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ウエイトリフティングのススメ

皆様には趣味と言えるものがありますか?
このコラムをご覧になっている方はきっと「趣味はトレーニングです」と言う方も多いのではないでしょうか?またはトレーニング(パワーリフティング)は生活の一部であり趣味かと言われればそうでもないような…と言う人もいると思います。お金はもらっているわけではないけれど趣味かと言われればそうでもない。特にトレーニングジムを経営しているパワーリフターやボディメイク大会に出場する方は競技の経歴が仕事につながることも多いので、もう余暇時間に楽しむレベルではないと思います。
私もどちらかといえばパワーリフティングは仕事につながるものでもあり、趣味の範囲は超えていると感じています。では趣味はなんですかと聞かれたら、ここ最近はモルモットが車になった世界を描くストップモーションアニメにトキメキが止まらなくなり、羊毛フェルトでマスコットを作る事に精を出しています。刺しゅうもその前に少しハマっていたので、ハンドメイドと答えるでしょうか。
合わせてもうひとつよく答えるのがウエイトリフティングです。パワーリフターだったら、一般の方に競技を説明した時は「これでしょ?」とバーを頭上に持ち上げるポーズを取られたことがあるでしょう。パワーリフティングはウェイトリフティングとよく混同されます。違うと説明することがもうめんどくさくなっている人も多いはず。筋トレをしない方からしたら「同じものじゃないの」と思うでしょうが、今回は趣味のウェイトリフティングを始めた理由とその魅力についてお話したいと思います。

『私がウエイトリフティングを始めたきっかけ』
NSCA認定CSCSやCPT、JATIなどのトレーニング指導者の資格を持っている方であれば、ウエイトリフティングに一度は触れた機会があるはずです。習うのはウエイトリフティングという競技としてではなくクイックリフトと呼ばれるようなアスリートのパフォーマンスアップにつなげるためのトレーニングとしてだとは思います。私も大学時代クイックリフトの授業がありました。授業でそこそこ形にして単位を貰いはしましたが、実践する機会は失われました。その後、私がウェイトリフティングができるようになりたいと心から思った出来事がありました。それは転職です。
日本スポーツ振興センターでハイパフォーマンスサポート事業トレーニング担当として女子柔道のトレーニングサポートをすることになり、主な活動を国立スポーツ科学センター(JISS)に移すことになりました。JISSトレーニング体育館ではさまざまな競技のアスリートが日々パフォーマンス向上のためにトレーニングに励んでいます。アスリートが個人的に利用することももちろんできるのですが、多くのアスリートにはトレーニング指導員が付き、試合に合わせたプログラム作成から実技指導までサポートを行います。そこでは多くのトレーニング指導員0が美しい実技を交えながらクイックリフトの指導をしている光景がありました。私はめちゃくちゃ焦りました。「やっぱりアスリートにトレーニング指導するのであればウェイトリフティングができるようにならなければいけないんだ!」と思ったのです。(今思うと割と偏った考え方です。できることに越したことはないと思いますが、できなければいけないという訳ではまったくないと思います。)大学助手として働いていた時、クイックリフトの授業のサポートで「ちょっとお手本をやってみて」と実技を学生に見せましたが先生に「下手になった?」と言われたことも頭をよぎり、早急にウェイトリフティングをやらなければと決意しました。
 そんな時、代々木にクロスフィットジムができることを知りました。そこではウェイトリフティング全日本チャンピオンである平岡勇輝さんが指導されるとのこと。平岡さんは静岡県出身でFTGYMにも来てくれたことがあり、夫とも知り合いでした。そしてこれはチャンスと夫を引き連れ体験へ行きました。(1人では怖かったので)体験では丁寧にスナッチを教えていただき、もともとクロスフィットにも興味があったので入会することに決めました。
 頻繁に通えていた訳ではないもののコツコツ練習を重ねると重量も持てるようになり、うまくできた時の爽快感や元々の気質と相まってかズブズブとウェイトリフティング沼に沈んでいきました。仕事のために習いたい!から今は好きで続けています。

『ウェイトリフティングの魅力』
さて、前置きが長くなりましたが、選手のサポートをするために上手になりたいから楽しくなって今や趣味になったウェイトリフティング。独断と偏見に満ちた私の思うウェイトリフティングの魅力を語りたいと思います。

① わかりやすく「なんかすごい」
床から引き上げるだけでも大変な重量を頭上まで素早く持ち上げる。未知の世界すぎて自分にはできないな…と言いつつも心のどこかでやってみたいと一度は思ったことがあるのではないでしょうか?またウェイトリフティングは写真映え動画映えします。今のSNS時代にピッタリです。わかりやすく「なんかすごい」と思えてかっこいいです。

② バシッと決まった時の快感が良い
ウェイトリフティングは少しのズレで失敗になる確率が高く、うまくいかないことも多いです。しかしよいフォームを習得していくと、とても軽く感じることがあります。重たい重量でもフォームがうまくなると軽くなるのです。パワーリフティングでもそのような感覚はあると思いますが、パワーリフティングに比べて速い一瞬の出来事であるためバーをキャッチできた瞬間の高揚感と快感をより感じます。

③ 重量で自分の成長がわかる
これはパワーリフティングと共通ですがウェイトリフティングは1キロ刻みで重量設定することも多いので、自分が少しでも成長している感をより味わえます。

④ バーベルを頭上から落とす快感
多くのトレーニーたちは「器具は丁寧に扱いましょう」という教育を受けてきたと思います。ダンベルを放り投げるなんてもってのほか、ガシャガシャウェイトを鳴らしながらマシンを使っている人がいたら即刻スタッフが注意するはずです。いつか器具を雑に扱ってみたい…なんて夢を描く方はいないと思いますが、バーベルを落とすことが合法にできるのがウェイトリフティング。危険を避けるためにも上手に落とすことが必要になります。普通にトレーニングをしている方が初めてウェイトリフティングをした際には頭の上から落とすのが怖いという方も多いです。ちょっと悪いことをしているような背徳感もあり個人的には気持ちいいと感じます。

その他たくさんの魅力がありますが、私は始めた環境がとても良かったと思っています。私が通っていたジムはもともとクロスフィットと並行してウェイトリフティングクラスがあったので、クロスフィット特有のグループみんなで励まし合いながらワークアウト(トレーニング)を行うという雰囲気が確立されていたように感じます。ただコーチに教えてもらうだけでなく、そこで一緒にトレーニングをしている会員同士で声をかけ合いながら楽しくトレーニングをしていました。性格上、黙々と1人トレーニングするだけは飽きてしまうので、ウェイトリフティングを楽しいと感じさせてくれる仲間がいたからこそあの場に通い続けたのだと思います。

 

チャレンジに成功した時に仲間がハイタッチを求めてくれる

『パワーリフターがウェイトリフティングを行うメリットとデメリット』
個人的に感じたメリットは「スクワットが深くしゃがめるようになった」ことです。私は初めてのパワーリフティングのブロック大会(静岡県だと東海大会)でスクワットのしゃがみが浅く、三振(すべて失敗)して失格に。その時の私は深さがどこまでいけば白(成功試技)なのかいまいちわかっておらず、深くしゃがんでいるのになぜ赤(失敗試技)なのか本気で腹を立てていました。そんな中、並行してウェイトリフティングの練習をスタートしました。ウェイトリフティングのスクワットは基本的に首の後ろの高いところで担ぎ、下まできっちりしゃがむハイバーフルボトム。キャッチの際、バーの下に潜り込む必要があるので思いっきり飛び込んで一気にフルボトムまでしゃがむ練習もしました。普段の練習でこれに取り組むことにより、しゃがむことに対して恐怖心がなくなりました。ボトムでつぶれるということに耐性がついたのでしょうか。パワーの試合が近づくにつれて、ハイバーよりも低く担ぐローバーでのスクワット練習に切り替えた後も無意識に深くしゃがめるようになりました。パワーリフティングの3種目中スクワットは得意な種目ではありませんがしゃがみで赤を取られることが減ったため、心の余裕を持って試技に挑むことができるようになりました。

パワーリフティングでの
ローバースクワット
ウェイトリフティングではフロントスク
ワットでボトムまでしゃがむことも多い

デメリットは「デッドリフトのフォームがまったく別物になる」ことです。ウェイトリフティングでデッドリフトと呼ばれる動きの多くは「スナッチデッドリフト」または「クリーンデッドリフト」と呼ばれるものです。これらの多くは床から膝下までのファーストプルを引いた後、膝上から直立姿勢までのセカンドプルにスムーズに移行し、そこからスナッチないしはクリーンをするための軌道を描きながら引きます。パワーリフティングのデッドリフトは膝を伸ばし、直立姿勢まで持ってきて肩が返ったら終了なのに対し、ウェイトリフティングのデッドリフトは途中経過であり、バーベルを引き上げた後の動作で力を発揮できる体勢に持っていく必要があります。ウェイトリフティングを練習し始めたばかりのときはそれが理解できず、パワーリフティングと同じ引き方をしてしまい習得に苦労しました。同じデッドリフトと名のつく種目でも全く別物であるということを理解することが必要になります。変な癖がつかないようしっかり意識して練習する必要がありました。

 
ウェイトリフティングのデッドリフト
膝の屈曲が残る
コンベンショナルデッドリフトの
フィニッシュ

『ウェイトリフティングを始めるには』
ウェイトリフティングに興味があるけどどこでできるのか、どこで習えばいいかわからない…という方もいると思います。ウェイトリフティングの競技特性上、バーベルを振り回す、落とすことがあり一般的なジムでは環境が整わず実施できないことがほとんどです。ここでは私が知る限りのウェイトリフティングの始め方をご紹介します。場所も必要ですが経験者に指導してもらえるかどうかが大切です。

① 日本ウェイトリフティング協会のHP「練習場ガイド」
https://j-w-a.or.jp/practice-ground/area01/
都道府県ごとに練習を行える場所を公開しています。指導者の有無も記載されているので、未経験者でも指導してもらえる場所を見つけることができます。

② クロスフィットジム
クロスフィットではワークアウト(トレーニング)の中にスナッチやクリーンが組み込まれることがあります。ほとんどのジムでコーチが基本的なフォーム指導を行ってくれますので、クロスフィットトレーニングをしながら学ぶことができます。ただ、純粋にウェイトリフティングだけを習いたい方には向かない可能性があります。
私がウェイトリフティングを習っていた場所ももともとはクロスフィットジムです。いくつかクラスがあるのですがクロスフィットのクラスと合わせてウェイトリフティングのクラスもあり、そこへ参加していました。今は鶴見にウェイトリフティング専門ジムもオープンされ、ウェイトリフティングの普及に力を注がれています。個人的にはとてもおすすめなジムです。関東近郊でウェイトリフティングを習うならここが一番と言っていいでしょう。
Black Ships https://www.black-ships.com/
AGITO https://www.black-ships.com/agito

③ オンラインコーチング
撮影した動画を共有することでフォーム指導をしてもらいます。課題改善のためのプログラムも作成が可能です。撮影できる環境さえあれば、現在通っているジムでもオンライン上で指導を受けることができます。その場で即時フィードバックが欲しければビデオ通話でつなぐメニューも別にあるようです。
オンラインコーチングを提供している方で私が知っているのはこの2名。

森田コーチ
Twitter:https://twitter.com/morikoj1150?s=21&t=OhWgfuenk87e43N0C7AgZA
私も東京から静岡に移住した際に一度お世話になりました。

山城コーチ 
Twitter:https://twitter.com/yamasho0327?s=21&t=OhWgfuenk87e43N0C7AgZA
Twitterではいろいろなことをつぶやかれているのでチェックしてみても面白いと思います。
#挙活 をつけてTwitterに投稿すると引用リツイートでアドバイスがもらえます。

④ FTGYM https://ft-gym.com/
宣伝です。私が活動するFTGYMでもウェイトリフティング指導を行っています。プラットフォーム完備で頭上からも落とせます。近隣にお住まいの方、私と楽しくウェイトリフティングを始めませんか?

以上、いくつかご紹介しましたが自己流でそれっぽいフォームを身につけてしまうよりは、最初の数カ月で良いのできちんとしたところで習った方が楽しくウェイトリフティングを続けられるはずです。

『まとめ』
パワーリフティングもボディメイクもトレーニングのバリエーションはあるにしても結局は同じことを繰り返して成長していきます。マンネリ化してきたなと思ったら新しいことにチャレンジしてみても良いのではないでしょうか。私はウェイトリフティングを始めてからパワーリフティングがもっと好きになりました。それぞれの違いの発見や新しい友人との出会い、リスペクトできるオリンピアンやトップ選手の存在があるのもウェイトリフティングというスポーツの魅力です。オリンピックを目指そうと日々努力している選手がいるからこそ、争う気持ちではなく純粋に趣味として楽しめているのかもしれません。これを読んだ方が1人でもウェイトリフティングに興味を持ってもらえたら嬉しいです。

◆コラム執筆者

福島未里(ふくしまみさと)
静岡県富士市FTGYM所属
FTGYM(https://ft-gym.com/)

ベスト記録
パワーリフティング(ノーギア)
SQ130kg
BP110kg(一般女子57kg級日本記録)
DL165kg
TL405kg(一般女子57kg級日本記録)
シングルベンチ(ノーギア)
112.5kg
ウェイトリフティング
スナッチ70kg
クリーン&ジャーク95kg

2013年度
アジアベンチプレス選手権大会(フルギア) ジュニア57㎏級1位
2014年度
世界ベンチプレス選手権大会ジュニア57㎏級(フルギア)2位
2017年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57㎏級1位
2018年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級1位
2019年度
世界ベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級 5位
ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会 一般女子57kg級1位
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子63kg級1位
2021年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級2位

保有資格
日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
NSCA公認CSCS
健康運動指導士
柔道整復師

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