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ヘキサゴンバーを使用したデッドリフト

皆様こんにちはSBDコラムニストの佐名木宗貴です。今月もご覧頂き有難う御座います。

このコラムを書いているのはちょうどゴールデンウィークが終わり緊急事態宣言の延長が発表された5月9日~12日です。

2年連続で静かなGWとなってしまいましたが、昨年との違いは感染対策を徹底しながらもなんとか活動出来ている競技が幾つかあるという事です。

もちろん厳しい制限付きではありますが、それでもスポーツ活動は継続されています。
「去年から何も変わってないじゃないか」と言う人もいますが、現場レベルでは少しずつ確実に変わってきているのです。すぐには元に戻らないかも知れませんし、全く同じは難しいかも知れません、それでも「新しいやり方」を受け入れながらスポーツ界は前進しています。

新しいベンチプレス大会

そんな緊急事態宣言下ではありますが大阪パワーリフティング協会では新しいベンチプレス大会が5月2日に開催され、私が代表を務める関西大学S&Cからも1名が参加しました。

和久憲三(アメフト部ヘッドコーチ)
クラシック一般120kg級 優勝

190kg 〇
200kg 〇
212.5kg ×

コロナ禍でチーム運営が大変で自分のトレーニングどころではなく、長らくベンチから遠ざかり標準記録の取得も儘ならない状況でしたが、この新しい試合のお陰で何とか試合に復帰し標準記録をとる事が出来ました。

ベンチプレスの使用重量も一時は140kgまで低下したそうですが急ごしらえでもなんとか200kgまで持って来たのは流石アスリートと言ったところでしょう。

今後も出場できるタイミングは少ないかも知れませんが、いつかまたジャパンクラシックベンチに挑戦して欲しいと思います。

Barbell Radio

次に私事ですが4月の下旬頃にBarbell Radioというインタビュー形式のポッドキャストに出演させていただきました。

Barbell radio #68 佐名木宗貴CSCS/選手と審判、両方の視点からみたパワーリフティングの試技、大学ラグビーのS&Cコーチとしてやりがいを感じたこと

GW前に収録したものが5/2に公開となり既に沢山の方からご感想をいただきました。

内容は私の職業であるS&Cに関する事やコロナ禍での取り組みやパワーリフティングの審判目線の話についてなど1時間半ほどのインタビューとなっております。ご自身もパワーリフティング女子52kg級の競技者でもある河西香南さんが色々と話題を振って下さるので初めての経験でしたが上手に引き出していただけたかと思います。
興味がある方は是非ご覧いただければと思います。

またSBDでお馴染みの鈴木選手・渋谷選手・栗原選手・福村選手などもそれぞれ出演していますので、そちらのほうも大変参考になる話題ばかりですので是非ご覧ください。

ヘックスバーを使用したデッドリフト

さてそれでは今月の話題に入りたいと思います。
今月は私が競技アスリートを指導する際にスクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどと並んで近年多用するようになった種目であるヘックスバーを使ったデッドリフトについて現場でどのように使用しているかご紹介しようと思います。

ヘックスバー【ヘキサゴンバー】は別名トラップバーとも呼ばれる六角形の形をした変形バーベルです。何故トラップバーと呼ばれるか正確には知りませんが、恐らく動物か何かを捕まえるトラップ【罠】に捕獲されているように見えるからではないかと勝手に想像しています。

ヘックスバーでリフティングを行う利点は様々ありますが、一言で言うと「普通のバーベルデッドリフトより腰への負担が軽減できる」というのが最大の利点です。

みなさんの中にもコンベンショナルスタイルのデッドリフトが苦手な人はいるかと思いますが、コンベンショナルに限らず通常のバーベルデッドリフトの場合はバーベルが常に身体より前方にあるのでどうしても股関節までのモーメントアームが長くなってしまい前傾角度もきつくなる事から高重量となれば腰背部に負担がかかります。

しかしヘックスバーであれば脛にバーベルが当たる事も無く膝を抜く作業もありません、またグリップも身体の横にある事からコンベンショナルに比べるとモーメントアームを短くする事が可能です。

膝を前方に出す事が出来るという事は身体を立てる姿勢をとりやすいというわけでコンベンショナルに比べると背中が丸まらないように注意しやすいという事にも繋がります。

スポーツの現場で高校生や大学生と言ったトレーニング経験の浅い年代にデッドリフトを導入しようとして「こいつデッドリフト下手だなぁ~でも地力があるからフォーム悪いのに凄い重量引けちゃうんだよな~腰痛めないか心配だな~」というような元々ナチュラルに筋力が強いけどデッドリフトのフォームの習得は未完成で「全力でトレーニングをさせたいけど筋力が強いあまり危険な重量が出来てしまう」というような場合が多くみられるのですが、そういった選手に対してヘックスバーで代用させると安全な範囲で筋力に見合った重量のトレーニングをさせる事が出来る場合があります。

またプレシーズンの終盤や試合期だけど試合の無い週などに「デッドリフトさせたいけど試合期だから万が一腰痛めたら試合に出られなくなるからやらせにくいな~」というシチュエーションがあるのですが、そういう場合もヘックスバーならコンベンショナルよりはリスクを抑えて効果を得る事が出来ます。

他にもバスケットボールやバレーボールなどの高身長のアスリートはコンベンショナルでは前傾角度が大きくなり腰背部にストレスが大きくかかる場合があるのですが、そういう場合もヘックスバーの方が安全にトレーニングをする事が出来るケースがあります。

更にはスクワットジャンプやベントオーバーローイングもヘックスバーで行う方がやり易い場合が多いです。

ただし膝を前に出せるという事は、要するに通常のバーベルデッドリフトに比べると大腿部前面の筋肉を使用しやすくなるという事なので負荷が分散して後面の筋肉に対するストレスは減ってしまいます。
簡単に言うと足幅狭めのハイバー・ハーフスクワットとコンベンショナルデッドリフトの中間ぐらいの動作になるので

ポジティブに考えれば
①腰背部へのストレスを減らしながら高重量が持てる
②大腿部前面の筋肉も鍛えられる

ネガティブに考えれば大腿部後面の筋肉への刺激が減ってしまう、という事になります。

「ワシはモモ裏を集中して鍛えたいんや!」

というような目的の方は普通のバーベルでコンベンショナルやルーマニアンを行った方が良いと思います。

その逆でハイバースクワットの代用として鍛えたいという場合は大腿部前面もしっかり意識して肩の真下にグリップがあるように前傾角度をコントロールすれば非常に近い動きとなります。

ハイハンドルとローハンドル

そんな現場で有効に使えるヘックスバーですが使用方法としてグリップを高い位置で握る「ハイハンドル」と通常のバーベルと同じような高さで握る「ローハンドル」と2つのパターンがあります。

ご覧の通りローハンドルにすれば可動域(グリップの高さ)はほぼ通常のバーベルと同じになりますが、ひっくり返してハイハンドルを使用するとやや可動域が狭くなります(グリップ位置が高くなる)。

このグリップ位置の高さの差は各メーカーによって様々かと思いますが私の職場で購入したものはザオバ社製のもので、この商品では高さの差は約10.5㎝でした。

この高さの差で使用重量にどのぐらいの違いが出るのかというと私の場合は30kgです。

ローハンドル257kg

ハイハンドル287kg


※バーの重量は26.5kgでしたのでクリップカラーを入れて約27kgで計算しています。

私の指導している複数のチームで取り入れてみたところ、ローハンドルのデッドリフトとコンベンショナルではほぼ差がありませんでしたので、まずはコンベンショナルで安全に出来ている重量から始めていただいて問題無いかと思います。

注意する点としてはグリップの位置が合わないとグリップが傾き平行にあげられませんので正確にグリップの中央部分を握るようにしましょう。特にリストラップを使用される場合は多少傾いても挙げられてしまうので逆に立ち上がった時にバランスを崩したりおろした時にバーが脚や爪先に当たったりして大変危険です。

特にローハンドルは正確に真ん中を握らないと傾くので注意してください。
私の場合はバーベルの中心と同じ位置を中指で握るようにすると手の中で前後のバランスがとれます。

おそらく握りの強さなど個人差があると思いますので自分に合った位置を見つけて下さい。

また前後にバランスを崩してしまった場合は通常のバーベルとは違い後ろに逃げる事が出来ないので(まさに捕まった状態なので)非常に危険です。

限界まで追い込むようなトレーニングは十分経験を積んでから行ってください。

変形のものも

こちらは私のボディビル時代の所属ジムである寝屋川市のZIPスポーツクラブにあるヘックスバーですが後方部分が切り取られた変形のものとなっています。

そもそも六角形でもないのでヘックスバーと呼ぶのも違うのかも知れませんが、正式名を知らないのですいません。

後方が繋がっていないので不安定なのかと言えば全くそんな事は無くて

このように非常に使いやすいです。
後ろが無いのでランジやブルガリアンスクワットで使用するには最適ですね。
また動画のようにルーマニアンで使用するのも後ろに当たるのを気にしなくていいのでやり易いです。

まとめ

海外のジムでは割とポピュラーらしいのですが日本ではまだまだ一部のマニアックなジムにしか置いていないヘックスバーを今日はご紹介させていただきました。
使い方によっては今まで怪我やフォームが苦手で諦めていた種目も出来るようになるかも知れません。

また通常のデッドリフトやスクワットに慣れてマンネリ化してしまっている人にとっては新しい刺激の入る良いオプションともなり得ます。

ただし、フォームを作るのが比較的簡単で通常の種目より早く高重量が持てるようになる可能性があるので調子に乗って慣れる前に重い重量を持ち過ぎると、バランスを崩してしまったりグリップが傾いてしまったりして思わぬ怪我や事故を引き起こす事もあります。

安全にはくれぐれも注意して日々のトレーニングプログラムを充実させるためにチャレンジしてみて下さい。

文:佐名木宗貴


ベスト記録(ノーギア)
スクワット 245kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1-83kg級 5位
・ジャパンクラシックマスターズパワーリフティング選手権大会83kg級 優勝
・香港国際クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1₋83kg級 優勝
・世界クラシックパワーリフティング選手権大会マスターズ1₋93kg級 6位

ボディビルディング
2000~2001年 関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年    全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年    日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年    関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

指導歴
・ZIP スポーツクラブ チーフトレーナー
・正智深谷高校ラグビー部 S&Cコーチ
・埼玉工業大学ラグビー部 S&Cコーチ
・正智深谷高校女子バレーボール部 S&Cコーチ
・正智深谷高校男子バレーボール部 S&Cコーチ
・トヨタ自動車ラグビー部 S&Cコーチ
・関西大学体育会 S&Cコーディネーター

資格
日本トレーニング指導者協会認定 特別上級トレーニング指導者
NSCA認定 CSCS
日本パワーリフティング協会公認 2級審判員
日本ボディビル・フィットネス協会公認 3級審査員

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