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パワーリフティングとホームジム

近年パワーリフティングの世界では国内大会でも国際大会でもホームジムで練習する選手の活躍が目立ってきていると感じます。

今回のコラムではホームジムで練習するトップ選手が増えた理由についてや日本のホームジムの特徴についての考察、更に実際にホームジムで練習するトップリフターへのインタビュー等を実施しました。

パワーリフターのみならず、ホームジムを検討しているパワーリフター以外のトレーニーの方にもきっと参考になるのではないかと思います!

【パワーリフティングの世界で増加するホームトレーニーのトップ選手】

以前のフルギアしか世界大会の無かった時代、パワーリフティングは個人競技でありながらもチームスポーツ色が強いものでした。

ギアを効かせるノウハウは一部のパワーリフティング専門ジムに集中しており、ギアの練習も一人で行うのが難しく危険を伴う事から、大会で勝つにはパワーリフティング専門ジムに通うのが非常に重要でした。

実際、その頃の全日本選手権の表彰台は一部のパワーリフティング専門ジムで練習する選手達が独占しており、今でもフルギアパワーリフティングにはそういう傾向があります。

しかし2012年の世界クラシック初開催以降、パワーリフティングはノーギア人気が爆発し、最近は競技人口の上では国内でも世界的にもノーギアが主流と言える状況になっています。

そしてそのノーギアパワーの舞台で台頭してきたのがホームトレーニーの選手達です、ノーギアであれば一人での練習であっても不利になる点は少なく、逆に「時間の節約になる」「自分のペースで練習を行える」といったホームトレーニーのメリットが目立つようになってきました。

現在パワーリフティングの世界では59kg級の蛯原選手、74kg級の比嘉選手、女子47kg級の可児選手といった日本を代表するノーギア選手達が自宅に作ったジムを練習拠点にしており、海外でもホームジムでトレーニングするトップ選手が数多く見られます。

そしてこれから益々ホームトレーニーのトップ選手は増えていくのではないかと考えられます。

※ホームジムで練習する世界の選手達

ガレージを改造したジムでトレーニングをする105kg級の強豪ギャレット・ブレヴィンス選手

 

ノーギアの女王キンバリー・ウォルフォード選手のホームジム

 

【日本独特?マンションや自宅の一室を利用した省スペース型ホームジム】

ホームジムというと海外ではガレージや地下室といったある程度広い空間を利用したものが多く見受けられます、しかし欧米と比べて住宅事情の厳しい日本ではガレージや地下室のある家はそうそうありません。

そんな中、最近国内の選手の間で普及してきていると感じるのが六畳や四畳半の部屋を改造した省スペースタイプのホームジムです。

六畳や四畳半のスペースでもオリンピックシャフトを置いたホームジムを作るのは十分可能です、これだけ狭いホームジムというのは海外ではあまり見ないのですが、日本では住宅事情にマッチしたこのタイプのホームジムこそが主流になると私は考えています。

自宅の一室にジムを作るとなると広さや床の強度的に不安を感じる方もいるかもしれませんが、スペースを有効に使う工夫をすれば本格的な練習も十分に可能です。

床の強度については耐荷重量を調べた上でコンパネ等を敷くといった処置が必要になってきますが、鉄筋コンクリートであればトレーニング器具くらいの重さが問題になる事は基本的にはありません。(床の強度等については器具設置前に問題ないか調べて自己責任で器具を設置して下さい)


(こちらの写真は筆者が以前練習に使っていた六畳間を改造したホームジムです。)

【ホームジムを持つトップリフターへのインタビュー!】

今回インタビューに協力して下さったのはこの方、ご存知ノーギアパワーリフティングのトップ選手で日本のパワーリフターYouTuberの先駆けでもあるハリー選手こと風張透選手です!

ハリー選手もやはり自宅の一室を改造した省スペースタイプのホームジムで普段の練習を行っています、ハリー選手のホームジムについて色々と質問させて頂きました!

風張透選手

パワーリフティング実績

ジャパンクラシックパワーリフティング選手権 優勝1回 準優勝5回 3位1回
全日本パワーリフティング選手権 準優勝1回 3位1回

ベスト記録(93kg級)

ノーギア
スクワット255kg
ベンチプレス197.5kg
デッドリフト275kg
トータル710kg

フルギア
スクワット337.5kg
ベンチプレス240kg
デッドリフト290kg
トータル845kg

ハリー選手のホームジム

インタビュー

※ハリーさんのホームジムの設置器具や、それらを選んだ理由、それに練習しやすいよう工夫している点等を教えて頂いてもよろしいでしょうか?

ボクのホームジム(通称ハリージム)では以下の器具を使用しています。

①パワーライン
国内のパワーリフティング公式戦でも使用されるラックで、世界一ベンチプレスがやりやすいと多くのパワーリフター、ベンチプレッサーに愛されている名品です

パワーライン導入前は児玉大紀選手監修のボディメーカー社“児玉SP”を使用していました。
とてもベンチプレスがやりやすい台で気に入っていたのですが、スクワットもハリージムで出来たら便利だなと思って、思いきって購入しました。

②イヴァンコ社のオリンピックシャフト
古くから多くの世界大会で使用されているシャフトです
シャフトを選ぶポイントは、パワーリフターであればlPF公認器具で揃えば問題ないですが、現在の主流は握りの太さ(径)が29mmですので、エレイコ、ブル、または最近日本でも販売しているローグフィットネス、この3社から選ぶことをオススメします。
イヴァンコは径が28mmなのと、世界の主流がエレイコになったことで、パワーリフターからすると優先度が下がった事は否めませんが、非常に優秀なシャフトである事実は変わりませんので、ハリージムでは継続利用中です。
(購入当時はイヴァンコが主流でした)

③エレイコプレート
世界大会でシェアNo.1のプレートです。

以前はイヴァンコの安価なプレートを使用してましたが、どうせなら大会と同じ器具で練習したいと考えて、 パワーラインを揃えたタイミングで全てのプレートを買い換えました。
大会で使用されるプレートは重量誤差がほぼ0に対して、それ以外のプレート1~3%の誤差があります。
例えば、20kgのプレートの場合、200g~600g程度の誤差がある事を考えると、精度の高い練習は出来ません。
ボクはベンチプレスで500gプレート、250gプレート等の世界記録や日本記録挑戦時に使用する小さなプレートを積極的に使用します。
通常の上げ幅最小単位は2.5kgに対して、この手法では上げ幅を500gまで下げられます。
限界付近で2.5kgの単位は特に女性にはかなりハードルが高いので、小さなプレートを積極的に使用して欲しいですが、そもそものプレートに誤差があると、このような練習は不可能になります

工夫している事は、常に大会と同じプレート枚数、つまり最小枚数にするようにしてます。
細かすぎると思われるかもしれないですが、より大会での精度を高める為になるべく条件を同じにします。

(例えば165kgをセットする場合、片側に“25kg→25kg→15kg→5kg→カラー”とセットせず“25kg、25kg、20kg、カラー”とセットする)

※日本のトップパワーリフターであるハリーさんにとってホームジムで練習するメリットとは主にどういった所でしょう?

仕事柄、家に着くのが早くても21時過ぎ、平均して22時頃になりますので、通常のジムで練習する事は現実的ではありません。
ホームジムの最大のメリットは、こうした状況でもヤル気さえあれば必ず練習時間を確保出来る事です。
平日の練習パターンは22時から24時まで練習して、その後プロテインを飲んで直ぐに眠り、朝6時に起きて出社する、といった感じですがここ数年は問題なく練習回数を確保出来ています。

また、ホームジムは必然的に一人での練習になりますが、ベンチプレスの動作が上手くなるメリットもあります。

どんな時でもセンター補助が使用出来ないので、必ず自己完結する必要があります。

ラックアップを自分で行い、戻す動作も騒音を抑える為に何キロであろうとも丁寧にコントロールしてラックに戻す。

この一連の動作も積み重ねれば、数年で大きな伸びに繋がりますし、センター補助が大会でも必要無いので、センター補助のスキルに記録が左右される事もありません。

※これからホームジムを作るトレーニーへのアドバイスや、ホームジムを作るにあたって特に気をつけなければならない点はありますか?

多くのジュニア選手は社会人になると同時に練習量の確保が難しくなり、そのまま大会にも出なくなり消えていくパターンを数え切れない程見てきました。

まず、社会人1年目のリフターに対しては、安価なパワーラックを使用した簡単なホームジムを作成する事を強くオススメします。

パワーリフティングの場合、練習時間が短くてもその質を高めていけば、必ず記録は伸びていきます。

ホームジム作成に際して最も気を使うのが騒音問題です。

プレートの付け替えは勿論、安価なプレートは動作中にお互いがぶつかり合い大変うるさいです。
(実はイヴァンコプレートを撤去した理由の一つに、動作中の騒音がありました)

ですので、可能な限りラバープレートで揃えた方が将来的に間違いないです。

※ハリーさんありがとうございました!やはりトップ選手のホームジムは限られたスペースでも可能な限り精度の高い練習ができるよう様々なこだわりを持って作られているのがわかりますね。

トレーニング解説や試合動画を投稿しているハリーさんのYouTubeとTwitterはこちらよりチェックできます!

https://www.youtube.com/channel/UCtqT-MKm217xV0dHmZb7OOg

https://twitter.com/harry072088

 

【元ホームトレーニーの筆者の感じたホームジムのメリット、デメリット】

ハリー選手もおっしゃっているように、ホームジム最大のメリットはやはり時間の節約になる事だと感じます。

フルタイムで働いている社会人でジムに毎日通えるという人はかなり稀だと思いますが、ホームジムであればジムまでの移動時間や器具の順番待ちの時間が無くなり、練習時間の確保が容易になります。

それに伴って最近流行りの高頻度スクワットやエブリベンチのようなトレーニングも取り入れやすくなります。

デメリットとしてはモチベーションを上げるのが難しい事や、指導を受けられず一人よがりの練習になりかねない事です。

モチベーションについては常にターゲットの試合を設定したり、SNS等を上手く利用してライバルや目標を見つけて競い合っていくような工夫が必要ではないでしょうか。

練習内容についてはパーソナルトレーニングやオンライン指導を利用し定期的に指導者の方に見てもらったり、フォームを可能な限り動画撮影してチェックするのが重要になってくると考えられます。

それと一人でのトレーニングは何かあった時に助けてくれる人がいませんので頑丈で安全な器具を使用するのが非常に重要になります、必ず安全を確保した上で無理をしないよう行って下さい。

今回はパワーリフティングとホームジムについて書かせて頂きましたが、ホームトレーニーでも世界チャンピオンを目指せる、これはパワーリフティングの他の競技には無い大きな魅力の一つではないかと考えています。

ノーギア人気もあってホームジムはパワーリフターにとって以前より有力な選択肢になってきています、パワーリフティングやトレーニングに興味があるが忙しくてジムに行く暇のないという方はホームジムを積極的に検討してみるのもいいかもしれません。

 

コラムニストやコラム内容についてのメッセージは下記のアドレスまでお送りください。

コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp

※どのコラム宛かを明記してください。
※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。

■コラム執筆者

神野亮司
愛知県 MBC POWER所属 ( http://mbcpower.web.fc2.com/ )
ベスト記録(ノーギア)
・93kg級
スクワット245kg
ベンチプレス165kg
デッドリフト267.5kg
トータル662.5kg
・83kg級
スクワット212.5kg
ベンチプレス157.5kg
デッドリフト255kg
トータル612.5kg
実績
ジャパンクラシックパワー(旧ジャパンオープンパワー)出場10回、最高2位
2012年アジアクラシックパワー男子一般83kg級2位
2014年世界クラシックパワー男子一般83kg級11位

 

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