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フックグリップ

デッドリフトのグリップ、これは多くのトレーニング実践者やパワーリフターにとって共通する悩みだと思います。

特に、西洋人と比べて手指の短い傾向にある日本人選手にとっては、大きな課題となっているのではないでしょうか。

私もグリップはあまり強い方では無く、オルタネイトグリップで粘ると右手が外れてしまう傾向にあり、これがフォームにも悪影響を与えていました。

今回は、一つの解決策として今私が練習している、フックグリップについて書かせて頂こうと思います。

動画は400kgデッドリフター、ブラッド・ギリンガム選手、オーバーハンドのフックグリップを使う代表的な選手です。

【フックグリップとは?】

フックグリップとは、バーベルを握る際、親指を内側に巻き込むようにし、両手をオーバーハンドで持つものです。

この握り方は、ウェイトリフティングのクリーンやスナッチ等で使われている方法ですが、一般的なトレーニングやパワーリフティングのデッドリフトでも有効で、一部のパワーリフティング選手もこのグリップを採用しています。

写真1

このように親指を内側に巻きつけて握り、私の場合は親指の爪に薬指を被せるようにして、人差し指・中指・薬指の三本で親指を押さえます。薬指は被せず中指と人差し指の二本で押さえる選手もいるようです。

【フックグリップの主なメリットとデメリット】

《メリット》

・適性のある選手の場合、慣れればオーバーハンドでもオルタネイトと比べて同等以上のグリップ力を得られます。

・オーバーハンドでバーベルを保持する事ができるので、ストラップを使った時のように身体の使い方が左右対称になり、バランスの良い姿勢で挙上する事が可能になります。

(稀にフックグリップ+オルタネイトグリップの選手もいますが、その場合オーバーハンドで保持出来るというフックグリップの利点が消えてしまう事もあり、あまり一般的ではありません。)

・握るというより指先に引っ掛ける感じになりますので、より肩や腕の力を脱力しやすくなるのと、オルタネイトと比べ腕が長く使え挙上距離が短くなる効果で、挙上重量のアップが期待できます。

《デメリット》

・親指に大きな負担を掛ける事になり、怪我や痛みのリスクがあります。

・掌の大きさや指の長さ等、ある程度の身体的適性が無いと、オルタネイトよりもグリップが弱くなる可能性があります。

・ワイドスタンスデッドリフトではフィニッシュの時に腿に指が引っ掛かります。

★注意事項★

上記のデメリットの中でも一番の問題となるのが親指への負担で、慣れないうちは強い痛みがあります。

更に、この親指への負担は長期的には親指の麻痺といった故障に繋がる可能性もあるとのことです。

実際、私もフックグリップの練習をしている過程で、親指の皮膚に痺れのような違和感を感じる事があり、人によっては親指を痛める事で日常生活や仕事に支障が出る可能性もあるかもしれません。

他にも、私と同じ所属チームのパワーリフターの方で、フックグリップでデッドリフトをやっていて親指の爪が取れてしまった選手もいます。

こういった話を聞く限り、オルタネイトと比べメリットはありますが同時にリスクも大きな方法と言えそうです。

フックグリップを取り入れる選手は、くれぐれもこれらの点について覚悟した上で練習して下さい。

【フックグリップの練習について】

フックグリップ自体は難しいテクニックでは無く、ある程度の指の長さがあれば誰にでも可能なもので、習得の如何は痛みの克服にかかっていると言えます。

これには少しずつ無理せず慣らしていくのが肝要と感じました。

慣れない内は特に指の痛みが強いですので、最初はアップだけフックグリップで行うとか、ハイレップをやるなら1レップ目だけフックグリップで行い、2レップ目以降はオルタネイトに持ち替えるといった方法でもいいと思います。

他にも、痛みの軽減にこれらの道具を使うのが有効と考えられます。

テーピングの利用

親指をスポーツ用のテーピングで保護すれば負担を軽減する事が可能です。

この時使用するテープは、簡単に破れたり剥がれたりする物で無ければ何でもいいと思いますが、伸縮性の無いテープは親指が曲げにくくなりフックグリップをやり辛くなりますので、伸びないテープよりもある程度伸縮性のあるテープの方が適しているでしょう。

多少値は張りますが、アメリカ製のフックグリップ専用テープというのもあります。

親指にテーピングを巻いた状態、写真ではフックグリップ専用テープを使用しています 写真3

ストラップの使用

ストラップを上手く使用すれば親指の負担を調節する事ができます。

ストラップは写真のように小指側にずらして巻くと親指のフックを邪魔せずやりやすいでしょう。

この時、ストラップをあまりしっかり巻いてしまうと親指の負荷が殆ど無くなってしまいフックグリップの練習になりませんので、緩く巻くなどしてある程度親指に負荷が残るようするのが良いと思います。

私の場合、フックグリップでハイレップのトレーニングを行うと途中痛みで集中力が切れてしまうので、ハイレップ練習の時はストラップを緩く巻いて使用するようにしています。

写真2

テーピングやストラップは、ルール上パワーリフティングの試合では使用できませんが、練習ではこれらの道具を使って親指の負担を減らし、徐々に慣らしていくのが有効でしょう。

【実際にフックグリップを試してみて】

私自身、11月8日に参加した愛知県パワーリフティング選手権大会の一ヶ月前からフックグリップの練習を開始し、なんとか試合で使える状態まで持っていく事ができました。

残念ながらデッドリフト自体の調子がイマイチで記録としては自己ベストを7.5kg下回る255kgでしたが、グリップの感覚は非常に良く、もしオルタネイトグリップで出場していたら記録はもっと落ちていたのではないかと思います。

《フックグリップでのデッドリフト255kg》

私は元々デッドリフトのグリップに不安があり、バーベルを握り込む癖があったので、肩にも力が入りがちだったのですが、フックグリップでは肩の力を抜きやすくなり腕も長く使えるのでファーストプルがかなり楽になりました。

グリップの強さは現時点でオルタネイトと同じくらいですが、もう暫く練習すればグリップ力でもオルタネイトよりフックの方が優勢になるのではないかと考えています。

親指の痛みに関しては、試合では興奮している為か練習の時ほど気になりませんでした。

しかし試合の後は左手の親指に若干の痺れが残り、それが完全に消えるまで三週間程掛かりました、やはり親指の負担は大きいと感じます。

【まとめ】

パワーリフターや一般的なトレーニーでフックグリップを取り入れている選手はかなりの少数派であり、誰にでも合うテクニックではありませんが、適性があればグリップの改善や記録アップに繋がる可能性のあるものです。

自己責任ではありますが、興味があり親指の怪我や痛みのリスクも厭わないという方は一度試してみてもいいと思います。

試す際は、いきなり高重量を持つとその痛みで気持ちが折れてやめてしまう事になりますので、上記の方法を使いつつ親指を少しずつ慣らしていってみて下さい。

私もこのままフックグリップの練習を続け、来年2月のジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会までには完全にマスターしたいと考えています。

私にとってデッドリフトは長年記録が停滞気味で少し行き詰まっている感じのある種目なのですが、先回のコラムでご紹介したハイベルトと今回のフックグリップ、この2つのテクニックをマスターして停滞を破るきっかけにしたいですね。

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■コラム執筆者

神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット237.5kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト262.5kg
トータル660kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場9回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位

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