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2016年 世界クラシックパワーリフティング選手権大会 まとめ

去る6月19日~6月26日、アメリカ・テキサス州で世界クラシックパワーリフティング選手権大会(以下世界クラシック)が開催され、今年も多くの熱戦が繰り広げられました 。

試合結果はこちらよりご覧になれます。

男子結果
女子結果

今回は日本と時差が大きく昼夜がほぼ逆のアメリカでの開催でしたので私も中々全階級観戦とはいきませんでしたが、日本人選手の出場階級や注目度の高かった階級はいくつかリアルタイムで見る事ができました。

殆どの階級で昨年を超えるハイレベルな戦いとなり、特にSBDエリート ブレット・ギブス選手と地元アメリカの新鋭ジョン・ハーク選手がぶつかった男子一般83kg級は近年稀に見る盛り上がりになったのではないでしょうか。

今月のコラムでは世界クラシックでの日本人選手の結果や、次々と現れる新チャンピオン、急激に変わる国別の勢力図について書いていこうと思います。

熱戦を繰り広げたハーク選手(左)とギブス選手(右)

【日本人選手の結果】

《一般》

出場者  男子4人  女子4人

男子59kg級、蛯原選手6位

男子105kg級、武田選手9位、平井選手17位

男子120kg超級、海老田選手17位

男子団体戦20位

女子47kg級、可児選手5位

女子63kg級、前野選手16位

女子72kg級、竹内選手9位、鈴木選手11位

女子団体戦13位

一般部門は男女合わせて8人が参加しました。

男子では59kg級の蛯原選手が6位入賞、105kg級の武田選手は昨年に続きベンチプレス種目別 金メダルとトータル800kgオーバーを達成し9位となっています。

初出場の105kg級平井選手、120kg超級海老田選手も世界の舞台で自己ベストを更新しました。

女子は47kg級の可児選手が5位とベンチプレスで種目別銅メダルを獲得。

前野選手は自己ベストを更新、竹内選手はスクワット日本記録に成功しています。

一般代表チームは毎年参加し非常に水準の高い記録を出し続けている蛯原選手・武田選手・可児選手の三選手を中心に、急激にレベルアップする世界の選手達に挑んでいます。

《サブジュニア・ジュニア》

出場者  男子17名  女子8名

※サブジュニア

男子53kg級、ファルキ選手1位

男子59kg級、森田選手4位、松山選手8位

男子66kg級、河南選手7位

男子74kg級、村上選手8位、田中選手10位

男子83kg級、斉藤選手7位、田中選手8位

男子団体戦3位

女子43kg級、清水選手6位

女子47kg級、菊池選手2位

女子52kg級、大西選手3位

女子57kg級、浦野選手5位

女子63kg級、野村選手5位

女子団体戦3位

※ジュニア

男子53kg級、丹選手3位

男子66kg級、古清水選手5位

男子74kg級、池口選手11位、宇津木選手17位

男子83kg級、古川選手8位、本庄選手14位

男子93kg級、齊藤選手10位

男子105kg級、坂本選手14位

男子120kg級、佐野選手8位

男子団体戦7位

女子57kg級、堤選手7位

女子63kg級、寺原選手4位

女子72kg級、窓場選手4位

女子団体戦6位

サブジュニアでは女子52kg級の大西選手がまだ高校二年でありながらサブジュニア世界記録・一般日本記録となるスクワット125kgを成功、16歳での一般日本記録更新は過去に聞いた記憶がありません。

ジュニア男子では53kg級の丹選手が3位となりジュニアで唯一の表彰台を獲得、66kg級の古清水選手と74kg級の池口選手はそれぞれデッドリフトで2位と3位になり、種目別メダルを獲得しました。

120kg級の佐野選手は日本人ジュニア選手としては絶対重量で過去最高となるトータル722.5kgに成功しています。

ジュニア女子では京都学園大学から3人が出場し、57kg級の堤選手がスクワットで一般日本記録更新、63kg級の寺原選手がスクワットでジュニア世界記録樹立&一般日本記録更新し4年連続でスクワット種目別金メダルを獲得。

72kg級の窓場選手がスクワット種目別3位にトータル一般日本記録を更新と、揃って好成績を上げています。

ジュニア・サブジュニアの選手は近年急激に層が厚くなっている印象で、一昔前は一握りしかいなかったトータル600kgやフォーミュラ400を超える選手が今では珍しくなくなってきており、トータル700kg超えやフォーミュラ450以上という選手もここ数年は毎年のように出現しています。

《マスターズ部門》

出場者  男子13人  女子4人

※マスターズ1

男子59kg級、川村選手2位、北沢選手4位

男子66kg級、上野選手5位、富田選手6位

男子74kg級、藤川選手8位

男子93kg級、小川選手8位

男子団体戦5位

 

女子57kg級、田中選手5位

女子団体戦16位

 

※マスターズ2

男子59kg級、椎木選手2位

男子66kg級、鈴木選手4位

男子93kg級、長谷川選手5位

男子団体戦5位

 

女子47kg級、辻選手1位

女子団体戦7位

 

※マスターズ3

男子66kg級、蜂巣選手1位(ベストリフター)

男子団体戦5位

 

女子47kg級、菊入選手1位

女子63kg級、中島選手2位

女子団体戦3位

 

※マスターズ4

男子59kg級、川中選手1位

男子74kg級、沖浦選手1位(ベストリフター2位)

男子83kg級、佐藤選手2位(ベストリフター3位)

男子団体戦2位

マスターズ2の辻選手は大会三連覇を達成。

マスターズ3の蜂巣選手は昨年一昨年と二年連続でベストリフターを獲得しながらも出場階級では2位となっていましたが、今年は優勝とベストリフターの両方を獲得し文句無しの頂点に立ちました。

マスターズ4では沖浦選手と川中選手が共に三連覇を達成しています。

【男子のレベルが大幅に上昇、トップはフォーミュラ(ウィルクス・スコア)550の世界に】

今大会の最終的な出場者数は690人となり、753人が出場した昨年からは少し減少しました、これは開催地がアメリカだった事でヨーロッパ選手の参加が減った事とロシアの出場制限処分(恐らくドーピング問題の関係で男子の国際大会出場者が各カテゴリー2名までに制限)が影響していると考えられます。

しかし人数は減ったものの上位のレベルは昨年から更に上昇しており、2012年に開催された第一回世界クラシック一般各階級優勝者の平均フォーミュラは男子511女子469だったものが、昨年2015年の同大会では男子526女子514まで上昇し、今年は更に男子542女子514と男子のレベルが大幅にアップしました。

ノーギアのトータル世界記録も今年に入ってから既に男子8階級中7階級が更新されており、数年前まで世界で表彰台争いをしていたような選手ですら記録を大幅に伸ばせなければ下位に落ちてしまうという非常に過酷な状況になっています。

【北米から次々と新チャンピオンが登場、アメリカチームが表彰台を席巻】

今大会では開催国アメリカの選手が一般男子8階級中4階級、一般女子7階級中3階級を制し団体戦で男女共に圧勝、フルギアでは二強のロシアとウクライナもノーギアではアメリカの強さの前に歯が立たない状況となっています。

アメリカでは以前のコラムでも書いたようにノーギア大会の参加者急増に伴って新たな強豪が続々と現れており、特に男子代表チームは大部分がこの数年で頭角を現した選手で、今大会でも一般男子代表選手8人中6人が世界大会初出場でした。

アメリカ代表は一般女子チームもジェニファー・トンプソン選手、キンバリー・ウォルフォード選手、ボニカ・ロォク選手のベテラン三人を軸にヘザー・コナー選手のような勢いのある若手選手が加わって鉄壁の布陣となっています。

今後もノーギアパワーリフティングはアメリカがトップを走っていくでしょう。

今大会では同じく北米のカナダもアメリカに続いて男子団体戦2位となっています、カナダはフルギア部門では強豪国と言える程強くありませんが世界クラシック開始以降ノーギア部門で世界で通用する選手を数多く輩出しており、ノーギアパワーリフティングの世界で年々存在感を増しています。

女子ではソフィア・ロフト選手(52kg級1位)、ジェニー・アドルフソン選手(63kg級3位)、イザベラ・フォン・ワイセンベルグ選手(72kg級2位)といった有力選手を擁するスウェーデンが団体戦2位に、ロシアは3位と男子部門と同じく女子部門でも覇権を失った印象です。

【今大会初出場のニュースター達の紹介】

今大会初出場ながら大活躍し注目を浴びた選手達を動画と共にご紹介します。

※選手の年齢はカレンダーイヤーとなっています。

《ジョン・ハーク選手》

アメリカ  23歳

男子一般83kg級1位

スクワット298kg(世界記録)

ベンチプレス200kg

デッドリフト315kg

トータル813kg(世界記録)

ブレット・ギブス選手(ニュージーランド)から劇的な勝利を上げ今大会新たに出現した選手の中でも最も大きなインパクトを残したジョン・ハーク選手、若くルックスも良い事からこれからノーギアパワーリフティングの新たなスター選手になっていくでしょう。

来年の世界クラシックでもギブス選手との名勝負を期待したいですね。

《デニス・コーネリアス選手》

アメリカ  36歳

男子一般120kg級1位

スクワット378kg(世界記録)

ベンチプレス253kg(世界記録)

デッドリフト347.5kg

トータル978.5kg(世界記録)

 

渋い見た目と落ち着いた試合運びに初出場とは思えない貫禄を感じさせたコーネリアス選手、昨年のチャンピオン ボアフィア・モハメッド選手(アルジェリア)にトータルで40kg近い差をつけるという信じ難い強さでした、ベストリフターでは59kg級セルゲイ・フェドシエンコ選手に続く2位となっています。

《テイラー・アトウッド選手》

アメリカ  28歳

男子一般74kg級2位

スクワット255kg

ベンチプレス190kg

デッドリフト277.5kg

トータル722.5kg

 

74kg級でアレクサンダー・グリンケヴィチ・サンドニック選手(ベラルーシ)と最後まで優勝争いを繰り広げ準優勝したアトウッド選手、全米予選から大幅に記録を伸ばしており今後この階級の中心選手となっていきそうです。

《イザベラ・フォン・ワイセンベルグ選手》

スウェーデン  27歳

女子一般72kg級2位

スクワット188kg(世界記録)

ベンチプレス97.5kg

デッドリフト200kg

トータル485.5kg

女子72kg級でキンバリー・ウォルフォード選手(アメリカ)に続く2位となったワイセンベルグ選手、スクワットでは世界記録を樹立しました。

スウェーデンはワイセンベルグ選手の活躍もあり、団体戦一般女子部門で準優勝しています。

《ヘザー・コナー選手》

アメリカ  25歳

女子一般47kg級2位

スクワット122.5kg

ベンチプレス62.5kg

デッドリフト165kg

トータル350kg

絶対王者チェン・ウェイリン選手(台湾)不在の女子47kg級でプエルトリコのマリア・ルイーザ・バスケス選手と優勝争いを繰り広げたコナー選手、得意のデッドリフトでは最後まで逆転を諦めない闘志を見せました。

【SBDエリート達の結果】

SBDエリート達も今年は新勢力相手に苦戦、男子83kg級のブレット・ギブス選手は新星ジョン・ハーク選手に次いで準優勝、男子120kg級のボアフィア・モハメッド選手はデニス・コーネリアス選手の圧倒的な強さの前にこちらも準優勝という結果となりました。

SBDエリートで唯一世界チャンピオンになった経験の無い男子105kg級のステファン・マニュエル選手は昨年から大幅に記録を伸ばし、サブトータルで2位に大差をつけた首位に立つなど優勝まであと一歩のところまで迫りましたが、デッドリフトを取りこぼして順位を落とし、最終的には4位と表彰台を逃しています。

SBDエリートの男子選手達が優勝を逃す中で一人獅子奮迅の活躍を見せたのが120kg超級のレイ・ウィリアムズ選手、自身のトータル世界記録を一気に30.5kgも更新しての圧勝で桁外れの怪物ぶりを見せつけました。

女子のインナ・フィリモノーヴァ選手とキンバリー・ウォルフォード選手は昨年より少し記録を落としましたが優勝、しかし女子も年々選手層が厚くなっておりフィリモノーヴァ選手は僅差での勝利でした、この二人も今後油断は出来ないでしょう。

《ブレット・ギブス選手》

男子一般83kg級2位

スクワット277.5kg

ベンチプレス208kg(世界記録)

デッドリフト305kg

トータル790.5kg

地力では優勢と思われたギブス選手でしたが以前より改善に取り組んでいた筈のスクワットの深さで赤判定をもらってしまいハーク選手を勢いに乗せてしまいました。

《ステファン・マニュエル選手》

男子一般105kg級4位

スクワット325kg

ベンチプレス207.5kg

デッドリフト305kg

トータル837.5kg

 

今回絶好調だったステファン・マニュエル選手、赤2つ点いたデッドリフト第二試技が取れていれば優勝の可能性もあっただけに惜しい試合でした。

《ボアフィア・モハメッド選手》

男子一般120kg級2位

スクワット365kg

ベンチプレス215kg

デッドリフト360kg

トータル940kg

 

ラマダンの影響があったのか得意のスクワットで精彩を欠きました、来年は本来の力を発揮してデニス・コーネリアス選手へのリベンジを期待したいです。

《レイ・ウィリアムズ選手》

男子一般120kg超級1位

スクワット438kg(世界記録)

ベンチプレス245kg

デッドリフト360kg

トータル1043kg(世界記録)

常識外れの強さで三連覇を達成したレイ・ウィリアムズ選手、スクワットは驚きの438kgに成功し世界記録を一気に10kg以上更新。

デッドリフトでも第三試技では世界記録375.5kgに挑戦、こちらは判定で赤2つと惜しくも失敗しています。

《インナ・フィリモノーヴァ選手》

女子一般57kg級1位

スクワット174kg(世界記録)

ベンチプレス85kg

デッドリフト185kg

トータル444kg

 

スクワット世界記録を成功させ、ベンチプレスとデッドリフトを得意とするウー・フゥイジュン選手(台湾)の追い上げを振り切りました、これで大会三連覇となります。

対抗馬と見られたマリア・ティー選手(カナダ)はデッドリフトを一本も引けず失格。

《キンバリー・ウォルフォード選手》

女子一般72kg級1位

スクワット177.5kg

ベンチプレス110kg

デッドリフト235kg

トータル522.5kg

 

ベストを更新した種目はありませんでしたが絶対王者らしい危なげない勝利でした、全選手唯一の大会5連覇を達成しています。

現在向かう所敵なしのウォルフォード選手ですが今回84kg級で出場したアナ・カステラン選手(ブラジル)や若手のイザベラ・フォン・ワイセンベルグ選手といったライバル達も徐々に力の伸ばし差を詰めてきています。

【まとめ】

世界クラシックも今回で5回目の開催となりました。ノーギアパワーリフティングは2012年の開始当初には予想もできなかった規模で急速に普及しており、現在は参加者数は勿論上位選手のレベルでもフルギアを上回りつつあります、その点は国内も世界もほぼ同じだと感じます。

今大会でのブレット・ギブス選手とジョン・ハーク選手のような新しい時代を象徴する二人の対決や、レイ・ウィリアムズ選手やデニス・コーネリアス選手といったこれまでの常識を覆す強さの選手の出現は、発展を続けるノーギアパワーリフティングを象徴しているのではないでしょうか。

次々と新たなチャンピオンが生まれる世界クラシック、来年は一体どんな選手が現われるのか、また一年間楽しみにしていようと思います。

 

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■コラム執筆者

神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット240kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト267.5kg
トータル662.5kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場10回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位

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