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「東大生とパワーリフティング」

SBDブログをご覧の皆様、初めまして。

男子59kg級の久恒歩と申します。

と申しましても、おそらくSBDブログをご覧の方々だけでなく、日本の多くのパワーリフターが私をご存知ないのではないかと思われます。

おそらくご存知なのは、東京都や埼玉県のパワーリフティング協会の方々、もしくはパワーリフティングの学生大会関係者くらいだと思われます。

今月よりSBDブログにて記事の執筆をさせていただくこととなりましたが、まずは自己紹介をさせていただきたいと思います。

(*写真の右端が筆者となります。)

私は現在、東京大学ボディビル&ウェイトリフティング部(以下、「東大B&W部」と表記。)に所属しております久恒歩と申します。

東大B&W部は、部活名と異なり活動内容はパワーリフティング競技とボディビル競技となっており、私自身はボディビル競技は行わず、パワーリフティング競技に専念しております。

トレーニングを始めたのが2017年4月ですので、パワーリフティング競技歴は2年半程度であり、多くのパワーリフターの方々からすると後輩にあたります。

なお、学生大会以外で初めて出場した大会が今年の2月のJCPであり、まだ国内の一般の大会には1回しか出場したことのないため、お恥ずかしながらパワーリフターとしては初心者の域を出ないかと思われます。

また、つい先程全日本学生ボディビル選手権大会が開催された10月12日まで、関東学生ボディビル・パワーリフティング連盟で理事長を務めさせていただいており、主に両競技の学生大会の運営に携わっておりました。

この度、SBDブログの執筆をさせていただくこととなりましたが、なぜ自分のような者が、パワーリフターを啓蒙する役割のある当ブログの執筆に携わることになったのか、今でも不思議に思っております。

おそらく、十分な知識の蓄積の無い私に書くことのできる記事といえば、

・私自身のこれまでのパワーリフティングの経験に基づいた主観的な記事

・パワーリフティング初心者目線の記事

・パワーリフティングやボディビルの両方の学生大会の運営者としての記事

に限られると思われます。

昨今のSNSの発達により、多くの先輩パワーリフターがご自身の動画やトレーニング法などを発信できるようになったため、インターネット上でパワーリフティング競技において役立つ情報がたくさん入手できるようになりました。

そのことを踏まえて、競技歴の浅い私に執筆できるであろう内容の軽薄さを考えた時、私が執筆者に選ばれた理由として以下の結論に達しました。

「パワーリティングに関して手本とすべき情報は多くの先輩パワーリフターによってインターネット上に公開されているが、真似しない方が良い情報や初心者が犯しやすい間違いに関する情報はあまりないので、SBD側もそれを期待して私に執筆を持ちかけたのであろう。」

*今思うと、SBDの応援をいただいて出場した6月の世界クラシックパワーにおいて、スクワットの第一試技が深さ不足で失敗試技となったあたりから、候補に上がっていたのかもしれません。

というわけで、今月から執筆させていただくこととなりましたが、前述したように私の記事をそのまま受け入れるのではなく、むしろ批判的にご覧いただければと思います。

「東大式トレーニング」

そろそろ今回の記事の本論に入りますが、今回は「東大B&W部に伝わるパワーリフティングの練習方法」をご紹介したいと思います。

この練習方法は東大B&W部の先輩方が代々伝えてくださった練習方法ですので、今回の記事の内容に関しては私の失敗談としてではなく、そのまま読んでいただければと思います。

私の所属する東大B&W部に入部してくる部員は、私自身もそうでしたが、ほぼ全員がトレーニングをしたことがない状態で入部してきます。

そのような部員が学生の間に、学生パワーリフティング大会で高校からの経験者と互角以上に戦えるようなパワーリフターとなりますので、今回掲載する練習方法は特に大学からパワーリフティングを始めるジュニア選手には、極めて有効な練習方法ではないかと思います。
東大B&W部に伝わるパワーリフティングの練習方法の要点は

⑴ 「週3回の公式練習」

⑵ 「8発×3セット」

に集約されます。

 

  • 「週3回の公式練習」

「公式練習」というのは東大B&W部員が、各自が好きな時間に個人で行う練習を「自主練習」と称すのに対し、他の運動部のように部員全員が集まって行う練習を指す言葉です。

東大B&W部では公式練習を1週間に3日間(月、水、土)設けており、この3日間は部員全員が東大駒場キャンパスのトレーニング体育館に集まり練習をしています。

なお上記のトレーニング体育館は、関東での学生パワーリフティング大会が開催される由緒正しい神聖な場所でありますが、空調設備がないため「夏は外より暑く、冬は外より寒い(と感じる)」環境でのハードなトレーニングが可能となっております。

(そのため、学生パワーの審判員の先生方には不評ですが…。)

この公式練習の最大の利点は、「先輩が後輩にトレーニングを指導すること」にあります。

先述の通り東大B&W部の新入部員のほぼ全員がトレーニング初心者であり、パワーリフティングという競技名すら知らない状態で入部してきます。

しかし、公式練習で先輩が後輩に一からトレーニングの指導を行うため、パワーリフティングにおいて最も重要な「正しいフォームを身に付けること」が可能です。

また、競技年数が長くなるにつれてあたる壁(停滞、自分に合ったフォームの模索)についても、同じような経験のある先輩に聞くことが可能です。

逆に先輩として後輩に教えるという立場になった場合も、自分のトレーニングに関することを言語化するという過程を経て、後輩に新たなことを気付かされるということもあります。

また、公式練習のその他の利点として、「補助をつけることができる点」が挙げられます。

補助をつけられることは、フォームの安定しない初心者だけでなく、全てのパワーリフターにプラスになることだと考えられます。

なぜなら、補助をつけられないということは、万が一潰れることへの恐怖心が生まれて自分を追い込みきれないことを意味するためです。

パワーリフティングにおいて潰れないことは当然重要ですが、潰れる直前の1レップまで追い込めた方が強くなりますので、補助がつけられることはより効果的な練習につながると考えています。

またパワーリフティング初心者はフォームを習得できていないため、少しでもバランスを崩すと、潰れて変な場所に重量がかかり怪我をしがちです。

しかし補助をつけることにより、そのような事態を防ぐことができるため、先述した「正しいフォームを身につけること」と同様に、補助をつけることは怪我の防止に非常に効果的です。

  • 8発×3セット

東大B&W部では特にパワーリフティング競技であるBIG3のメインセットを「8発×3セット」で行うようにしております。

ちょうど、パワーリフティング種目は3種、公式練は週3日なので、各種目を1週間1回ずつおこなうようになります。

そしてメインセット「8発×3セット」が上がったら、次の週は+2.5kgで再び「8発×3セット」を目標に行う、という練習を年中繰り返しています。

「8発×3セット」でメインセットをおこなう利点としてまず、怪我のリスクが低いことが挙げられます。

1発ギリギリ上がる重量はバランスを崩しただけで潰れる可能性もありますが、8発上がるかどうかの重量となるとフォームを保てていれば、いきなり潰れて怪我をするということは、まずありません。

また「高重量低レップほど神経系に効き、低重量高レップほど筋肥大に効果的」と言われますが、東大B&W部員はトレーニング初心者が多く、そもそも筋量が不足しているため、比較的軽い重量で追い込む「8発×3セット」でメインセット行います。

さらに、部員全員が「8発×3セット」を行うことのさらなる利点としては、部員同士が競い合う環境が生まれることが挙げられます。

東大B&W部では、先述した公式練習で部員が集まり一緒にトレーニングをすることに加え、8発×3セットという同じ基準が存在することや、さらには同期は全員競技歴が同じという環境があることによって、部全体としてBIG3の重量を競い合う土壌ができ、それが部内でパワーリフティング競技レベルが上がる要因となっております。

加えて、8発×3セット上がった場合の上げ幅が2.5kgというのも重要であると考えています。

初心者の場合は扱う重量を急に増やすとフォームの乱れが生じやすいため、なるべく上げ幅は小さくした方が、フォームを崩すことなく扱える重量を増やすことできるためです。

私自身も普段、「8発×3セット」をメインセットとして、達成できたら2.5kg刻みで増やしていくという練習をおこなっております。

そして試合の1ヶ月前あたりから徐々に高重量を持つようにしています。

試合直前でもない限り1発の重量を扱うことはなく、現時点で、最後に1発の重量を扱ったのは6月の世界クラシックパワーです。

確かにパワーリフターである以上、1RMの重量は気になるものですが、メインセットの重量が伸びていれば、基本的には1発の重量も伸びています。

そのため、私自身も含めて初心者はフォームが乱れやすく怪我もしやすいため、試合近くでもない限り1発の重量を持たない方が良いと思います。

終わりに

基本的に、私のように競技歴の浅い選手は「怪我をしない」ことを意識して、トレーニングを行う必要があります。

なぜなら「怪我をしないこと」こそ、強くなるための近道であるからです。

そのためには、「正しいフォームを身につけること」「扱う重量を徐々に増やしていくこと」が重要であり、そのような観点から考えた時、東大B&W部の「週3回の公式練習」、「8発×3セット」を基本とする練習方法が、大学から競技を始める選手に対しては非常に効果的だと考えられます。

近年パワーリフティング人口も増加しておりますが、今回ご紹介した方法が、最近パワーリフティングを始められた選手、特にジュニア選手の参考になりましたら幸いです。

最後まで読んでいただきありあがとうございました。

拙い内容ですが、来月以降もよろしくお願いいたします。

 

久恒歩

東京大学ボディビル&ウェイトリフテイング部 所属

 

自己ベスト(一般男子59kg級)

スクワット:205kg(一般日本記録)

ベンチプレス:137.5kg(ジュニア日本記録)

デッドリフト:245kg

トータル:587.5kg(世界ジュニア記録、一般日本記録)

 

戦績

2019年ジャパンクラシックパワーリフティング選手権 一般男子59kg級 優勝

2019年世界クラシックパワーリフティング選手権 一般男子59kg級 3位

 

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