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アスリートの体重コントロール:階級別競技の場合

読者の皆様、こんにちは。

一日の中でも寒暖の差が激しい季節ですが、体調を崩したりはしていませんか?

実は日々激しいトレーニングで身体を酷使するアスリートは、一般の方以上に、このような気温差や気候の変化に敏感で、気を抜くと体調を崩し満足のいくトレーニングが出来ないばかりか、せっかく積み上げてきたコンディションを崩し、数ヶ月の努力が水の泡となってしまう事もあります。

ギリギリまで高速で走るように整備されたレーシングカーが少しの気温の変化や、路面の変化、僅かなコーナリングミスやブレーキング、ミッション操作ミスでエンジンが停止したり、大クラッシュを起こすのと同じように、ギリギリまでスピードや筋出力を高めるために調整してきたアスリートの身体もまた同じように、栄養摂取、水分摂取、睡眠時間・質、生活空間の気温・湿度、精神的ストレスなどなど、僅かな調整ミスで大事な本番でのパフォーマンスが狂ってしまいます。

今日はその繊細なアスリートのコンディション調整の中でも特に重要で難しい体重のコントロールについてお話させていただこうと思います。

【計量をパスする事が目的なのか、体組成自体を改善する事が目的なのか】

アスリートのウエイトコントロールには大きく分けて2種類あります。

一つは特に○○kgにしなければならないという制限は無く、競技特性に求められる範囲内で筋肉を大きくし体脂肪率を低くしようとするもの。

もう一つは競技の中で階級が決められていて、試合に出場するために必ず決められた体重内にして計量をパスしなければならないもの。

基本的にはどちらも身体の筋肉量は出来る限り多くして、無駄な体脂肪は少なくする事には変わりはありませんが、階級制競技の方では、計量前に瞬間的に水分を調整し計量だけパスして、試合開始までには消化の良い食事と共に水分を摂り、実際には規定体重よりも少し重くして試合に出る方が有利となる競技もあります。

この水分の調整でまずイメージされるのがプロボクシングの調整だと思います。

あしたのジョー(少し古いですが)などのアニメでも描かれて強烈なイメージがあり「減量」というと水分を控え、服を着込んでサウナに入るものだという、間違った認識を持ってしまっている人も未だにいると思います。

【ウエイトトレーニングと体重調整】

上記どちらのタイプの体重調整にもウエイトトレーニングは非常に効果を発揮します。

何故ならばウエイトトレーニングで筋肉量が増える事で身体の基礎代謝が高まり、無理な食事制限を行う事無く体脂肪率を緩やかに下げる事が出来るからです。

勿論、各競技の特性に基づいて求められる体型やバランスはあると思いますが、それを考慮したうえで、全身をバランス良く鍛える事で無駄な脂肪を減らし除脂肪体重を増やせばパフォーマンスを向上させる良い条件が整いますし、普段から無駄な体脂肪を付けない事で試合前に急激な体重調整を行い、パフォーマンスを崩すリスクを負う事を防ぎます。

【階級制競技の場合の注意点】

階級制競技の場合、最重量級以外のカテゴリーでは場合によってはウエイトトレーニングで筋量が増加し過ぎて階級の枠内に体重が収まりにくくなる事もあるかも知れません。

勿論これも競技特性を考慮し、競技に有利な身長:体重比なども考慮しなければなりませんが、本来ならば筋肉が増えて筋力が向上し、パワーとスピードが向上するのならば、それに適した階級にランクアップするのはパフォーマンス向上面で考えればポジティブな事です。
(打撃系格闘技等で身長が低いと不利な場合等は別)

しかしながらベスト体重が規定の範囲内を少し超えるぐらいの数値にある選手は、当然少し体重を減らして下の階級で戦った方が優位に立てるという競技も多く存在します。

このような、既に競技特性に合致した、体型を低い体脂肪率で獲得していながら、更に数キロを減らして計量をパスしたい場合には、通常のゆっくり筋量を増やして脂肪を減らす調整以外に、最後の数日~1週間程度で体内の水分量を調整し計量をパスしたらその後、試合開始時間までに、速やかに元に戻して試合に臨むという調整方法が必要となります。

【水分カットによる計量パスの注意点】

よく「サウナで○○kg落としてきた」とか「2日前から水分を摂っていない・・・」などと色々な調整をしている人を見かけますが、試合に出る本来の目的は練習してきた自分のパフォーマンスを最大限に発揮する事であり、直前に無理な水分カットをして練習で出来ていた事が本番で出来なくなるような調整なら、しないで1階級上げた方がマシでしょう。

また、プロボクシングやボディビルの全国大会などで最後の1週間で5kg近い水分をカットしたなんていう伝説級の話も聞きますが、それらの多くは計量を前日、若しくは試合の数時間前に済ませるタイプの競技であり、計量をパスしてから水分とカロリーを補給してボロボロだったコンディションを試合開始時間までに戻すだけの時間がある場合が多いので、伝説級の減量を普通の当日計量の競技の人が苦し紛れに真似をしてもパフォーマンスを下げてしまったり、最悪の場合は試合が出来ないような状態になってしまいます。

ボディビルディングに至っては、筋肉を見せる競技であり、当日の筋肉の機能自体よりも如何に見えるかの方が重要であるため、
極限まで皮下水分を取り除き、バックステージで立てないようなフラフラのコンディションでも、ステージ の上で痩せ我慢が出来れば良いので、彼等の伝説的な調整方法は、コンテストに到るまでの食事制限やトレーニングの部分では大いに参考になりますが、最後の微調整の部分は他競技のアスリートが真似してはいけませんし、簡単に真似出来るものでもありません。

【水分カットの許容範囲】

このコラムの読者の多くはパワーリフティング競技者であると思いますので、私の経験を2つ紹介します。

一つ目は2011年春のノーギア大阪府パワーリフティング選手権大会での失敗です。

この年は夏にボディビルの体重別の大会に70kg級で出場するために前年の秋・冬を78kg前後で過ごし、体脂肪率も10%程度でキープしていました。

この大会には74kg級でエントリーしたので4kg程度の減量が必要だったわけですが、私はこれを水分の調整のみで行いました。

調整方法は食事もトレーニングも全く変えずに1週間前から毎晩サウナに通い汗を出し、土曜日の夕方には76kgにしておいて試合当日の朝は75.5kg。

後は試合会場までの移動の間にサウナスーツを着込み、汗をかきながらガムを噛んで唾を吐く(汚い話しですいません)というものでした。

計量では予定通り73.98kgでギリギリパス。

すぐさまスポーツドリンクを2ℓ飲み干し食事も摂って、恐らくスクワットの開始時間には77kg程に戻っていたと思います。

しかしウォームアップを始めてみると、全く体に力が入らず手が震え、寒気を感じるようになっていました。

そしてスクワットの第一試技は無事に挙げる事が出来ましたが、第二試技でしゃがんだ瞬間に腹筋から殿筋、内転筋、ハムストリングス、カーフ、足の裏まで、胸から下の全ての筋肉が同時に攣ってしまい、潰れて立てなくなってしまいました。

体がガチガチに固まったままラックの下から引きずり出すように助け出され、体育館の端まで引きずって移動させてもらうという事態に陥りました。

しかし有難い事に、多くの選手や関係者の方々から水分や塩分を分けて頂き、色んな人がマッサージやストレッチをしてくれて何とか痙攣が治まり、再び立ち上がり、「これだけ助けてもらって棄権しては駄目だ」と思い、何とか攣りまくりながらもベンチとデッドを最低限の重量で2回ずつ第二試技までは成功させ、結果的に優勝し最優秀選手賞までいただいた思い出深い大会です。

この大会で私が行った水分カットは体重の5.12%程度のものでした。

勿論、筋肉量によって割合は変わると思いますし個人差もかなりあると思います。

次に私が自己ベスト記録のトータル651kgを記録した2012年の秋の近畿大会の場合です。

この大会は私にとってはジャパンクラッシックという大きな大会を終えて、次のアジアクラッシックに向けての繋ぎの大会として勝ち負けよりも記録を優先した大会でした。

体重は85kgぐらいで安定していて体脂肪率も14%程度でした。

2週間ほど前から少し食事の量を意識して、大会前日の朝には特に無理する事無く84kgジャスト。

前日だけ少し長めにお風呂に浸かってリラックス。

夕食から後だけ少し水分を控えて、朝起きたら自宅の体重計で83.3kg程度でした。

「300gぐらい途中のサービスエリアでトイレに行けば落ちるだろう」
そう思って特に何もせず車で移動し計量に臨むと、なんと83.2kgでオーバー。

人生初の体重オーバーを経験しました。

仕方ないのでまたしても得意のガム噛み唾吐き作戦で(ホント汚くて申し訳ございません)和歌山の綺麗な海を眺めながら、こんな事もあろうかとサービスエリアで購入したみかん味のガムを噛み、只管ペッペと30分ほど頑張って再計量に臨むと83.00kgジャストでパスしました。

しかしこの大会は何故か始まってしまえば絶好調でスクワットでいきなり当時の日本記録241kgをマーク。

苦手のベンチで第三試技だけ失敗してしまったものの、デッドリフトでも自己ベストの260kgを挙げ、トータルでも自己ベストの651kgでした。

この大会で私が行った水分カットは体重の2.35%でした。

この程度であればパフォーマンスには全く影響はありませんでした。

これはあくまで私の経験であり、筋肉の多い人ほど水分の出し入れの許容量も大きくなると思われます。

また体質も人によって違うので、56kg級で10kg近い水分カットをして試合に出て優勝してしまう人もいるぐらいです。

一概には言えませんが、一つの参考にして頂ければ嬉しく思います。

【水分を出す為にはひたすら汗をかけば良いのか?】

先に述べたプロボクシングのイメージからサウナや厚着しての運動で汗をかいて水分を搾り出そうとする人が多いですが、当然試合前にこれらをやり過ぎると疲れてしまいますので効率的な方法とは思えません。

一番効率良く体内から水分を出す方法は、当たり前の話ですが尿を出す事です。

そしてこれも当たり前の話ですが、水分を普段から沢山摂取している人ほど尿の量も回数も多いです。(内臓に問題があれば別ですが)
私の場合は普段から日常生活で4ℓ、トレーニング中は2ℓの水分を摂る事を心がけています。

これは今の私の生活では特に苦労無く出来る範囲の分量です。

因みにボディビルの大会前は日常生活で10ℓ、トレーニング中に2ℓでした。

これは流石に一日中トイレの場所を確認するぐらいでした。

水分を多く摂る一番の目的はトレーニングと同じく身体の基礎代謝を高める事ですが、同時に余分な老廃物等を早く取り除き身体をクリーンに保っておきたいという意味もあります。

私の場合、通常は就寝前と起床時で2kg程度体重が落ちるので寝ている間に多くの水分を失っている事になります。

大会前日の夕食時以降の水分を控えるだけでも翌朝は更に1kgは体重が落ちています。

普段から身体の水回りを良くする事で余計な汗をかくための運動をする事無く、すんなり尿で落とす事が出来ます。

【食べ物を変えて尿を出す方法の注意点】

また、ボディビルダーの調整方法でよく行われるのが、利尿作用のある食品を食べて尿を出やすくするという方法です。

私の場合はアスパラガス・トマト・きゅうり・ブロッコリーなどが効果的でした。

しかしカリウムを多く摂りナトリウムを控えれば確かに体内から水分は出て行くのですが、同時に電解質のバランスを崩し、試合中に攣りやすくなるリスクも負う事になります。

ですので普段から攣り易い人にはお勧め出来ません。

もっと簡単なのは数日前から低炭水化物の食事をして筋グリコーゲンを枯渇させれば、水分は抜けて体重は落ちます。

しかしこれも計量後に食べても筋肉内にグリコーゲンが戻るのが間に合わず、ぺしゃんこの筋肉のままスクワットのウォームアップが始まってしまうなんて事になりかねません。

何でもそうですが、やり過ぎはパフォーマンス低下のリスクを大きくします。

食品にしてもダイエット方法にしても普段から心がけていなければ試合直前だけやるとなんでもギャンブルのようになってしまいます。

食べ物を変えるにしても極端な事はせず、期待値も最後の200~100gぐらいに留めるべきでしょう。

【自分に合った準備期間を知る】

体重のコントロールに関して言えば、一番有効なのは経験値です。

つまり自分の身体で何度も体験する事で、自分にとってどのような食生活が良いのか。どのようなトレーニング量が良いのか。
どのぐらいの期間を設けるのが良いのか。

これらを理解し、苦しくなった時に、あまり多くの情報に左右されないようにするべきだと思います。

勿論、優秀なコーチからのアドバイスや、雑誌やネットで情報収集する事は悪い事ではありません。

しかしあなたの身体は最終的にはあなた自身でしっかり管理してコントロールしなければ良い結果は得られません。

「自分の身体の事は自分が一番良くわかっている」こう自信を持って言えるように、しっかりプランを立てて実行し、必ず記録を残す事です。

また、加齢や筋肉量の変化によっても体質は変わります。

数年前の調子の良かった時と同じ調整方法を行っても身体自体が大きく変わってしまっているなら、別人になったつもりで、また
データを取りながら今のベストチョイスを考えなければなりません。

最後に繰り返しになりますが、試合間際になってギャンブル性の高い方法に頼る必要の無いように早目の準備を心がけましょう。本当のギャンブルと同じで運良く成功しても次また当たるとは限りません。

失敗しても成功しても毎回学ぶ事が多いのが調整の楽しいところですが、出来れば次に繋がる自分だけのデータを沢山得て、強くなっていきたいものです。

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■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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