近年、パワーリフティングの女性人口は増加しています。静岡県で行われる大会でも女性の参加が増えてきました。それに伴い、女子カテゴリーの記録も大幅に向上しています。少し前までは筋トレに嫌悪感を抱く女性も多かったように思いますが、SNSの普及によりその印象も和らいできたように感じます。
女性競技者が増えてきたにも関わらず、女性特有の生理学的な変化については、アスリートの視点においても、一般的にも、まだ十分に理解されていない部分が多くあります。そこで今回は女性リフターには避けて通れない「月経とパフォーマンス」という視点でのコラムです。
1.月経周期
2.月経期とパフォーマンス
3.アスリートと基礎体温
4.月経周期と女性特有の怪我リスク
5.大会日と周期が重なった場合の考え方
6.最後に
1.月経周期
まず簡単に月経について説明します。女性の月経周期は通常25〜38日程度で、「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」の4つに分けられます。
まず、脳の視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が分泌されます。その刺激により、下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が放出され、卵巣を刺激して卵胞が徐々に成長します。卵胞からはエストロゲンが分泌されます。卵胞が18~20mm程度まで成長し分泌されるエストロゲン値がピークに達すると、下垂体から排卵を促す黄体化ホルモン(LH)が分泌され、卵胞から卵子が排出される「排卵」が起こります。排卵後、卵胞は黄体となり、この黄体からプロゲステロンが分泌されます。これらのホルモン変動に伴い、体温、集中力、筋肉の回復、可動域、痛覚感受性などが影響を受けることが知られています。
2.月経期とパフォーマンス
女性リフターのみなさんは、月経周期の中で「調子が良い時期」「調子が悪い時期」を意識したことはありますか?日本人女性の約70〜80%は月経前に何らかの不調を自覚しているといわれています。そのため、多くの女性リフターも、月経周期によって主観的コンディションが変化すると感じているのではないでしょうか。
630名のトップアスリートを対象とした調査では、月経周期と主観的コンディションに関連があると回答した選手は91%に上りました。また、その調査では、主観的コンディションが最も良いと回答が多かった時期は「月経終了後数日目」、次いで「月経終了直後」でした。
みなさんはいかがでしょうか?私自身は、月経開始日から2日目にかけて調子が悪いと感じることが多いです。研究でも、卵胞期初期(月経中)にパフォーマンスがわずかに低下する可能性が示唆されています。
ただし、月経中や月経前の時期である黄体期にコンディションが良いと回答するアスリートもおり、主観的コンディションの良い時期はアスリートごとに異なることが分かっています。
3.アスリートと基礎体温
私は過去2回ほど月経が止まったことがあり、その際に基礎体温を測っていました。基礎体温は脇で測る通常の体温とは違い、毎朝起床直後、布団から出る前に専用の婦人科体温計を使って舌の裏で測定するものです。
余談ですが、過去2回生理が止まった時はエクイップベンチプレスに取り組んでいたときと、転職した時でした。婦人科を受診したところ、原因はストレスとのことでした。
基礎体温を測る主な理由は、自分の卵巣からきちんと排卵が行われているか予測するためです。排卵がある女性では図のように低温期と高温期がグラフに現れます。一方、排卵がない場合は、排卵後に分泌されるプロゲステロン(体温を上昇させる働きがある)が分泌されないため、高温期が現れず低温期のみになります。
基礎体温は妊娠を希望する女性が排卵の時期を知るために測定するものとしてよく知られていますが、競技者にとっては「月経周期とコンディションの関連」を知る手段にもなります。まずは、本当にコンディションと周期が関連しているのか、再現性があるのかを確認することが重要です。実際には関連がない場合もあるからです。
また、基礎体温は利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability)の兆候がないかを確認することにも役に立ちます。利用可能エネルギー不足になると、高温期が短縮し、改善されなければ無排卵となるため低温期のみになります。これはパフォーマンスに大きく関わるのはもちろん、この状況が続くことで疲労骨折のリスク増加にもつながります。
とはいえ、起床直後に布団の中で体温計をくわえる作業は、正直とても億劫でした。寝ぼけて体温計を落としたことも何度もあります。現在、私は基礎体温を測定していませんが、測定していたときは自分の身体を見直す大きなきっかけになっていたのは間違いありません。毎日の朝に少し余裕がある人、月経周期のコンディションに悩む女性は一度記録をつけてみてもいいかもしれません。
4.月経周期と女性特有の怪我リスク
女性は解剖学的要因により、膝前十字靱帯(ACL)損傷リスクが男性よりも高い傾向があります。さらに、一貫性はありませんが女性は卵胞期に関節弛緩性が増し、ACL損傷リスクがわずかに上昇する可能性が報告されています。非接触型のACL損傷は、ジャンプの着地やターン動作などをきっかけに、急激な膝の外反(ニーイン)で起こることが多いとされています。
スクワットの立ち上がりの際、膝を内側に入れる外反変化を伴う「ニーイン」は実際にはパワーリフターのテクニックとして使われることがあり、私自身も意識的・無意識的に使うことがあります。ただし、スクワット中の外反は損傷時の急激な外反とは異なり、コントロールされた比較的ゆっくりとした動きです。そのため、スクワットが直接的にACL損傷の原因になる可能性は低いと考えられます。(ACL損傷の原因は膝だけでなく股関節なども関わってきますが)しかし、癖として過度に繰り返される場合、靭帯や腱、半月板などへの慢性的ストレスが痛みにつながる可能性はあります。
パワーリフターにとってコントロールされているニーインは必ずしも悪とは言えないと個人的には考えていますが、競技者は怪我を予防するためにその影響が歩行や日常生活に支障が出ないように注意するべきでしょう。
5.大会日と周期が重なった場合の考え方
多くの女性競技者が悩むポイントが、「大会と周期が重なる」ケースです。しかし、月経中にコンディションが良いと回答する選手もいることから、必ずしもパフォーマンスが低下するとは限りません。実際には睡眠・栄養・直前の疲労などの要因の方が記録に大きく影響していると思われます。大切なのは、周期を把握した上でピーキングや疲労管理を行い、当日の試技に余裕を持たせることです。
また、重なることが懸念される場合は、ピルの活用という選択肢もあります。怪我のリスク低減やPMS(月経前症候群:月経の3〜10日前に現れる、心や身体の不快な症状)のコントロールなどポジティブに働くことも多く、トップアスリートの活用例も増えています。ただし、人によっては副作用も見られることがあります。継続服用により軽減することが多いですが、強い副作用がある場合は薬剤の変更や中止を検討し、必ず婦人科医に相談してください。ピルについては2025年度全日本パワーリフティング一般女子57kg級で一緒に戦い、優勝した近藤風花選手にインタビューさせていただくことになりましたので次回更新をお楽しみに。
6.最後に
女性リフター、アスリートの身体のほとんどは月経周期によって変化しますが、それは弱点ではなく、「理解して活用できるデータ」です。月経周期上の主観的コンディションがはっきりしている場合は、周期に合わせたトレーニング調整を検討するのもパフォーマンスを高め、怪我のリスクを減らすための有効な手段ではないでしょうか。上手に月経と付き合いながら楽しくトレーニングを継続していきましょう
参考文献
1)McNulty KL, Elliott-Sale KJ, Dolan E, Swinton PA, Ansdell P, Goodall S, Thomas K, Hicks KM.
The Effects of Menstrual Cycle Phase on Exercise Performance in Eumenorrheic Women: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Medicine. 2020;50(10):1813–1827.
2)東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 編.
Health Management for Female Athletes Ver.3 ―女性アスリートのための月経対策ハンドブック―.第3版.東京:東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科;2018.
(初版2016,第2版2017.※第1・2版は国立スポーツ科学センター発行)
3)Wojtys EM, Huston LJ, et al.
The Effect of Menstrual Cycle and Contraceptives on ACL Injuries and Laxity: Systematic Review and Meta-analysis. 2017.
4)古賀英之.
ACL損傷の受傷メカニズム.日本臨床スポーツ医学会誌.2019;27(3).(シンポジウム1「ACL損傷・再損傷を予防する」)
◆コラム執筆者

福島未里(ふくしまみさと)
静岡県富士市FTGYM所属
FTGYM(https://ft-gym.com/)
【パワーリフティング(ノーギア)ベスト記録】
スクワット 145kg
ベンチプレス 113kg(一般女子57kg級 日本記録)
デッドリフト 165kg
トータル 423kg(一般女子57kg級 日本記録)
【ウェイトリフティング ベスト記録】
スナッチ 72kg
クリーン&ジャーク 95kg
【大会成績(抜粋)】
2013年 アジアベンチプレス選手権(ジュニア57kg級・フルギア)優勝
2014年 世界ベンチプレス選手権(ジュニア57kg級・フルギア)準優勝
2017年 ジャパンクラシックベンチプレス選手権(57kg級)優勝
2018年 ジャパンクラシックベンチプレス選手権(57kg級)優勝
2019年 世界ベンチプレス選手権(一般女子57kg級)5位
同年 ジャパンクラシックパワーリフティング選手権(57kg級)優勝
2022年 ジャパンクラシックパワーリフティング選手権(57kg級)優勝
2023年 静岡県ウェイトリフティング選手権(59kg級)優勝
2024年 全日本女子選抜ウェイトリフティング選手権(59kg級)10位
2025年 国民スポーツ大会 パワーリフティング(女子中量級)3位
2026年 全日本パワーリフティング選手権(57kg級)3位
【保有資格】
•日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
•NSCA-CSCS
•柔道整復師
•産前産後アスリートサポートスペシャリスト





