このエントリーをはてなブックマークに追加

第1回 世界クラシックベンチプレス選手権レポート(後編)

皆さんこんにちは!SBDコラムニストの鈴木佑輔です。

非常に暑い日が続いておりますがいかがお過ごしでしょうか。

ジムでもあまりの暑さに冷房が始動しました。

水分補給に加えてBCAAやクエン酸、塩分などを欠かさないようにしましょう!

さて、今月のコラムは世界クラシックベンチプレス選手権後編となります。

5月18日水曜日

この日はサブジュニアのカテゴリーに属する選手全員の試合でした。

サブジュニアとは14歳~18歳までの選手たちですが、外国人の選手は外見上中学・高校生にはとても見えません!自分より年上?と思ってしまうような選手たちが多い中、日本からも藤本竜希選手が出場しました。

階級は+120kg級、年齢はまだ16歳!堂々としたたたずまいと落ち着いた試技からは本当に高校生か??と思ってしまいます。

中身はとてもかわいらしいのですが、200kgオーバーのサブジュニア選手はもう外見が大人です。

そんな藤本選手ですが、昨年の世界ベンチプレス選手権でも優勝していて英語が堪能ということもあり、他国の選手にも全く物怖じせず、アップ場でも和やかな雰囲気で物事が進んでおりました。

スタート重量は210kg、これはサブジュニアワールドレコードで、危なげなく獲りました。

この時点で世界王者確定です。

驚異の16歳ですが、第2・3試技は222.5㎏にチャレンジも失敗でした。

本人の練習ベストは230㎏まで押しているということなので、将来的に間違いなく日本のエース格となるはずです。

それまで何度も世界大会に出場して本人の存在感をより大きなものにしていって頂きたいです。

そのためにも、確実に獲れる重量設定をして3本しっかり獲っていく試合運びをしていくと良いと思います。

この日は藤本選手一人の出場だったのでまったく忙しさは感じなかったのですが、お腹がおかしくなっていき、試合以外の時間は高熱で部屋で休む日となりました。

5月19日木曜日

朝から食欲がまったく湧かず、ビュッフェでも少量の果物を食べるにとどまりました。

1日を通してジュニアカテゴリーの選手の出番でしたが、セコンドやサポートは外してもらい、観客席から観戦していました。

59kg級からは岸本将司選手が出場です。

初めてお話しましたが、クールなイケメンです。

まだ試合歴は浅いですが、120‐125‐130kgときっちり3本取れたのはすごいです。

ただ、1位のカザフスタンの選手が1枚上手で、すべての試技で2.5㎏被せられ、僅差での2位となりました。

試合以外の時間でも現地のスタッフとコミュニケーションを取ったりIPF会長のガストンと一緒に踊ったりとなかなか将来有望な人材ですので、まだまだレベルアップしてほしいと思います。

余談ですが、以前は日本人選手のベンチプレスフォームは世界最高峰のレベルでしたが、近年は外国勢もワイドグリップ+柔軟性を生かした高いアーチを習得しています。

特にカザフスタンの選手たちは全体的に非常にレベルが高く、自分も参考になる部分が多かったです。

続いて、74kg級の本堂正達選手。

この選手は2013年アジアクラシックベンチプレスで一緒に国際大会に行って以来、個人的にも親交のある選手ですが、ジュニア世代最強のベンチプレッサーとなっています。

今大会でもポーランドの選手をかわしきり167.5㎏まで成功して優勝、ベストリフターにも輝いています。

ただし、フォームの粗さやトレーニングの方向性が独創的過ぎて、我々年長者のアドバイスが全く耳に入っていないようです。

それでも成績を残しているので怪我だけには気を付けて我が道を行ってほしいです。

この選手は以前から海外の選手と仲良くなるスキルに異常に長けていて、日本選手と過ごしている時間よりも長いのではないでしょうか。

本人曰く「相手の言っていることの80%中1割分かる」と意味の分からないことを言っていますが、他の日本人選手もぜひとも海外の選手との親交を深めてほしいと思います。

74㎏級にはもう一人、福田忠浩選手が出場し、145kgまで挙げて第4位でした。

福田選手は非常に聡明でおとなしい印象でしたが、闘志あふれる試技で、最後は銅メダル争いで152.5kgに果敢にチャレンジする姿をみて印象ががらりと変わりました。

この世代の選手たち皆に言えますが、競技歴は浅いながらも良く研究していて重量の伸び方が半端ではないので、74kg級である自分もうかうかしていられません。

指導者の手腕もありますが、将来が楽しみな選手の1人です。

そして83kg級には大堂祐輝選手が出場。

ジャパンクラシックの持ち記録を大幅に上回る160kgを挙げて銀メダルとなりました。

自分が体調不良だったこともあり、事前にはコミュニケーションを取れなかったのですが、終了後はいろいろと話をしたり世話をしたりで面白い人間でした。

ジュニア・サブジュニアの選手たちは本当に物おじせず、程よい緊張感を保ちながらもストレスを感じることがあまりないように見えました。

自分のやるべきことを把握していて、手伝いもしっかりしてもらえましたのでこちらも楽をさせてもらいました。

これからの課題としては、選手層がますます厚くなっていく中でどれだけ自分の試技を貫けるか。

指導者に教えを請うだけでなく、自分で考え行動することが大事になってきます。

選手として存在が大きくなればなるほど周りの目が気になってくるようになるので、良きロールモデルとしてこれからの世代の選手を引っ張っていくように願います。

5月20日金曜日

さて、自分の試合当日です。気分は思ったよりも悪くなく、程よい緊張感とともに時間が進みます。

この日からいよいよオープンカテゴリーとなります。

まずは59㎏級。日本の59㎏級の代名詞でもある、東坂選手が先陣を切ります。

事前情報では首を痛めており、本調子ではないようですが無難な重量選択で危なげなく優勝を決めました。

ただ、海外遠征の疲れと体の調子で世界記録チャレンジはならず、来年に期待しております。

東坂選手とも海外試合でご一緒させて頂く機会が多いですが、本当にストイックかつ、自分のペース、空気感を作り出すのが上手でアスリートとして見習いたい部分が多いです。

フォーム作りも抜群にうまいのですが、上半身の筋力も相当強く、心身の相乗作用で試技のクオリティが高められているのではないでしょうか。

続いて66kg級。齋藤敬太選手と福田将志選手のダブルエントリーです。

両選手とも国際試合の経験もあり、検量パスしてからは表情に余裕も出てきます。

事前のノミネーションではウクライナのチャップリンコ選手とジョージアのベザシェビリ選手が頭二つ分くらい抜けている感じですが、銅メダルの争いが両選手とポーランドのアダム選手の三つ巴といった様相です。

齋藤選手は肩をかなり痛めており本人も不安に思っていたようですが、本当にこの人の気迫、気合はすごいものでした。

毎試合土壇場での強さが見て取れるのですが、正直、この試合第2試技の167.5㎏にボトムの切り返し時点で挙がらずに失敗したときには表彰台争いから脱落か!?と思いました。

ところが第3試技では見事に修正して、残りは気合のみで挙げ切った姿に感動しました。本当にすごかった。

そして福田選手も第2試技で162.5㎏に成功し、第3試技では逆転の170㎏に挑みました。

惜しくも失敗しましたが、アダム選手と同重量体重差での勝利を収めました。

優勝争いのチャップリンコ・ベザシェビリ選手は世界記録連発、最後は188kgで0.5kg差でのチャップリンコ選手勝利。世界ベンチ王者の貫禄を見せつけました。

ところが、7月時点で両選手ともドーピング検査に陽性反応が出たようで、繰上りにより齋藤選手が金メダル、福田選手が銀メダルとなりました!!ですが、お二人とも自分に厳しく、ご自身が強いと思っていないようですので、真の世界王者になれるように引き続き頑張って!と言っておきましょう。

では、自分の詳細を。

まず、最終ノミネーションの時点で第1試技をしっかり獲れればシルバーは確定的でした。

自分自身の体調を加味して190kgスタートを決定しました。

世界大会でも、コスチュームチェック、重量申請は検量とともに行います。

担当の役員はそのセッションの審判をしますので、誰かを確認出来るのですが、このときのジョエル審判はやや辛口かつ細かいところをチェックする印象です。

それも含めて190kgスタートで正解でした。

検量は71.90kgと一番軽い体重でしたが、心配していたほど減っていなかったのでここで一安心。

通常であれば検量終了後速やかに食事をとりますが、今回は糖質&BCAAのサプリメントを規定量と、児玉選手に頂いたパックの糖質飲料を流し込みます。

食事が満足に摂れない状況でしたので、本当にサプリメントの存在には助かりました。

試技開始45分前からウォームアップを開始します。

20kgのシャフトで体の各部を確認し、フォームを確定していきます。

その時の状況で多少手幅やアーチの高さなどは変更していきます。

練習でも本番でもウォームアップの仕方は同じですので、20kgを数セット、70kg×3を数セット、120kg×3、170kg×1でウォームアップは終了です。

時間に余裕を持ち選手待機場へ移動します。

今回は74kg級・83kg級が同じラウンドとなりますので、日本からは74kg級児玉大紀選手、鈴木、83kg級信田泰宏選手と並び立ちます。

やはりセコンドをしているときやウォームアップ場にいるときとは選手を見る目が変わります。

同じラウンドとなるので、全員がライバルです。特に83kg級では、誰が優勝するかわからない展開でしたので、観客席から見ていても非常にエキサイティングだったと思います。

自分の第1試技の190kgですが感覚的にはけっこう重く、コントロール重視で動くとぎりぎりの感じでした。

プラットフォームの床が滑りやすく、いろいろな部位が働いているのを知覚出来ていたのを覚えています。

児玉選手は第1試技202.5kgを成功させ、第2試技では207.5kg申請です。

自分の予想ではスタート205kgで第2が210kg前後で来ると読んでいたので、ほぼ予定通り事が進んでいます。

日本でも、第2試技で205kgを申請する予定でトレーニングしていたので、第2試技は悩みましたが、体重差を考え202.5kgとしました。

第2試技に入るまでの時間は約8分程度で、やや短く感じましたがいつも通りと心がけて挑みました。

が、うまく腰が入らず失敗。

児玉選手は207.5kgを成功させて211.5kgの世界記録を狙いにいきます。

自分はここでもう一度202.5kgを申請しました。

202.5kgは、ここ最近の試合での成功重量のアベレージを上回りますので、絶対に取りたい!と、気合を入れて臨みましたが無念の失敗。

自分の試技や試合に対する姿勢を今一度見直す必要があると痛感しました。

対する児玉選手は211.5kgの世界記録更新はならず。

3月4月5月と連戦の疲れが出たということかと思いますが、それでもきっちりベストリフターを獲るのはさすがの一言です。

世界レベルでの存在感と、日本チームのまとめ役としての責任感に大いに触発されました。

同ラウンドの信田選手ですが、彼もまたアスリート意識が非常に高い選手です。

減量の方法や役立つグッズなど参考になる部分が多く、ぜひ一緒に練習をしてみたいです。

オーストラリア・ジョージア・イギリスと強豪選手の中、実力を出し切れなかった感はありますし、本人も相当悔しがっていましたが、惜しくも3位。

技術面では粗削りですが、力が強いので外国勢とも真正面から勝負できる選手だと思います。

最終セッションは93kg級・105kg。

このあたりから重量がかなり上がります。

日本からは93kg級に長谷川直輝選手が出場。

2015年世界ベンチでジュニア優勝しており、国際経験も豊富です。

本人からはまったく緊張感は感じられず、アップも淡々とやっていました。

第1試技は200kgを選択。スタート重量申請1位・2位はアメリカ、3位はジョージアで、それに次ぐ重量でしたが、なんと第1試技から潰れるという恐ろしい事態に。

このセッションではスタート重量失敗の選手が多く、プラットフォームの滑りやすさも災いしたと思いますが、どんな状況でも挙がる重量選択をするのが第1試技です。

特に国際大会では確実に1本取り、成績を残すことが日本代表としての最低限の責任ですので、この失敗を糧に来年以降の試合に向けて練習してほしいと思います。

印象に残ったのは、1位デニス選手(アメリカ)で、年齢は48歳とマスターズ1カテゴリーですがオープンで世界を制しました。

同重量体重差で2位につけたマクレーン選手(アメリカ)も38歳ですので、マスターズ世代もオープンで戦えますし、何よりアメリカの層の厚さを感じました。

来年はテキサスでの開催ですので、アメリカ人選手のレベルは格段に上がる予感がします。

この日、自分自身の競技歴で最高成績となる世界第2位となりましたが、数字を見れば平凡な記録でしたので、この借りは来年のテキサスで返したいと思います!

5月21日土曜日

いよいよ最終日です。120㎏級・+120㎏級の、超ド級の試技が間近で見られるのは大興奮します。

日本からは120㎏級に木下進人選手が登場します。

木下選手は昨年本格的にベンチプレス競技をスタートしたばかりです。

昨年近畿クラシックベンチプレス選手権でお話させて頂いて、その時マックスが200kg程度でしたが、今大会では195‐207.5‐212.5と3本成功させ、6位入賞となりました。

オープンカテゴリーで3本成功した唯一の選手です。

このクラスの上位選手たちは230kgオーバーで、優勝記録は245kgです。

国内においては200kgを挙げるとどの階級でも注目されますが、世界基準からすると200kgは当たり前のようにいますので、これからの重量級のエースとなれるように、頑張って頂きたいです。

やはり強い選手と同じセッションに入ることは将来的な成長に直結しますし、意識改革にもなります。

爆発的に強くなるきっかけになったことでしょう。

最終セッションは超級の選手たちの超ド級の試技を一観客として楽しみました。

アメリカのトーマス選手の282.5kg、世界記録でしたがまだまだ余裕を感じました。

絶対重量の迫力は超級には敵わないですが、今後のことも考えると彼らもライバル視して練習に励みたいです!

クラシックパワーリフティングのレベルが年々上がっているように、ベンチプレスでも来年以降クラシック部門の成績は飛躍的に上がっていくことでしょう。

世界レベルに置いていかれないように、日本選手全体のレベルアップが必須です。

先述したように、来年はアメリカ・テキサス州での開催となります。

正直今大会とは比較にならない選手参加人数とレベルとなると思いますので、本当の闘いはこれから始まるということです。

最終日の全セッションが終わったのち、サファリへ行き初めてアフリカらしいことをしましたが、サファリは最高でした。

チーターと写真がアフリカの思い出です笑

チーターとの2ショット
Image_6908671

あっという間の8泊10日でしたが、帰国した後、腹痛&下痢により5kg以上痩せておりました。

いまはすっかり快復し、トレーニングに励んでおります!

今月から動画配信開始いたしますので、そちらの方もお楽しみに!

コラムニストやコラム内容についてのメッセージは下記のアドレスまでお送りください。

コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp

※どのコラム宛かを明記してください。
※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。

■コラム執筆者

鈴木佑輔
長野県パワーリフティング協会副理事長
所属 B.A.D.
http://www.bodyartdesign.net/
ジャパンクラシックベンチプレス選手権5連覇
2010年~2015年
2014年アジア・オセアニア選手権MVP
66㎏級ベンチプレス ベスト記録 190.5㎏
日本記録・アジア記録保持
74㎏級ベンチプレス ベスト記録 212㎏
アジア記録保持

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連する記事