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段階的に挙上重量を戻すためのゲームのようなトレーニングプログラム 【現状の可視化と目標設定】

皆様こんにちは SBDコラムニストの佐名木宗貴です。
今月もご覧頂き有難う御座います。

やっとスポーツクラブなどの休業要請が解除され、様々な制約はあるものの徐々に通常のトレーニングライフを取り戻しつつある頃かと思います。

約2ヶ月ぶりにジムに行き「あれっ?意外と弱くなってないぞ」と希望に満ちた再スタートを切った方もいるでしょうし、「ぐっ…めちゃ重い。またゼロからだ…いやっマイナスからだ」と悔しい気持ちで再スタートを切った方もいるでしょう。

ここでどちらの方も忘れないで欲しいのが、怪我をしてしまったら何にもならないという事です。

「意外といけるやんけー‼オラオラ‼…ピキッ‼痛っ」
「弱くなっちゃったよ~急いで頑張らないと‼…ブチッ‼痛っ」

どちらも絶対に避けなければなりません。

そのためにはまずは重量を戻す事よりもトレーニング環境の変化に慣れることを優先し、トレーニング頻度と生活習慣を段階的に以前の状態に戻すように調整しましょう。

プロスポーツは別にして、多くのアマチュアスポーツは暫く試合がないと思いますので、焦らず少しずつトレーニングが出来る喜びと感謝を忘れず、しっかり土台を固めましょう。

段階的に挙上重量を戻すためのゲームのようなトレーニングプログラム

それでは本題に入ります。
今回は段階的に挙上重量を戻していくための簡単なプログラムを紹介したいと思います。
プログラムと言ってもそんなにガチガチのルールがあるわけではなく、自分の体調や筋力の回復具合に合わせてのらりくらりと再開したい人用の気楽なゲームのようなものなので「一度ジムから足が遠のいてしまったけど3ヵ月以上かけてゆっくり元の記録に戻せればいいや」ぐらいの人にお勧めなプログラムです。

元々はゲーム

さて、このプログラムですが、元々は私がラグビーやアメフト、あるいは柔道のチーム全体に対してストレングスを指導する際に数ヶ月に1回ぐらいの頻度で行うチームビルディングを目的とした「筋トレの団体戦ゲーム」でした。

ゲームの内容はチームを2~4つに分けてチーム毎にキャプテンを選出してチーム名を決めさせます。そしてチーム名を書いた以下のような表をホワイトボードに張り出し、制限時間内にどれだけマスを埋められるかを競います。


▲表の項目の説明:(縦)重量(kg)、(横)レップ数

例えばチームの中に懸垂が得意な人(軽量)がいれば加重チンアップの重い部分を多く埋めるように担当するもよし、全ての種目の1~2レップスのマスを担当するもよし、スクワットが得意な人がいれば誰もやりたくない200kg×10に挑戦しても良い。スクワットばかりを担当していた人が途中で少し味付けを変えたくなったら気分転換にベンチプレスの105kg×5だけ埋めてまたスクワットに戻っても良い。

怪我人であまり戦力にならない人は自重のチンアップを全部担当するとか、ランジの軽い部分を担当するなどしてチームに貢献します。

こうして制限時間が終わった時点で残っているマスの少ないチームの勝利です。

このようなゲームを行うタイミングとしては、1つの試合に向けて中長期的なプログラムを行った後の移行期や年末の最後のトレーニング、合宿の最後などジムを貸し切れる状況で、チーム全体で盛り上がって終わりたい時にやる事が多いです。

各チームキャプテンを中心に5分間の作戦タイムを行いゲーム開始。
マネージャーに都度途中経過をアナウンスしてもらいながらゲームを進めます。

他チームのスクワットが浅いとかベンチプレスでバウンドさせ過ぎているなど反則行為が無いかお互いに監視し合い、相手チームの怪しいセットを動画で撮りS&Cコーチの密告、反則が認められれば相手チームのポイントをノーカウントにする事が出来、尚且つプッシュアップかバーピージャンプのペナルティを与える事が出来ます。

万が一、同点で終わった場合は代表者を3名選び、ジャンケンで勝ったチームが種目と重量を選び勝ち抜き戦で勝敗を決めます。

このようにワイワイ楽しみながらハイボリュームな刺激を与えるゲームです。

半ピラミッドを作る

では、このゲームをパワーリフティングに応用するとどうなるかというと、まず自分の1~8RMまたは10RMぐらいまでの過去最高値をエクセルに打ち込んでいきます。

※表2

ここまで細かく自分のレップス毎のMAX重量を記録していない人は過去の最大挙上重量からのRM換算値でも構いません。

この半ピラミッドを元に回数は固定で重量を更新していきたい場合は数字を少しずつ増やす。

重量は固定で回数を増やしていきたい場合は回数を1回ずつ増やします。

今回のような暫くOFFが続いてしまった後、時間をかけて筋力もモチベーションも徐々に上げていきたい場合は表2のような元のベスト記録に戻す事を目標とするか、それよりも2.5~5㎏ずつ軽くしても構いません。

とにかくゲーム感覚でジムに行った時の身体の状態と気持ちの状態で「今日は残業だったし気持ちも萎えてるから最低限ココとココだけ潰したら早めに帰ろう」でも良いですし「今日は仕事も休みだし調子が良いから5個ぐらい潰してやろうかな」でも構いません。

各種目に対して補助種目を1種目だけ選択

元々の練習量の少ない人は1週間で3種目をやるところからでも十分かと思いますが、それでは量が足りないという人は各種目に対して1種目だけ補助種目を足すと良いと思います。

私の場合は
スクワットにはハイバースクワットかセーフティバースクワット
ベンチプレスにはナローグリップベンチプレスかディップス
デッドリフトにはコンベンショナルかルーマニアンデッドリフト
これらを3~8レップスで毎週3~4セット行います。

12週間で完成するまでを例にすると以下のような感じになります。

最初の3週間は軽くて重さも余裕があるところからはじめて体を慣らす。
余裕があればノーベルトで行ってみたり、ストップ&ゴーなどでアレンジしてフォームを安定させる。

次の3週間も少しずつ回数と重さを増やしていく。
スクワットの場合は余裕があるうちに深さや左右の重心位置などを修正する。

6週間かけて体を慣らしたのでここからは過去MAXマイナス1~2回の領域まで入って限界の1~2歩手前まで攻めてみます。

この辺で飽きて来て一気に終わらせたくなりますが、グッと我慢してやり過ぎない方が私は良いと思います。

最後の3週間で過去MAXを各レップスで取りに行きます。

ちゃんとやるとこんな感じです。
この例だとかなり計画的にピークを作るようになってしまいましたが、実際は調子の悪い日や気持ちの乗らない日もあるのでもっと途中がデコボコになります。

3レップス未満が得意な人は左側から埋めていっても良いし、6レップス以上が得意な人は右端を先に埋めても良い。途中の埋め方を客観的に見て自分の強いところ弱いところ、無意識に避けている領域が見えてきますので、この次のプログラムではその苦手なところを強化するなど弱点や伸びしろを発見する事にも繋がります。

なぜ少しずつ強度を上げていくのか?

私が子供の頃にドラゴンクエストというゲームが流行ったのですが、発売日に朝から並んで買って翌日にレベルが20までいったと眠い目を擦りながら自慢している子が沢山いました。

当然このゲーム(プログラム)も攻略のスピードを競う楽しみ方をしても良いのですが、今回のように「長期オフからの重量回復」という状況で行うのであれば1回のトレーニングで3コマまでとか1週間で6コマまでとか、自分の中でやり過ぎないようにルールを決めて取り組んだ方が良いと思います。

最初に書いた通りドンドンいけるからといって調子に乗って怪我をしてしまったら本末転倒ですし最初から飛ばし過ぎると地力が戻る前に挑戦できる重量と回数が限界近くまでしか残って無くなって、結局「今日は1マスも潰せなかった」と足踏みしてしまいます。

ドラゴンクエストで言うとレベル20なのにラスボスの前まで来てしまった。。。ようなものなので結局何度挑んでも負け続けて諦めてちょっと前に戻って地道にレベルを上げて再挑戦する事になります。

ドラゴンクエストの勇者ならば何度死んでも蘇りますし回復も呪文だけで出来るのですが、我々は呪文も使えないし奇跡の薬草は禁止されています。

というわけで焦らず少しずつが実は近道なのです。

私の場合ですが1種目に対して1回のトレーニングで3コマまでと決めてやっています。
補助種目でも最大で4コマまでです。つまり1回のトレーニングで同じ種目に対して本気セットは3セット程度です。パワーリフターなので全集中で3回本気出せれば十分だと思っています。

友達とバトルして遊んでも良し

もしも前記したような攻略のスピードを競うような楽しみ方をするのであれば自分と同じか前後の階級で同じぐらいの実力の選手と同じ日に開始してどちらが早く全部のマスを潰せるかを競うのが良いでしょう。

ただしその場合も1日に何コマまでとルールを決めておかないと最終的に「暇だった方の勝ち」となるかも知れないのでルールはきちんと決めておきましょう。

またオプションとして1日で1つの表を2~3人で潰していくという遊び方もあります。

この場合は順番にセットを行っていき縦・横・斜めに4マス揃ったら勝ちという風にルールを決めてお互い相手を消耗させながら戦います。

この場合はストップウォッチを用意して、自分がセットを終えたらストップウォッチを押して「相手(または次の人)は2分以内に次のセットを開始しなければならない」というようなルールで行うと面白いです。

持久力がある人が格上に勝つために早くセットを行い相手に休む時間を与えないという作戦もありです。

また3マス揃ってリーチがかかっている相手の軽い方のマスを短かいインターバルで潰し、次の4マス目にプレッシャーをかけて失敗させるなどの駆け引きも発生します。

まとめ

皆さん、練習の内容をノートに記録する事は当然やっていると思いますが、そのノートの書き方が「あとで振り返りやすい」ように書かれていないと後々見返してもあまり役に立たないという事もあると思います。

今回紹介した方法は1つの表にトレーニングの結果を記録する事で目標に対して自分が今どのぐらいの位置にいるのかを可視化しやすい方法です。

長期オフからトレーニングを再開する場合、自分は今どのくらい力が戻っているのか?を客観的に確認する事が必要で、長期オフ前の状態と比べ「自分は今どの位置(レベル)にいるのか」を把握したうえで無理なく弱った部分を埋めていく作業が必要となります。

私の場合、長期オフ後でも1~3レップスぐらいの使用重量は戻るのが早いので調子に乗って高重量を持ってしまう事が多く、そのまま次の試合に向けて突き進んでしまうと途中で試技に安定感が無くなり、挙上コースを1mmでも外すと紐が切れたように潰れてしまったり、バランスが崩れたり一旦止まったりしたところから粘る事が出来なくなります。

これを私は「試技に当たり外れがある状態」と呼んでいるのですが、このような状態に陥らないためには私の場合だと1~3レップスの重量があがっているからと言って安心せずに、自分が弱くなっているレップス群(たいてい8~10)を見極め、しっかり補強していく事が重要です。

よく「それは体幹の筋力が低下してバランスが…」とか「腹圧が…」と言って体幹部の筋群を鍛える種目を足す人もいると思いますが、怪我を防ぐための意識付けやウォームアップ、クールダウンなどで行うのは時間が許すなら良い事だと思いますが私の場合はパワーリフターなのでスクワット、ベンチプレス、デッドリフトで使う体幹支持力や柔軟性、バランス能力、腹圧などはその種目をやり込むことで一番早く戻ると思っています。

最初に書いた通り今回は暫く試合が無さそうなので、悪く言えばモチベーションの維持が難しいのですが良く言えばしっかり地力を積み上げる時間があります。

慎重に怪我を回避しながらハイレップスもローレップスも好き嫌いなく積み上げ、土台のしっかりとした安定したパフォーマンスを築けるよう頑張りましょう。

文:佐名木宗貴

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