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スクラムを強くするためにフロントローはどう鍛えるべきか?【前編】

読者の皆様、いつもご覧頂き有難う御座います。

まだまだ寒さの厳しい毎日ですが体調管理には十分気を付けて日々のトレーニングを行いましょう。

去年も書いたかも知れませんが、私は酷い花粉症でして毎年この時期は寒さと共に目の痒さと鼻詰まりに苦しむ日々です。

指導しているアスリートの中にも花粉症の選手が多く、ラグビーなど屋外の競技では練習がまともに出来ないほどの症状に悩まされる選手も多くみられます。

ラグビーなどのコンタクト競技では練習中の集中力低下は即怪我に結びつきます。アレルギー持ちで無い指導者はなかなかアレルギーを持っている選手の気持ちにはなってくれないものですが、選手の体調の変化にくれぐれも注意して日々の練習に取り組んでください。

さて今回はラグビーのスクラムを強化するためのトレーニング方法について2回に分けて一緒に考えていきたいと思います。
先に言っておきますが、かなりマニアックな内容となっているため興味の無い方にはややキツイかも知れませんが、ラグビー競技に携わるトレーニング担当コーチにとっては腕の見せ所と言う分野でもありますので、長い話になりますがお付き合いいただけますよう宜しくお願いいたします。

【スクラムとは】


ラグビーをあまり見た事が無い方もいると思いますので簡単に説明しますと。

スクラムはラグビーのセットプレーの一つで、ボールを前に投げてしまったり、前に落としてしまった、などの軽いペナルティの時、或いは人が立ったまま密集状態になるモールや人が倒れてボールが地面にある状態での密集状態であるラックが形成された時に、そこからボールが出て来ない時に試合を一旦止めて再開する時に行われるボールの争奪方法の事です。

スクラムはフォワードと言われる背番号1~8までの選手が身体をバインドして一つの塊となり相手と組み合い、押し合います。

先頭になって組み合う3人はフロントローと呼ばれ左側をルースヘッドプロップ、真ん中をフッカー、右側をタイトヘッドプロップと呼びます。

今回はこのスクラムに勝つために非常に重要なフロントローの選手のトレーニングについて考えていきたいと思います。

【口出し無用の領域】

ラグビーは15人で行うスポーツなので(他にも7人制・10人制・13人制等あるがここでは日本で一番メジャーな15人制の話をします)15個のポジションでそれぞれ違った役割があります。

勿論共通する部分は多いのですが、このスクラムだけは組んだ者にしか解らない事が沢山あり、その中でもフロントロー3ポジションだけは更に特別で、この3人の中でどういう駆け引きが行われているかは他の者には解らないのが実際のところです。

「スクラムを組んだ事の無い人間が口出ししてはいけない境域」そういう暗黙の了解が交わされている部分でもあります。

実際に私がプロのコーチや日本代表、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、ウエールズ、サモア、トンガ等各国代表を経験した選手やコーチに聞いてみたところ、フロントロー出身者以外の選手やコーチは最終的には必ず「細かいところはフロントローで無いとわからない」と口を揃えて言うのです。

それぐらい難しく逆にフロントローにとっては拘りのあるプレーなのです。

試しにフロントローの選手やスクラムコーチにスクラムについて少し突っ込んだ質問をしてみると軽く30分~1時間は各々のスクラム論について語られる事もしばしばあります。

オールドプレーヤーの中には「試合では負けたけどスクラムは勝ったんじゃ!」っと過去の戦績を誇る人もいるほどで、何年経っても忘れられないプライドを賭けた一押しがあるという事です。

【スクラムを強化するために必要な筋力】

ラグビー界はここ20年ほどの間にプロ化が進み、選手の身体がどんどん大きくなってきました。

それに伴い選手の安全を守るためにルールも少しずつ改正されてきました。

その中でも特にスクラムはフロントローの選手が頸椎を損傷する危険が高かったため、スクラムを組み合う際の衝撃を減らすために少しずつ当たらずに組み合うようにルールが改正され、現在では両プロップが相手のジャージを握り、しっかりバインドしてからレフリーの「セット」の合図で組み合うようになりました。

フロントロー同士の耳と耳が触れ合うほどの間隔しか空かないので以前に比べるとヒットの衝撃はかなり少なくなり頸部への負担は減りました。

そして以前より真っ直ぐ公平に安全に組み合う事が要求される分、よりスクラムはフィジカルが強い方が優位な争いへとなりました。

1番3番に関わらずスクラムを組む際に最も重要なのは体幹部の支持力であると私は考えます。

7人制のように3対3で組むだけなら脚筋力の方が重要かも知れませんが、現在の15人制のスクラムは8人が一塊になって押す事が必要で、その為にはフロントローは自分の脚筋力を発揮するだけではなく、後ろからの押しを効率良く受ける姿勢を取り続けなければなりません。


またスクラムは合計16人もの人間が体重を預け合い、脚をかいて押し合うので当然グラグラとバランスが崩れ、芝の状況によっては足元も滑るという非常に不安定な状況で如何に力を発揮し続けられる姿勢をキープし続けられるかが鍵となります。

当然パワー一辺倒の押し合いではなく、相手のバランスを崩そうと見えないところで様々な攻防が繰り広げられています。

前後左右色んな方向へプレッシャーを受けながらも動じない強い姿勢保持力が必要です。

次にスクラムの最前線で戦うフロントローが直接相手と触れ合う部分はこの微妙な駆け引きを行うのに非常に重要なボディパーツと言えます。

その中でも最も自由に動かせるのが首です。


フロントローたちはスクラムを組み合う際に自分が押しやすい首の位置を相手と取り合いをしています。或いは自分の頭を相手の首をロックするように差し込み相手が押し込めないような首の位置に決めてしまったりもします。

更には首と肩を捻じりバインドしている腕の力も使い相手を外側にずらしてスクラムから離脱するような格好にして相手の押しを無力化するようなテクニックまであると聞きます。

そもそも首が太いと相手が頭を入れるスペースが少なくなるので相手にとっては組み難い体になります。

安全面も勿論ですが、首を太く強くする事はフロントローが組み合いの最前線で戦う上で重要であると言えます。

相手にとって組み難い体と言えば肩回りの筋肉や大胸筋の上部が分厚い選手も相手からすると組み難い体と言えます。


またその大きな肩を使って相手の体勢を崩す為にも背中を真っ直ぐ保った状態で肩甲骨を上手く動かせるような筋力や柔軟性も必要でしょう。


また、肩甲骨と共に当然相手とバインドしている腕の力も相手を崩す為には重要です。

しかしこの腕をレフリーから見えるように使い過ぎると、スクラムが崩れた際に「故意的にスクラムを崩した」と見做され「コラプシング」という反則を取られます。

本来はスクラムで押されている側が「もうこれ以上押されたくない」と思って故意にスクラムを崩す、或いは組み勝てないのでボール投入前にワザと崩して何度も組みなおそうとする事を罰する。

要するに弱い側が正当なコンテストを妨害する事を罰する反則ですが、フロントローの攻防では時に故意ではないのに反則を取られてしまう微妙な駆け引きが存在します。

自分で崩しておきながら相手が崩したように見せるテクニックを持つ狡猾なベテラン選手も沢山いますので、フロントローは筋力やサイズを養うのに時間がかかると共に多くの経験を積むためにも育成に時間がかかるポジションと言えます。

話しをトレーニングに戻しますが、当然これら上記の筋力が備わっているうえで、やはり一番大事な押す力は脚筋力です。
脚筋力と言えばスクワットが一番しっくりきますが、スクラムの場合は単純な1発上げのスクワットの力よりも少し工夫をして行うスクワットの方が有効であると私は考えています。

それにはもう少しスクラムについて説明が必要なので、文量も多くなってしまったのでここから先は来月の後編で詳しく書いていきます。

「来月まで待てない!」というマニアな方は3月4日に私の母校である東海大学にて以下のようなセミナーを開催いたしますのでご参加いただければと思います。
http://www.u-tokai.ac.jp/campus_life/tokai_sports/news/detail/_1.html

■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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