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ベンチプレスと競技スポーツの関係

皆様いつもコラムを読んでいただいて本当に有難う御座います。

職業柄、色んな場所でトレーニングを行いますが、最近「コラム読んでます!!」と御声掛けいただく事が増え、嬉しく思っております。

今後もジムや試合会場で見かけたら気軽に声をかけて頂き、感想など聞かせて頂ければと思います。

さて第4回はついにベンチプレスと競技スポーツの関係についての話です。

実はベンチプレスの話しは飛ばして次の話題へ行こうかとも思ったのですが、やはり避けて通らずあえてこの難しい話題にチャレンジしてみようと思います。

こう言うと逆に「えっ?なんでベンチの話題が難しいの?」と首を傾げる方も多いと思います。

しかし競技スポーツのためのトレーニングを考えた時に、この最もメジャーで、誰でも楽しく取り掛かれるベンチプレスという種目は、ベンチプレスに対しての思いが強すぎると、時に競技力向上の妨げとなってしまう場合があるのです。

先にも述べたとおり、ウエイトトレーニングという言葉を知らない人でもベンチプレスという言葉だけは知っているのではないかと思うほど、ベンチプレスはメジャーな種目であり、パワーリフティングでもベンチプレスだけの大会がある事から、最早ベンチプレスは、それ自体が一つの競技種目であると考えても良いのかも知れません。

ウエイトトレーニング導入の入り口として大きく貢献する種目であり、ウエイトトレーニングの普及は「とりあえずベンチから」という言葉に支えられている部分も大いにあると思います。

【ベンチプレスのメリット、特性】

・上半身プッシュ系の最大負荷種目である

ベンチプレッサーなどベンチプレス自体を高度な技術を用いて行う場合を除いて、一般的にはベンチプレスは上半身で重りを押す種目です。

主動筋は大胸筋や上腕三頭筋で、勿論肩や背中の筋肉も協働してバランスをとり、バーベルをコントロールします。

上半身を使い“押す”種目としては最大の重量を扱う事の出来る種目であり、上半身の筋力向上、筋肥大、パワーの向上に良い効果を与える種目である事は間違いありません。

・豊富なバリエーションで多角的に実施可能

またベンチプレスはベンチ台の角度を変える事で、鎖骨に近い部分から肋骨に近い部分まで、広範囲に広がる胸の筋肉の色んな部分に刺激を与える事が出来ます。

肩関節に多少の痛みや不具合を感じた場合でも角度を変えれば、かなりの強度で実施可能という場合もあります。

上腕三頭筋も大きな筋肉で、手幅や手首の角度が微妙に変わるだけで負荷のかかり方が変わる面白い筋肉です。

グリップ幅を変えたり、握り方を変えるだけで刺激するメインターゲットを変える事が出来、工夫次第では怪我をしている部位に触らぬようにトレーニングする事も可能です。

【メジャー種目であるが故のデメリット】

こうやって並べただけでもベンチプレスの素晴らしさは沢山あります。

男がベンチを語ると1日や2日では足りないぐらいでしょう。

しかしこの誰でも知っていて、誰でも出来て、誰でも強くなれるベンチだからこそ、いらぬ誤解を受け、他競技では敬遠される場合があります。

それはベンチプレスの魅力に取り付かれるあまり、本来の競技力向上に必要な部位の筋力向上を疎かにし、バランスを欠いた身体作りに突入してしまうケースが多く見られるからです。

そうすると「あいつはベンチばかりして他の部位は鍛えていない。好きな種目だけやっている」というレッテルを貼られてしまいます。

これは各競技の技術指導者のウエイトトレーニングに対する偏見や理解不足によるものが殆どですし、単なるジェラシーではないかと思われるケースもありますが、中には実際に偏ったトレーニングを行って競技パフォーマンスにマイナスに作用してしまっているケースがあるのです。

【ウエイトトレーニング種目が偏ると起きる事】

・極端にアンバランスなトレーニングが姿勢を崩す原因に

ベンチプレスばかりに熱中するような、偏ったトレーニングを行い続けた場合、直立した時に肩が前方に出たような、やや猫背の姿勢になってしまう場合があります。

これはベンチプレス自体が正しいフォームで行えていない事も原因ですが、上半身の前面の筋力、つまり押す筋力に対して、上半身の背面の筋力、引く筋力が弱い事が原因ではないかと考えられます。

これは長身のスポーツ選手によく見られるケースですが、一般的に長身選手はスクワットやデッドリフトで正しいフォームを習得し、下半身や脊柱起立筋を強くするのに少し時間がかかります。

しかし、ベンチプレスだけは他の選手と同じように最初からガンガン出来るので当然「ベンチは楽しいけど、スクワットやデッドは先生に注意されてばかりで重量も伸びないので憂鬱」このような状態になり、筋トレの時間は“ベンチ番長”化してしまいがちです。

ただでさえ長身で普段から猫背になりがちなのにベンチプレスばかり熱心にしていると悪い姿勢が助長され、怪我の原因になってしまいます。

またラグビーなどのコンタクト系競技や格闘技では激しい接触や地面に倒れる際に肩関節を前方に脱臼してしまうケースが多々ありますが、受傷後のリハビリテーションでもこの筋力のアンバランスが回復を妨げたり、再受傷の原因となったりします。

このようにならない為には、まずベンチプレスを行う時は、大きく息を吸い、胸郭を広げ、胸を張り、背中の筋肉も動員して肩甲骨をしっかり安定させてプレス動作を行う事が重要です。

※ベンチプレスで「肩甲骨を寄せ、胸を張る」の具体的な内容については、鈴木選手のコラム「ベンチプレス時の骨格筋動作の解説」で詳しく解説されていますので御参照下さい。

そして、押す筋力と引く筋力のバランスをとる為にベントオーバーローやチンアップなどの引く系のトレーニングもベンチプレスと同じぐらい強化しなくてはなりません。

競技力向上を主目的として行っているはずのウエイトトレーニングで、例えばベンチプレスが200kg挙げられても60kgぶら下げて懸垂が出来ないようでは「アスリート失格」「偏ったトレーニングをしている」と言われても仕方ないでしょう。

【ベンチプレスそのものによる怪我】

・ベンチプレスでの怪我

また、ベンチプレスのフォームや、その行い方が原因で怪我をしてしまうケースもあります。

その多くはやはり肩甲骨をしっかり寄せて胸を張れていないことが原因で起きる肩関節の傷害や可動域減少によるものですが、中には胸に強くバーベルを当て(落とし)過ぎて胸骨や剣状突起を痛めてしまうというケースもありました。

特に中高生に多く、まだ胸板も厚くなっていないのにバウンドさせて重量をクリアする癖をつけてしまうと怪我をします。

更にボディビルの世界ではよく起こるのが大胸筋の肉離れです。

他競技のアスリートではあまり経験が無いかも知れませんが、大学のラグビー部がMAX測定中に大胸筋の筋断裂を起こしてしまい、後で話を聞くと前日に酒を飲んでから十分な水分補給をしていなかったという事例もありました。

スクワットやデッドリフトに比べ、普段から気軽に行っているが故の油断が生んだ事故ではないかと思います。

皆さんも十分注意してください。

・必ずストレッチでケアを

またベンチプレスで姿勢を崩してしまう原因の一つにストレッチ不足が上げられます。

ランニングや下半身のトレーニングを行った後には、しっかりストレッチを行うのに、上半身のトレーニングを行った後に、しっかりストレッチを行っている人は意外と少ないように思います。

ベンチプレスを行うと誰でも簡単に胸部の筋群をパンプアップさせる事が出来ると思いますが、そのまま放って置いてしまうと筋肉や筋肉と腱との境目が硬くなってしまい、姿勢を崩すだけでなく怪我の原因にもなってしまいます。

ベンチプレスの後は必ず可動域を回復させるためにストレッチを行うようにしましょう。

特に高頻度で行う場合は必ずルーティンに組み込むようにしましょう。

また、適切な重量のダンベルやケーブルを使って、様々な角度でフライ動作を行う事も可動域回復には有効です。

【競技アスリートに必要なベンチプレスの行い方】

・胸部のアーチで留めるのか、ブリッヂを推奨するのか

スクワットやデッドリフトでも述べましたが、我々パワーリフターと他競技アスリートでは同じベンチプレスをするにしても目的が異なります。

パワーリフターやベンチプレッサーはルールの範囲内で許されるギリギリのフォームを組み、可動域を少なくし、試技を成功させるためのトレーニングを行いますが、他競技アスリートの目的は上半身の筋力向上・筋肥大です。

純粋に押す力をつけて自分の競技パフォーマンスを向上させるために取組んでいるのに、可動域を減らして重量をクリアしていては本末転倒です。

またベンチプレッサーの真似をして頚椎を痛めたという報告もあり、俄仕込みでブリッヂを組んでもメリットは少ないと考えられます。

手幅にしてもパワーリフティングのルールでは81cmですが、本来は選手の肩幅や腕の長さ、競技で求められる動作、弱点部位など強化したいターゲットよって違って当然です。

極端なブリッヂで重量を伸ばすような事はせず、目的を達成するためのフォームを個別に設定する事が重要です。

ただし、先にも述べたように肩甲骨を寄せて上半身を安定させ、尚且つ押すという動作に背中の筋群まで参加させるという競技ベンチプレスで求められる姿勢保持能力は、例えばラグビーのタックル姿勢作りやスクラムの姿勢作り、アメリカンフットボールのヒットやブロック動作、オフェンスラインのパスプロテクションやパンチ動作、柔道やレスリングのグランドでの攻防など様々な競技で生きる技術であると考えられます。

腰椎の過度な湾曲や首だけで重量を支えるような危険を生まない範囲で、正しく胸部のアーチを作り、上半身全体で押すという能力や、その為の技術は習得させるべきだと考えます。

【将来の伸び白を養うために】

・筋力のアンバランスが将来の伸び白を奪う事も

私は高校生にウエイトトレーニングを指導し始めて、かれこれ15年になりますが、女子選手は別として、男子選手でベンチプレスをメニューに入れて嫌がられた経験は殆どありません。

その反面、MAX測定でベンチプレスの記録がスクワットに勝ってしまうようなアンバランスなアスリートも沢山見てきました。

その多くは中学や高校など、比較的早い段階でウエイトトレーニングを開始したにもかかわらず我流で行っていたため、胸や上腕二頭筋など目立つ部位に偏ったトレーニングで身体の下地を作ってしまったという背景があります。

そういう選手は残念ながら高いレベルでは通用せず、競技力が頭打ちになり社会人になってから下半身のトレーニングを急いでやって、運が良ければそこからまた伸びていきますが、逆に怪我をしてしまったり、元々持っていた身体の使い方自体が狂ってしまい伸び悩むケースも多々あります。

・指導者が準備すべきこと

ウエイトトレーニングは初期の指導が重要です。

特に中学・高校等の部活指導者は注意が必要で、出来れば先生自身も基礎的な知識を身に付け、軽くても良いので正しいフォームを生徒に見せられる準備はするべきでしょう。

勿論、専門家であるS&Cコーチから教わる事が出来ればベストです。

【ウエイトトレーニング、本来の位置付け】

また、各スポーツの技術・戦術指導を行うコーチや監督はウエイトトレーニングに理解のある人ばかりではありません。

ベンチプレスで見た目にはどんどん良い体になっていくのに競技パフォーマンスの向上がそれに追いつかないと、すぐに「ウエイトのやり過ぎだ!!」「あいつはベンチしかやってないからだ!!」と偏見の目を向けられます。

ましてや怪我などしてしまったらウエイトトレーニング自体が完全に悪者扱いされてしまう場合もあります。

またウエイトトレーニングの基本種目全般に言える事ですが、基本的に動作が「押す・引く・持ち上げる・しゃがんで立つ」など動作が直線的でスピードをコントロールされた中で行うため、どうしても専門的な競技動作とは異なった運動であると誤解され「そんな動きは○○じゃ使わん!!」「そんな筋肉は無駄だ!!」と言われてしまいます。

ベンチプレスもその誤解を受ける事の多い種目です。

当然、殆どのスポーツは立って行う事の方が多い訳で、寝転んで押すだけの補強運動が競技パフォーマンスを向上させる事は無いだろう。という考えです。

技術指導者にもウエイトトレーニング指導者にも両方理解して欲しいのですが、ウエイトトレーニングの基本種目で培われるのは、選手のパフォーマンスのベースとなる基礎筋力や身体のサイズであり、スクワットをしたから足が速くなったり、ベンチプレスが強いからハンドオフで相手を吹っ飛ばせるわけではありません。

あくまでその技術を習得するために必要な筋力や体型が準備されるだけで、料理で言えば食材を買い揃える段階に過ぎません。

しかし牛肉を買わないとビーフカレーが作れないのと同じで、脚に筋力が無ければ速く走れませんし、上半身に押す筋力が無ければハンドオフも成功しません。

逆に言えば、筋力・サイズという素材を用意されながら技術に結び付けられないのなら、それは技術を教えるコーチの教え方が悪いと言う事になります。

そして我々S&Cコーチもベースとなる筋力・サイズを獲得したら、それを如何にして競技スキルに結び付けられるかを考え、総合的な競技パフォーマンスへの転化を技術指導者と一緒に考え、取組んでいかなければなりません。
これはどちらの仕事かという問題ではなく、両方が専門的見地から意見を出し合い、歩み寄り、解決していく問題だと思います。

【まとめ】

話を元に戻しますが、ベンチは男の浪漫です。「男ならベンチの前を素通りするな」と教えられている運動部もあるそうです。

ベンチ100kg未満は試合に出さないという部内ルールのある、大学の運動部もありました。

日本人は体型的にはベンチプレスに有利であると言えます。ベンチプレスの世界大会でも多くの日本人が世界チャンピオンに輝いています。

この素晴らしい種目を安全に行い、競技パフォーマンスに繋げる為には、デッドリフトと同じく簡単で単純な動作ではあるが、肩甲骨を寄せて胸を張るという基本姿勢を必ず習得させる事。

そしてブリッジを高くしてストロークを狭めて使用重量を伸ばそうとするのではなく純粋に押す力を高めようという意識で取組む事。

上半身・下半身。押す種目・引く種目。勿論競技特性や個人の課題を考慮しながらバランスよく鍛えていく中で、一つの有効な種目としてベンチプレスを大いに活用してください。

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コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp

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※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。

■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

 

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