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ハイベルトの解説と検証

近年、北欧のパワーリフティング選手を中心にベルトを極端に高い位置に巻く方法が広まっており、最近は国際大会でもこのスタイルの選手を頻繁に見かけるようになりました。

今回のコラムではこのベルトを高い位置に巻く方法(このコラムでは仮にハイベルトと呼ぼうと思います)の解説と、デッドリフトやスクワットにどのような影響を及ぼすのか、検証を行ってみたいと思います。

ハイベルトを採用している選手の例

66kg級デッドリフトジュニア世界記録保持者、ジョン・カウチ選手(オーストラリア)のワイドスタンスデッドリフト

120kg級デッドリフトジュニア世界記録保持者、トゥオマス・ハウタラ選手(フィンランド)のナロースタンスデッドリフト

同じくトゥオマス・ハウタラ選手、スクワットでもハイベルトを採用しています。

【巻く位置、巻き方】

まず最初に巻く位置についてですが、上の動画を見てもわかるように胸骨に近いくらい上部、肋骨にかぶせて巻いていきます。

この時、普通の巻き方のように真横に巻くのでは無く、前側を高くし後ろ側を下げた斜め方向に巻くようにするのがポイントになります。

これは後述しますが斜めに巻く事によって脊柱のカーブをサポートする目的があります。

《ハイベルトの写真》
画像1

これだけ高い位置に巻いて腹圧を上手く掛けられるのか疑問に感じるかもしれませんが、その点については私は特に問題を感じませんでした。

巻く位置が高くなるとお腹側に多くの空気を溜められる為、感覚は変わりますが、腹圧自体は問題なく掛けられています。

(尚、ウエストの細い選手がハイベルトを試す際は、普段よりサイズの大きいベルトが必要になる事があります。)

【ハイベルトのメリットとは?】

ベルトを高い位置に巻くメリットは主に
・背中 中央部の補強
・脊柱のカーブのサポート
・レッグドライブの強化
この三つとなります。
これについて、一つ一つ解説させて頂こうと思います。

背中 中央部の補強

デッドリフトでMAXに近い重量を引く時、大部分の選手は多かれ少なかれ背中が湾曲すると思います。

特に、長身の選手やナロースタンスの選手はその傾向が強いのではないでしょうか。

《背中の曲がったデッドリフトの写真》
画像2

写真のように、デッドリフトで曲がるのは背中の下部では無く中央部からです。

この際、ベルトを高い位置に巻いていれば、湾曲する背中の中央部を補強できるというわけです。

《背中の中央部に巻いた写真》
画像3

これにより、下部を補強する一般的な巻き方よりも背中の曲がりの抑制に有利になると考えられます。

脊柱のカーブのサポート

更に、斜めに巻く事で、ベルトは脊柱の自然な湾曲に沿った角度になります。

《斜めに巻いたベルトと脊柱のカーブ》
画像4

これにより、ベルトは脊椎のカーブをサポートするような形になる為、上体は肩を後方に構え胸が張った姿勢が取りやすくなり、試技中の姿勢の保持にも有利に働きます。

これはベルトを巻いた状態で大きく息を吸って背中を前方に曲げようとすると分かりやすいと思います。

それでは、実際にベルトを巻いて息を吸った状態でどれくらい背中が曲がるか試してみます。

下段の写真を見て下さい。

《普通の巻き方で背中を丸めた写真》
画像5

普通の巻き方の場合、しっかり息を吸っても肩が前に落ち背中は容易に湾曲するので、腰高のまま低い位置のシャフトも簡単に掴めます。

《ハイベルトで背中を丸めた写真》
画像6

ハイベルトでしっかり息を吸うと高い位置に斜めに巻いたベルトが上体の姿勢に作用して背中は簡単には丸まりません。

背中が曲がらず肩が前に落ちにくいので低い位置のシャフトを掴みにくいのがわかります。

この脊柱のカーブのサポートにより、上体の姿勢は崩れにくくなり、デッドリフトのフィニッシュでもロックアウトしやすくなるという効果が期待できます。

レッグドライブの強化

お腹に大きく息を吸える事で、より腹部や脚の筋力を使いやすくなる可能性があります。

これについては感じ方に個人差があるかもしれません、ただ力の入り方が変化するのは確かだと思います。

筆者の場合、大腿の付け根部分の力が使いやすくなり、スクワットのボトムでの出力が上がって安定感が増すと感じました。

【実際に試してみて】

まず、ベルトはお腹に巻く時程にキツく巻くのは難しいので、筆者は若干緩めに巻いています。

外国の選手がどのくらいキツく巻いているのかはわかりませんが、肋骨にかぶせて巻く事もあり、あまりキツく巻くのは少し怖い感じがします。

デッドリフト

取り入れている選手の数を見る限り、ハイベルトと相性が良いのはスクワットよりもデッドリフトのようです。

実際にデッドリフトでテストをすると、脊柱のカーブと中背部がサポートされる事でファーストプルで背中が曲がりにくくなり、セカンドプルからフィニッシュにかけては特にスムーズになると感じました。

しかし、スタートポジションで背中が丸まるタイプの選手というのは、丸める事で腰高の姿勢のまま背中の力を生かしてバーベルを浮かせている面があるので、人によっては背中が丸まらなくなる事でファーストプルが重くなると感じるかも知れません。

デッドリフトでも小柄な選手やワイドスタンスで脚力の優位な選手には、背中を湾曲させず最初から胸を張った姿勢のまま腰を落としバーベルを浮かせてくる人も多いですが、そういう背中が湾曲しないタイプの選手にも効果があるものなのか、その辺りは僕自身で試せない為、今後の知り合いの方々と協力して調べていければと考えています。

スクワット

スクワットでハイベルトを採用している選手はデッドリフトと比べ少ないようですが、それでも国際大会で時折見かけます。

実際スクワットでハイベルトを試すと、お腹に空気を溜めやすくなりレッグドライブの効き方が変わる事と、ベルトで固定される位置が変わる事で、普通の巻き方とはかなりフィーリングが変わってきます。

私の場合は、普通の巻き方のように下腹部から下背部にかけて固定されないので最初は高重量を持つのが怖かったのですが、慣れてくるとハイベルトの方がボトムでの力が入れやすく、少しだけ挙上重量が上がるように感じました。

【パワーリフター以外のトレーニーにもハイベルトを取り入れるメリットはあるか?】

ハイベルトの、背中の丸まったフォームになりにくく姿勢が崩れにくいという特徴は、パワーリフター以外のスポーツ選手がトレーニングに取り入れても、特にデッドリフトで高重量を挙上する際のフォームが安定するという点でメリットがあると考えられます。

ただし、ボディビルのトレーニングなどで見られる背中に効かせる為にわざと上背部を丸めるようなタイプのデッドリフトはやり辛くなるかもしれません。

【まとめ】

ハイベルトを実際に試してみて、筆者の場合はスクワットとデッドリフトの両方で挙上重量に恩恵を感じる事が出来ました。

これは元々私はスクワットやデッドリフトで限界に近い重量になると背中が曲がる傾向にあった為、上体の姿勢の保持に有効なハイベルトとの相性が良かったのだと考えられます。

このようにハイベルトは、フォームとの相性次第で一定の効果が期待できそうです、ただし重量が限界を超えてしまえばハイベルトで固定していてもやはり背中は曲がりますので、その点は注意が必要です。

海外でもハイベルトの選手というのはまだ少数派ですが、その数は年々増えているように感じます。

今後、ルールで禁止されたりするような事がなければ、パワーリフティングの世界で更に普及していくのではないでしょうか。

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■コラム執筆者

神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット237.5kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト262.5kg
トータル660kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場9回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位

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