してくれている選手はいるのですが、みんなに共通して話しているのは「何かを犠牲にするという考えを持つな」ということです。
綺麗事を言うなと思われるかも知れませんが、これは学生時代の部活動でも同じ事で「授業を犠牲にした」「単位を犠牲にした」「友達付き合いを犠牲にした」「バイトを犠牲にした」「家族の行事を犠牲にした」などなど、本来やるべき事を「犠牲」にしなければ出来ないという考えではどっちにしろ長続きしません。特にパワーリフティングにしてもボディビルにしてもナチュラルであれば競技力を高めるために時間を要する競技です。そのため「何かを犠牲にしてでも」という短いスパンで頑張ろうとする考え方よりも、より戦略的に「犠牲にしない」ための「準備・基盤作り・下拵え・根回し」といった環境作りが出来るようにならなければ長期的な視野に立った場合、競技で成功することは無いと思いますし、たとえ競技の成績は良かったとしても、その過程で失うものが大きければ、結果的に人生を豊かにする事に繋がらないのではないかと私は思います。

学生時代の部活動はある種、「◯◯歳までにどこまで強くなれますか大会」「◯年間でどれだけ強いチームを作れますか大会」と言えます。
期間が決められていて終わりがある分取り組みやすいですし、多少何かを犠牲にするような「破天荒」なタイプの方が3年間・4年間という期間であれば結果を残すかも知れません。
しかしそのスタイルを社会人になってからも貫くことは殆どの場合不可能です。

また目標設定も学生時代は「春は関西大会」「夏は合宿」「秋は全国大会」「冬は新人戦」といったようにあらかじめスケジュールが決まった中で目標に向けて練習や調整を行いますが、社会人となったら目標も自分で設定し練習するための環境作りも練習を日々行うためのスケジュール管理も全て自分で行わなければなりません。つまり学生時代から競技能力を高めること以上に、自分のやるべき事を自分で管理し周囲から応援される環境を作る能力が養われていなければ社会人では通用しないということです。
プラットフォームでもステージでも戦うのは1人ですが、その場にあがる前には何人もの人に支えられなければそこに辿り着くことは出来ません、そのためには「何を犠牲にしたか」よりも、「何人に応援してもらえるようになったか」の方が重要なのです。

【学生大会とは違うドラマ】

学生時代の部活動はとてもドラマチックに展開されます。
そこには小さいときからの個人の競技歴や親兄弟との関係、練習環境や学校、怪我からの復帰、ライバル関係などなど人それぞれ色んなストーリーがありますが、やはり一番盛り上がるのはライバルとの関係ではないでしょうか。
そしてそのドラマが社会人になってからも続くことを周りも本人達も望むものです。
「あいつは◯◯◯kgあげたらしいぞ」「◯◯はデカくなってるらしい」と囃し立てられ「あいつよりも先にタイトルを取ってやる」「同期で一番先に◯◯に出場する」などと意気込むかもしれません。
しかし一方で社会人となると大学時代に比べると個々人がおかれる環境に大きな差が生じます。
ある人はほぼプロのような練習環境かも知れませんし、ある人は現場で身体を酷使するような環境かも知れません。またある人は仕事の時間が定時で終わるような環境かも知れませんが、ある人は残業して休日も働かなければならないような環境かも知れません。人によっては早くに結婚して子供を授かるかも知れませんし、逆に家族の誰かを支える立場におかれるかも知れません。
似たような環境・境遇におかれる人はいるでしょうが、全く同じ人など1人もいないでしょう。
つまり社会人となったら学生時代のような同条件での競争など、ほぼほぼあり得ないということです。つまり今どれだけ競技に取り組めるかは人それぞれなのです。

しかし幸いなことにパワーリフティングやボディビルは競技力の向上に時間がかかる反面、ある程度年齢がいってからでも競技力を向上・維持しやすい競技とも言えます。
そのため社会人となってからの「勝負所」は人それぞれ違っていても構わないのです。
学生時代のように「3年生だから」「4回生だから」という終わりの決まった期間限定の決戦ではないのです。

社会人になりたての勢いのある頃
社会人になって3〜5年経って生活も仕事も安定し始めた頃
結婚して生活をする上で支え合うパートナーと暮らし始めた頃
子供が産まれ数年経って育児が落ち着き仕事の上でも余裕が生まれた頃
仕事が安定しスケジュールを自分でコントロールできるようになった頃
子供が成人し手を離れた頃

人それぞれ違ったタイミングで「今なら」と思える「勝負所」がやってきます。
その時にまた自分なりのドラマを作れるかどうかは、それまでに「頑張って」「応援するよ」と言ってくれる人を何人作れたかによるのです。

【まとめ】

よく競技を続ける若者に対して「スポーツはあくまで趣味なんだから社会人になったらほどほどにしておきなさい」と、さも人生の先輩からの忠告かのように語る人もいますが、それはあまりにもダサい言葉なんじゃないかと私は思っています。
それよりも社会人の先輩として若者に伝えるのであれば、社会人として競技を続けるということは、結果に対して「言い訳をしないこと」だと伝えなければならないと私は思います。
「仕事がきついから」「給料が安いから」「不規則だから」「配偶者が協力的じゃないから」「親が協力的じゃないから」「子供が小さいから」「もう歳だから」などなど、言い訳など探せばいくらでも用意できます。しかし元々平等でも公平でもないのが社会人のおかれている環境です。そしてそれら各自がおかれている環境とは別に、ルールで公平に争うことの出来る場を用意してくれているのが競技スポーツの世界です。
誰に強制されるわけでも無く、自分で選んで始めたり続けたりするのが社会人です。
仕事も家庭も世の中も、自分が競技者として強くなるための支えであり足を引っ張るものではありません。足を引っ張られていると思うのであれば、それは社会人としての自分の立ち回り方に問題があるのです。
 そしてあなたが今いる環境ではパワーリフター・ボディビルダー・フィジーカーなどは恐らく初見の人が多いことでしょう。つまり「なんで分かってくれないんだ」と言っても分からないのが当たり前なのです。しかしそこであなたが社会人として尊敬される態度で接すると、あなたのことを理解しようと興味を持ってくれる人が増えてきます。するとそれが応援してくれる人となり長期的に見れば我々の競技のファンへと変わります。
「ストイックなかっこいい人」と「変人」は受け手の気持ち次第では紙一重です。
1人1人が伝道者としての役割を果たすべく、社会性を失わず尊敬される競技者となりましょう。

文:佐名木宗貴


ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦績
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1 93kg級 6位

ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年    全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年    日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年    関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター

資格
・日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
・NSCA認定 CSCS
・日本パワーリフティング協会公認2級審判員

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