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審判から見える世界 初めての審判経験(近畿ベンチプレス選手権大会)

【はじめに】

読者の皆様こんにちは、いつもご覧頂き有難う御座います。

この夏は予想以上の猛暑の影響による熱中症などで、倒れる方も多かったかと思います。

私も7月の上旬頃に仕事中に2度ほど体調がおかしいと思い、急遽仕事を中断して木陰に避難して水分を摂りながら休憩をとった事がありました。

特に梅雨明けして急激に気温が上昇した頃には身体がまだ暑さに順応しておらず熱中症になりやすいのですが、今年は暑さもさることながら気温の上昇が急であると感じ、このような症状が出てしまったと考えられます。

熱中症になっても回復すればまたすぐにいつも通りトレーニングが出来るのかと言えばそうではなくて、軽い症状であっても3~4日は通常通りのパフォーマンスを発揮するのは難しくなります。

つまり強くなるのが3~4日確実に遅れてしまいます。

風邪でもなんでもそうですが、体調を崩すというのはその時だけではなく症状が無くなってからも数日間は身体が完全に回復するまでは時間がかかります。

ですから体調管理をいい加減にするという事は自分で強くなれる日数を減らしているのと同じことです。

1年365日が平等に与えられていますので有効に使えるようにアスリートならば自己管理を徹底しましょう。

【ご報告】

さて、いつもながら私の身の回りの事で大変恐縮ではありますが、ご報告させていただきたい事が幾つか御座います。

まず私が監督を務めるJPA登録団体「関西大学S&Cクラブ」のメンバーが2名、春の大阪大会と先日7月2日に和歌山で行われた近畿大会を突破し、福井国体への出場権を獲得しました。

1人は大学3回生の若林康平(66㎏級)、もう1人は卒業生の福住昌也(74㎏級)です。

JPAに正式加盟して初年度からメンバー2人を国体に送り込めることを大変嬉しく思います。

2人には個人としての成績は勿論ですが、国体には都道府県別団体戦もありますので、大阪府協会の為に1ポイントでも加点できるよう頑張って欲しいと思います。

皆さま暖かいご声援を宜しくお願いいたします。

次に私事ですが、先日(7月21日)香港国際クラッシックインヴィテーショナルに出場しマスターズ1-83㎏級で優勝しスクワットのM1アジア記録も更新する事が出来ました。

この大会について詳しくは来月号のコラムで参戦記を書かせていただこうと思いますので暫しお待ちください。

今回はご報告までで御座います。

【2018年度近畿ベンチプレス選手権での審判に挑戦】

いつもながら前置きが長く申し訳御座いませんでした。

それでは今回の本題である初めての審判経験に入りたいと思います。

今回私が審判をさせていただいたのは近畿ベンチプレス選手権大会(第30回近畿ベンチプレス選手権と第23回近畿クラッシックベンチプレス選手権)で、1日でノーギアもフルギアも女子も男子もジュニアも一般もマスターズも全て行うという非常に長丁場が予想される大会でした。

また来年5月に千葉県で世界パワー(こちらもノーギア・フルギア・ジュニア・一般・マスターズ全部門行われる)が開催されるため、その選考会となる今年10月に新潟で開催される全日本ベンチ(フルギア)と来年1月に大阪で開催されるジャパン・クラッシックベンチ(ノーギア)への出場権(標準記録)を得るために多くの選手がエントリーしていました。

会場は大阪府堺市の大浜体育館です。

【コスチュームチェック】

私は9時に会場入りしてまずはコスチュームチェックを担当させていただきました。

とは言え選手として自分の使う道具をコスチュームチェックで通した事は何度もありますが、他人の道具をチェックするのは初めてです。

また近年自分自身は全てSBDで揃えているのでコスチュームチェックで引っかかる心配が全く無いので正直気にした事がありませんでした。

そんな知識に乏しい状態ではありましたが、私より早く会場入りして既に設営や運営のお仕事をされていたKsGYMの児玉選手と和田選手に色々と教わりながら仕事をする事が出来ました。

ベンチプレス大会でコスチュームをチェックする際のポイントは簡単に書くと以下の通りです。

Tシャツ:首周りが丸く(Vネックやタンクトップ、ノースリーブは駄目)、綿のもの(ピチピチで伸び縮する生地は駄目)かどうか。

ポケットがあったりボタンやチャックの付いたものは勿論駄目。

シングレット:股下の長さ(25㎝以内)、ダボダボのシングレットでお尻の浮きを誤魔化してはならないが、コスチュームチェックで大き過ぎるかどうかを見る事は出来ないのでこれは試技の際に審判が注意する。

リストラップ:長さ1m以内。たまに元々1mだった商品が使い込まれて伸びて1mを超えてしまっている場合があるので注意。

ベルト:皮またはビニール製で1層2層またはそれ以上の場合は縫い合わせが均一になっているものでなければなりません。

今年7月からの改定で都道府県大会では腰の部分にクッションが入って厚くなっているものが許可されていますが、この大会はブロック大会なので駄目です。

ベルトの幅は10㎝以内で厚さは13㎜以内なのでベンチプレスでよく使用される幅の狭いベルト(フルギアでベンチシャツのズレを予防する為に使う選手が多い)も勿論OKです。

シューズ:今回はベンチ大会なのでそこまで気になるものはありませんでしたが、そもそもシューズをコスチュームチェックで通さなければならない事を知らない人が多かったです。

細かいところで言えば踵が5㎝以上高くなっているものは駄目です。

インソールの厚みも1㎝まで。5本指シューズや足袋シューズは駄目です。

ベンチプレスシャツ:これが一番困りました。

なんせ私はフルギアの経験が無いのでIPF公認品であるかどうかは児玉さんと和田さんに聞くしかありません。

また縫い縮めが許可されているのは袖の下の部分だけなので肩の部分や腋の部分から胸の部分にかけてを縫い縮めている場合は使用できません。

裏返して一つ一つ確認しながらチェックするのでフルギア選手のコスチュームチェックはとても時間がかかります。

このような形でベンチプレス1種目だけでも色々とチェックするポイントがあり、見た目以上に気を遣う大変な作業でした。

改めて大会運営に関わってくれている方々のお陰で試合が成り立っているという事を認識する良い機会でありました。

【ベンチプレス競技のルール】

さてコスチュームチェックは引き続き行われていましたが、私は第一セッションの副審でしたので開会式のタイミングで失礼して審判の準備に入ります。

因みに審判の服装は紺色のジャケットにグレーのパンツで公認ネクタイを着用する事となっていますが、全国大会以外では夏場のみ公認のポロシャツの着用が認められています。

公認グッズはJPAのホームページから購入できますので審判の資格を取得されたタイミングで購入される事をお勧めします。

ベンチプレスのルールは簡単なようで実は細かく複雑です。

ここでおさらいしておきましょう。

まずリフターは頭・両肩・両臀部がシートに接触した状態で競技を行わなければなりません。

両足の靴底の全面も床若しくは足台に水平につけていて、この状態を保っていなければなりません。

グリップはサム・アラウンドグリップ。つまり親指をかけた状態で握り、左右の人差し指の間は最大で81㎝とし、81㎝のラインが隠れているようにしなければなりません。

バーをラックから外し、リフターの動きが止まり、バーが適当な位置になったら主審が「スタート」の合図をかけます。

リフターは合図を聞いてバーを胸または腹部に下ろし(ベルトに当たってはいけない)バーを一旦静止させる。

主審の「プレス」の合図でバーを押し上げ、肘が完全に伸びた状態で静止すると主審が「ラック」の合図をするのでバーをラックに戻す。

このような一連の流れの中で起こりうる反則は以下のようなケースがあります。

合図無視:レフリーの「スタート」「プレス」「ラック」の合図を聞かずに行ってしまった。

接地位置がずれる:頭・両肩・両臀部・両足底が動作中に浮いてしまったりずれてしまったりして最初の位置から動いてしまった。

バーが下がる:バーをあげている最中にスムーズにあげられず、途中でバーが下がってしまった。または主審のプレスの合図の後にバーを胸に沈ませてからあげてしまった。

バーが胸につかない:これはフルギアできつ過ぎるシャツを着ている場合に起こる事があります。

肘が伸び切らない:これもフルギアでシャツの反発であがってはいるけど最後まで肘が伸びない事があるそうです。

81㎝のラインが隠れていない:そもそも81㎝ラインが隠れていないとスタートがかからないかリプレイスとなりますが、ギリギリを握っていると動作中にずれてしまう事があります。

セーフティバーに当たってしまう:事前の申請でセーフティラックの高さを申告するのですが、傾いて下ろしてしまい当たってしまう事が稀にあります。

細かく説明するともっといろんなケースがありますが、

たいたいこのようなルールの中で審判は正確に公平にジャッジを行わなければなりません。

【一貫性】

開会式の後に短い時間ではありますが、審判団でミーティングを行いました。

ここではグループ毎の主審副審の確認やリモコン式の判定機?(正式名称を知らないのでゴメンなさい)の使い方の確認、タイマーが止まるなど不測の事態が起きた場合の対応などが簡単に話し合われました。

先輩審判の方々と話をする中で一番気を付けなければならないのは判定の一貫性であると教わりました。

よく選手達が「今日の判定は厳しすぎる!」と不満を口にすることはどんな競技でもあると思いますが、自分が選手をしていてもそうですが、本当に選手が審判に対して不信感を抱いたりフラストレーションを感じるのは判定が厳しい場合ではなく、ジャッジに一貫性が無い場合です。

あの人はOKだったのに私は駄目?

さっきはOKだったのに今度は駄目?

判定基準の厳しさなどはレベルの高い選手であれば大会中に修正して審判の基準にアジャストする事も可能です。

しかし審判自体の判定技術が低く、或いは一貫性が無く判定にバラつきがある時はどうしようもありません。

審判の好き嫌いや気分に合わせる事は出来ませんので、自分の中で「ここまではOK」「ここからはダメ」というラインをしっかり持ち、それをキープする事が大切です。

そのうえで判定について陪審員から注意があれば当然応じ、微調整を行えば良いと思います。

【失敗判定でのナンバーカード】

パワーリフティングの審判が、試技が不成功だと判定し赤判定を下す場合、同時にその理由をナンバーカードで示す事になっています。

昔は判定を紅白の旗で(柔道や空手の判定みたいに)あげていたので赤い旗を降ろした後にナンバーカードをあげて「〇〇〇という理由で赤でしたよ」と示していたのですが、現在は殆どの大会で紅白のランプで成功失敗を判定する機械(正式名称が分かりませんスイマセン)で手元のリモコンで1番(赤)2番(青)3番(黄)のナンバーを押すと番号が表示されるようになっているので、今回も手元で成功か失敗かのボタンを押してから1番~3番(2つ失敗理由がある場合は2つ押す)のボタンを押す形でした。

ナンバーカードの内容は以下の通りです。

1番(赤):バーベルがベルトに当たった。

これは殆ど使う事のないカードですが、稀にフルギアでバーが胸につかなかったりした場合もこれに当たります。

2番(青):バーベルが途中で下がってしまったり、肘が伸び切らなかったりした場合はこれに当たります。

稀にバーベルがラックに触れて、その事が挙上を助けたと見られれば反則になりますが、これも2番です。

3番(黄):1番と2番以外の理由は全てこのカードですので、試合であがるカードの殆どはこの3番となります。

お尻の浮き、踵の浮き、足ズレ、合図無視、自力でラックに戻せなかった、セーフティラックが高すぎて当たってしまった。

などなど、とにかく1番と2番以外全てです。

先輩審判の方と話をする中で

「潰れた場合は3番でええやんな?」

「いやいや潰れる前にバーが下がってるから2番やろ‼」

と話題になりましたが審判長によると「3番で統一してください」との事でした。

実は選手で長年出ている人でもこのナンバーカードの意味がはっきり分かっていない人がたくさんいます。

しかし自分が何故赤判定だったかを直ぐに知る事は早く気持ちを切り替えて次の試技に集中する為に必要な知識です。

ルールブックに詳しく載っていますので選手の方は必ず試合前に目を通すようにしましょう。

【副審側から見るポイント】

今回の大会では2つのグループの合計4セッションを副審として担当させていただきました。

午前中の第1グループの前半セッションでは女子のノーギア全階級、後半のセッションでは男子ノーギア53㎏級と59㎏級の全カテゴリー。

午後の第4グループの前半セッションでは男子83㎏級ノーギアのマスターズ 、後半のセッションでは同じく男子83㎏級のジュニア・サブジュニア・一般です。

一番緊張した第1セッションでは、いきなり普段あまり見る事のない、女子選手の柔軟性に富んだブリッヂでお尻がシートに付いているかどうかの判断に困りました。

厳しく見れば面で付いている選手は少なく、また骨盤が立った状態でのブリッヂではベンチに付いている位置がお尻の下のほうなのか?太腿の上のほうなのか?なかなか見極めるのに苦労しました。

特にベンチを太腿の内側で挟むような形のブリッヂは太腿が大きくベンチに触れているため副審側から見ると「太腿の延長線でお尻の内側の下もベンチに触れているであろう?」と見えるのでスタートをかけやすいと感じました。

またグループの最初の方に試技を行う軽量級の選手の方が柔軟性が高く、骨盤も立っている事から第一試技の段階で「あそこはお尻なのか?太腿なのか?これをOKだと言ったらこの後出てくる選手全員をOKにしないと一貫性が無くなってしまう?」などと考え少し厳し目に見てしまったかも知れません。

その反面、スタートの時点でお尻の付き方がスレスレギリギリだと思っているので、動作中に少しでも離れてしまったら赤を上げやすいという面もありました。

足裏の付き方では、踵の丸いマリンシューズを履いている選手の場合、足を大きく開いて踏ん張るフォームの場合は踵が浮いているように見えても「そういうシューズの形なのか?」と迷うので反則と判断出来ないようにも感じました。

勿論これらは審判が「疑わしいのはアウト」という心づもりで見ているのと「明確にアウトと言えないものはセーフ」という心づもりで見ているので大きく変わると思います。

因みに81㎝の手幅についてですが副審の位置からは遠いうえに、タンマグで全体が白くて全くラインが見えませんでした。

副審からよく見えるポイントで言うと、肘の伸びとバーの下がりがあります。

今回私が担当したセッションはノーギアばかりだったので肘の伸びが甘いという選手は殆どいませんでしたが、バーを上げていく際に片側のバーが下がるという選手は意外と多かったように思います。

しかし副審から見て下がったと見える試技でも主審は白をあげているケースもあったので、審判の座る位置や見ているポイントで取れる反則も変わるのだと思いました。

最後にイージーミスで言うと合図無視が思った以上に多かったのが印象的でした。

勿論初出場の選手に多いミスですが、経験のある選手でもスタートのコールより微妙に早く下げ始めたり、プレスのタイミングが合わずにあげてしまっている選手がいました。

プレスコールのギリギリを狙うのは分かりますが、スタートとラックのコールは落ち着いて合図を聞いてから動く事が出来るように、練習で準備しておくべきだと思いました。

【審判を経験しての感想】

なんでもそうですが「相手の立場になって考えてみなさい」というのはスポーツ以外でもよく言われる事だと思います。

今回初めて選手ではなく審判として競技に関わったわけですが、まさに審判の立場になってみなければ見えてこない競技の面白さや運営面での苦労など様々な事を知る事が出来ました。

また選手にとって大切な判定を下すというプレッシャーから今一度ルールを勉強しなおす良い機会にもなりました。

判定に関しては審判も選手と同じで大きなプレッシャーがかかる仕事です。

これは普段から心がけている事ですが、スポーツ選手である以上は審判には敬意を払い、判定は受け入れ、試技が終われば感謝の礼をするのが当たり前だと改めて感じました。

互いをリスペクトする気持ちがこの競技を発展させるような気がします。

今回はベンチプレス大会の副審のみでしたが、次回は三種目の主審に挑戦してみたいと思います。

今後パワーリフティングが盛り上がっていくためにはもっと多くの審判員が必要です。

皆さんも選手とは少し違った形でパワーリフティングの大会に関わってみてはいかがでしょうか?

 

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※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。

 

■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇

・一般男子83㎏級スクワット日本記録樹立
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

・2018年世界クラッシックパワーリフティング選手権大会 マスターズⅠ83㎏級 5位

・2018年香港国際クラッシックインヴィテーショナル大会 マスターズⅠ83㎏級 優勝
・マスターズⅠ83㎏級スクワットアジア記録樹立

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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