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女性パワーリフターとピル 近藤風花選手インタビューVol.1

前回のコラムで月経とパフォーマンスについてお話させていただきました。その時に触れたピルについてのインタビューコラムです。ピルのメリットやデメリット、私が感じた素朴な疑問にも答えていただきました。月経で悩んだことがあり、ピルは気になっているけどなかなか手が出ない…と考える女性パワーリフターにとって非常に勉強になる回になりました。ご覧ください。

◆インタビュー選手紹介

近藤風花(こんどう ふうか)
女子57kg級パワーリフター。2024〜2026年全日本選手権優勝。
パワーフィットネススタジオZERO所属。
ボディメイク競技者としての経験を経て、パワーリフティングへ転向。
公式記録(ノーギア)はスクワット155kg、ベンチプレス105kg、デッドリフト165kg、トータル422.5kg。
競技活動を通して、トレーニングの魅力や女性が身体を鍛える楽しさを発信している。

写真提供:SAMURAI POWER MEDIA

―ピルはいつから使い始めましたか?

一番初めは3年くらい前になります。ボディメイクのトレーニングをしていた時からなんですが、使ったり使わなかったりしていました。そこからパワーリフティングを始めて年齢も重ねてきたせいか、PMS(月経前症候群)がひどくなってきて。コンディションにも影響することもあり、これはまずい!と思って1年くらい前に再開しました。

―実際に使ってみて良かった点はなんですか?

たくさんあるんですが、生理痛が減る、PMSが減る、経血量が減るということは感じています。あとは試合で生理が当たらないようにするという調整もできます。もし生理が来ちゃったとしても、生理痛も重くないし、そんなにくらわない(メンタル的にやられない)。体調面ではすごくよくなりました。
それから、生理中ってすごく関節が緩くなる感覚があるんですよね。それも結構少なくなったような印象がありました。

―関節が緩くなる感覚ってどういう感じですか?

スクワットとか、いわゆるBIG3をやってるとき特になんですけど、腹圧が抜けるんですよね。体の剛性がそのまま柔らかく、緩くなっちゃうというか。スクワットで言うとしゃがんでうまく返ってこれずにスコンって下で抜けるような感じが。まあ、普段からあるんですけど(笑)それがより強くなるような感じがするんですね。
ベンチプレスでも結構緩くなるというか、うまくはまってない感じが強まった感じ。

―それはうまくハマらないなぁ、と思ったら、「そういえば今生理中だ」と気付いて合点がいく感じですか?

そうです。最初はそんな、今日は緩いんだろうなって思いながらではないんですけど、なんとなく練習してて、調子はもしかしたらこうかもみたいな。 ただ、それも生理痛がめっちゃある・全然ないっていうのも含めて人ってそれぞれコンディションが毎日違うじゃないですか。それと同じで生理痛の上下ももちろんあるから、それが毎回必ず決まってこういう風に出るっていうわけでは全くないんですけど。関節が緩いような感覚や安定しない感じが出るタイミングは、少し多くなる印象はあります。試合に関しても、このタイミングに当たるとちょっと不安というか、「あまり当たりたくないな」と無意識に思うことはありますね。

【補足】月経周期の関節のゆるみに関して
月経周期中の黄体期には卵巣の黄体からリラキシンというホルモンが分泌される。これは靭帯や腱を構成するTypeⅠコラーゲンの合成を低下させると共に、一部コラーゲンの分解を促進するため、黄体期には靭帯の質や強度が低下する。実際に血清リラキシン濃度が6.0pg/mL以上を示す女性アスリートでは,6.0pg/mL未満の女性アスリートと比較しACL損傷のリスクが4.4倍高い。ピルを使用している女性はリラキシン濃度が低くなることも報告されているため、関節の緩みが気になるアスリートはピルで改善する可能性もある。黄体期は生理前の時期であるため、風花選手が生理中に感じている関節の緩みからは若干相違がある。リラキシンが原因でない可能性も示唆される。

—ピルを飲むデメリットは感じましたか?

最初の1,2週間はピルを飲んだことによる体の不調が確かにあって。目がくらむし、お腹痛いし、ちょっと気持ち悪いみたいな。でもお医者さんも最初は誰しもあるものだって言っていて、確かに最初だけでその期間を抜けたらすごく快適になりました。飲んでいたけど一回やめて間が空いてまた飲む、という時にもありましたね。
あとはめんどくささ。毎日飲まなくちゃいけないという部分もあるし、毎回通院しなければいけないという部分も。オンライン診療とかも最近出てきていますが、基本的には診察してもらわないといけないですし。あとは保険適応であれば安く済みますがお金はかかりますね。

【補足】
日本では、低用量ピルの保険適用は処方の目的や種類によって異なる。主に病気の治療を目的としたLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン)製剤の場合、月経困難症や子宮内膜症などの診断が医師から下されれば健康保険が適用され、3割負担の費用で処方可能。
一方、避妊目的のOC(Oral Contraceptive)や、月経移動、ニキビ治療、PMS(月経前症候群)などの用途では保険適用外となり、全額自己負担となる。この場合、自由診療として婦人科で処方されるのが一般的。スポーツのコンディショニング調整として受診し、処方される場合は保険適用とならない場合が高い。

―生理周期によって、コンディションやパフォーマンスの変化はありましたか?

ありましたね。やっぱり一番調子が悪いのは生理中で、体のコンディション的には「言うことを聞かない」感じでした。力が入りにくかったり、思うように動けなかったりして、パフォーマンスは落ちる実感がありました。生理が終わったあとの1〜2週間、いわゆる“キラキラ期”はかなり調子が良くて、パフォーマンスも上がる感覚がありましたね。動きやすいし、トレーニングもハマりやすいです。
生理前に関しては、体のコンディション自体が大きく崩れるというよりは、メンタルの影響が大きかった印象です。なんとなく気分が乗らず、それがパフォーマンスに少し影響していたかなという感じです。ただ、お腹の張りは結構あって、内臓が膨らんでいるような感覚で、お腹が出る感じはありました。全体的に見ると、生理中が一番きつくて、生理前1週間も少し落ちて、生理後が一番良い、という流れでした。ピルを飲んでいるときに関してはコンディション自体、生理周期で変動しなくなりました。

―ピルを飲むことでパフォーマンス自体の変化を感じましたか?

ピルの服用による直接的なパフォーマンス向上は感じていません。ですが、体調やメンタルが安定することで、結果的に練習の質は向上しました。

―私がピルについて話を聞きたいと近藤選手にお願いした時、やめてみようかとも思っているとも言っていました。その理由はなんですか?

PMSがひどかったり、月経によって体調が悪くなったりするときって、(子宮の疾患があるときは別ですが)それにならざるを得ない何か問題があるんじゃないかって思ったんです。薬以外のコンディショニングなどの方法で体質改善することによって、今の悩みが改善されるか実験してみたいんです。ピルを飲まなくても大丈夫な体になるんだったら、それが自然かもしれないとも思ったんですよね。トレーナーとして、いろんな考え方を持つクライアントに対応できるようにするためにも、ピルはいいですよ、ってだけいうのではなくてできることもっとありますよ、って言えたらいいなと。

実際に中断してみているんですが、競技とは関係ないんですけれど肌荒れやPMSはちょっと戻ってきている感じはあります。これらの体調の変化を含めてどこまでを自分が良しとするのかも実験ですね。

―基礎体温は測ったことありますか?また、それで何か分かることはありましたか?

正直、ちゃんと継続して測ったことはないです。基礎体温って専用の細かく測れる体温計が必要だったり、朝起きてすぐ測らないといけなかったりして、結構ハードル高いじゃないですか。なので、習慣として続けたことはないですね。

ただ、なんとなく気になって測ったことはあって、生理前の時期に少しだけ測っていたことがあります。きっちり「起きてすぐ布団の中で測る」みたいな理想的なやり方ではなくて、朝起きて少し動いてから測る、みたいなラフな感じでした。
なんで測っていたのかも正直あまり覚えていないんですけど、コロナ禍で体温を気にしていたのもあると思いますし、「そろそろ生理来るかな?」みたいなタイミングで、自分の体の変化をなんとなく見ていた感じです。

それでも、実際に測っていると「あ、今日ちょっと体温低いな」と感じる日があって、そういう時に生理が来たことはありました。基礎体温計じゃなくて普通の体温計だし、毎日すごく正確に測っていたわけではないし、変化もすごく大きいわけではないんですけど、それでも「あ、こういう変化あるんだな」と実感できるくらいには分かりましたね。

ただやっぱり、毎日きちんと測るのは正直めんどくさいです(笑)。朝起きてすぐ測るっていうのも、実際やろうとすると二度寝しちゃったり、気づいたら体温計落としてたりして、なかなか続かないんですよね。
だからこそ、「ちゃんとやらなきゃ」と思いすぎなくても、試しにちょっと測ってみるだけでも意外と気づけることはあると思います。そういう意味では、「気になる人は一回やってみるのもアリかも」くらいの感覚ですね。

【補足】
基礎体温測定は、毎朝起きてすぐの体温を記録することで、体のリズムを把握する方法。女性の体は、生理周期に合わせて体温が変化する特徴がある。
基本的には、以下のような変化がある。
・排卵後〜生理前:体温が高い(高温期)
・生理直前〜開始時:体温が下がる

この「高温期からストンと体温が下がるタイミング」で、月経が始まることが多いため、日々の体温を見ていると「そろそろ来そうだな」と予測することができる。今回のように、毎日きっちり測っていなくても、「いつもより低い日がある」といった変化に気づくことで、実際に月経とタイミングが重なるケースもある。

ただし、正確に予測するためには、『毎日同じ時間に、起床直後の体を動かす前に、専用の体温計で測る』といった条件を揃える必要がある。
とはいえ、まずは「なんとなく測ってみる」だけでも、自分の体のリズムを知るきっかけにはなるかもしれない。

―パワーリフターとしてピルはおすすめしますか?

個人的には、特に大きな問題がなければおすすめしたいなと思います。ただ、「全員に絶対必要」というよりは、やっぱり生理周期によって練習に支障が出てしまう人には特に合うんじゃないかな、という感覚です。例えば、生理中や生理前でコンディションが崩れてしまって、せっかく組んだトレーニングプログラムが思い通りに進まなくなることってあると思うんです。もちろん、その都度調整することはできるんですけど、ピルを使うことでそういう“崩れる要因”を一つ減らせる可能性はあるかなと感じています。体の問題だけじゃなくて、メンタル面も含めて「生理の影響でうまくいかない」と感じる人は、一度試してみるのは全然アリだと思いますね。合わなければ無理に続ける必要もないですし、自分に合うかどうかを確認する選択肢の一つとして考えるのがいいと思います。あと、競技特性でいうと、パワーリフティングはボディメイクほど見た目のむくみがシビアに影響する競技ではないので、そういう意味でも取り入れやすい印象はあります。実際、ピルを使っていた方がコンディションが安定して、水抜きもうまくいったと感じることもありました。ただ一方で、飲み忘れがあるとホルモンバランスが崩れてしまって、逆にコンディションが乱れることもあります。試合前にそれが起きるとかなり影響が出るので、継続してきちんと管理できる人の方が向いているとは思います。

―ピルを使う上で気をつけた方がいいことはありますか?

使い始めてすぐは、体がどう反応するか正直わからないというのは注意点だと思います。
体の中のホルモンバランスが変わるので、最初の1〜2ヶ月は思わぬ体調の変化が出る可能性もあります。なので、もし試合に向けて使うのであれば、直前に始めるのではなくて、少なくとも2〜3ヶ月くらい前から試して、体を慣らしておく方が安心です。問題なく安定して使える状態になってから試合に臨む方がリスクは少ないと思います。実際にやってみないと分からない部分も多いので、大きな大会の直前にいきなり導入するのではなくて、事前に自分の体で試してみる、というのはすごく大事かなと思いますね。

―ありがとうございました。

参考資料
1. Nose-Ogura S, et al. Oral contraceptive therapy reduces serum relaxin-2 in elite female athletes. J Obstet Gynaecea Res. 2017;43(3):530-535.
2. GYNメディカルグループ. 保険適用ピル・月経困難症治療薬(LEP). 2026.
  https://gyn-md.jp/menu/pill-prescription/lep/ [web:162]
3. 能瀬さやか. 女性アスリートのコンディショニング~性ホルモンとスポーツ外傷・障害の関連に着目して~. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2025;33(2):207-209.
4.『Health Management for Female Athletes Ver.3 ―女性アスリートのための月経対策ハンドブック―』東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 発行(第3版:2018年3月31日発行)

※本文の記載の内容については2026年5月現在の情報によるものです。

【次回予告】
実際にピルをやめてしばらく経った風花選手にもう一度インタビューしました。ピルを使わないコンディショニングについてのコラムをお届けします。


◆コラム執筆者

福島未里(ふくしまみさと)
静岡県富士市FTGYM所属
FTGYM(https://ft-gym.com/)

【パワーリフティング(ノーギア)ベスト記録】
スクワット 145kg
ベンチプレス 113kg(一般女子57kg級 日本記録)
デッドリフト 165kg
トータル 423kg(一般女子57kg級 日本記録)

【ウェイトリフティング ベスト記録】
スナッチ 72kg
クリーン&ジャーク 95kg

【大会成績(抜粋)】
2013年 アジアベンチプレス選手権(ジュニア57kg級・フルギア)優勝
2014年 世界ベンチプレス選手権(ジュニア57kg級・フルギア)準優勝
2017年 ジャパンクラシックベンチプレス選手権(57kg級)優勝
2018年 ジャパンクラシックベンチプレス選手権(57kg級)優勝
2019年 世界ベンチプレス選手権(一般女子57kg級)5位
同年  ジャパンクラシックパワーリフティング選手権(57kg級)優勝
2022年 ジャパンクラシックパワーリフティング選手権(57kg級)優勝
2023年 静岡県ウェイトリフティング選手権(59kg級)優勝
2024年 全日本女子選抜ウェイトリフティング選手権(59kg級)10位
2025年 国民スポーツ大会 パワーリフティング(女子中量級)3位
2026年 全日本パワーリフティング選手権(57kg級)3位

【保有資格】
•日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
•NSCA-CSCS
•柔道整復師
•産前産後アスリートサポートスペシャリスト

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