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デッドリフトの基本的な考え方 そしてスポーツ競技者にとって有効な実践方法とは

読者の皆様こんにちは。

ようやく涼しくなり、爽やかな秋空と共にスポーツと食欲の季節がやってまいりました。

大いに身体を動かし、美味しいものを沢山食べて、健康で楽しい毎日を過ごして頂きたいと思います。

我々、ラグビー関係者にとってはいよいよ秋のシーズンが開幕し、毎週全国各地を飛び回りながらもトレーニングを継続して行っています。

特に今年はワールドカップイヤーです。

先日、日本代表が優勝候補の南アフリカを予選で撃破するという快挙を果たしてくれました。

このコラムが掲載される頃は、予選第3戦のこれまた強敵サモア戦の直前です。

開催地イングランドとは時差が大きいため日本時間では深夜の放送となりますが、是非JAPANに多くの声援を送ってください。

そして我々国内リーグもワールドカップ開催に伴い、例年とは違ったスケジュールでリーグ戦を戦っております。

現在は代表選手達が出場していないため、次の4年後を担う若い選手達による熾烈な競争が行われています。

野球やサッカーに比べるとマイナーな競技ではありますが、基本的なルールさえ分かれば誰でも楽しめる面白いボールゲームです。

特にパワーリフティングやボディビルなどを実践するバーベル愛好家の皆さんにとっては身体を作り上げる苦労が分かる分、その激しい肉弾戦に一般の人とは違った共感を持てるはずです。

是非試合会場までお越し頂きナマで観戦して下さい。

【ラグビー選手とデッドリフト】

さて前回のスクワットに引き続き今回はデッドリフトのお話です。

「もしも時間が無くて1種目しかトレーニングが出来ないとしたら、あなたは何を選びますか?」という究極の選択を強いられたとしたら、私なら迷わずデッドリフトを選択するでしょう。

何故ならば私の身体の最も多くの筋肉を動員し、最も重い重量を動かす事の出来る種目だからです。

デッドリフトはパワーリフティング3種目の中では、他の2種目よりも一般的な知名度は低いといえます。

一般のフィットネスクラブや公共施設ではなかなか実践者に出会う事は少ないかも知れませんが、競技アスリートにとっては他の2種目同様、競技力を向上させる為の基本となる種目です。

【重量が伸びるが故に危険なフォームに】

デッドリフトはとてもシンプルな種目です。

床に置いてあるバーベルを両手で掴んで引き上げ上体を起こし直立する。これだけです。

コツを掴んで重量が伸び始めるとデッドリフトはとても楽しい種目になります。

スクワットのように深さでイチャモンを付けられる事も無く、挙げればそれが真実です。

パワーリフティングの試合でも会場が一番盛り上がるのはデッドリフトの最終試技でしょう。

極限まで高めた集中力で、全てを出し切る試技は周囲の感動を呼ぶ、パワーリフティングの醍醐味といえます。

前に述べた通りデッドリフトは、動作自体は単純で簡単なものです。

スクワットやベンチに比べると細かいテクニックはそれ程無く、強引に引き切ってしまえば多少フォームを崩していても挙がってしまいます。

しかしこれが逆にデッドリフトの一番の怖さと言えます。

競技スポーツの指導現場で良く聞くデッドリフトの悪評は80%程度が「腰痛になる」残りの20%程度が「ハムストリングスの肉離れの原因になる」だと思います。

デッドリフトと腰痛はある意味切り離せない問題です。

トップレベルの大学生や社会人のアスリートでも危険なフォームでデッドリフトを行っている選手が沢山います。

中には釣竿のように脊椎を撓らせて持ち上げるような危険極まりないフォームでも挙がってしまうケースがあります。

「あがってるから良いじゃん」この考えでトレーニングを続けてしまうと、いずれ怪我をして「デッドリフトのせいだ」と、この効果の高い種目を避けるようになってしまいます。

また、運良く軽症で済めば良いのですが、デッドリフトでの怪我は選手生命を終わらせる大怪我に発展する可能性があります。

デッドリフトでは時として「あがるけどやらない方が良い」という重量設定が存在すると言えます。

【怪我を予防する鍵 Scapula InとChest Up、Sweep In】

デッドリフトで最も避けるべき姿勢は下背部が丸まる事です。

そうならないためにも動作中に骨盤が後傾する事は避けねばなりません。

骨盤を後傾させないためには腹圧を高めて胴体部分を固める事も重要ですが、それ以上に肩甲骨を開かない事が重要です。

意識の上では寄せる、という表現が正しいのかも知れませんが実際には高重量を持つと肩甲骨を寄せっ放しで行う事は不可能に近く無理に意識すると開始姿勢では、逆に過剰に下背部を反ったフォームになってしまいこれも危険です。

私が指導する場合は肩甲骨を入れるという表現に留めています。

そしてスタート位置で十分に身体を低くセットさせ、胸から持ち上げるというイメージを持たせると自然と良いフォームに導ける事が多いです。

また動作中に重心位置が前後にブレてしまったり、お尻が先に上がって膝だけ先に伸展してしまうと体からバーが離れてしまい、腰背部に強いストレスがかかってしまうケースも良く見受けられます。

セットから挙上中にかけては常に「スキャップラーイン!! チェストアップ!!スゥィープイン!!」が口癖です。

※Scapula=肩甲骨

【ワイドスタンスかナロースタンスか】

一言にデッドリフトと言っても、色々な足幅や膝関節・股関節の使い方によって様々なやり方が存在します。

パワーリフティングでも大きく分けるとすれば、ヨーロッパ系の腕の長い選手が採用する事の多い足幅が肩幅程度のナロースタンス デッドリフト(コンベンショナル・スタイル/ヨーロピアン・スタイル)と手足の短い日本人やアジア系の選手が採用する事の多い、ワイドスタンス デッドリフト(相撲スタイル)の2種類があります。

勿論、その選手の体系や元々の筋力を考慮し、導入方法を変える事は間違いではありません。むしろ柔軟な導入方法が必要です。

しかし、股関節や足関節の固さなどを理由に特定のフォームでしかトレーニング出来ないような教育はすべきではありません。

ナローでもワイドでも両方で正しい姿勢をとり、デッドリフトを行う事が出来るのが理想であり早期に特定のスタンスに特化したり、苦手意識を植え付ける事の無い様に指導すべきでしょう。

特に日本人の中にはナロースタンスが上手に出来ないからと言ってワイドスタンスに逃げる場合が見られます。

長身選手の中にはワイドなら綺麗なフォームで180kgが引けるのにナローにすると100kgで背中が丸まってしまうような選手もいます。

ワイドスタンスは確かに我々の体系に合ったフォームですし、欧米人に比べて比較的股関節が柔らかい我々にとっては高重量を扱える良い種目です、しかしナロースタンスの出来ない選手にしてはなりません。

【オリンピックリフティング種目に繋げるために】

ラグビーに限らず多くのスポーツでは培った筋力をベースにスピードを加え、パワーに変換する能力を求められます。

そのパワーを養成する為にはスナッチやジャーク、パワークリーン等のオリンピックリフティング種目を採用する事が一般的です。

(ウエイトリフティングが正式名だと思うがパワーリフティングと見分け易くするためここではオリンピックリフティングと記す)

デッドリフトはオリンピックリフト種目のスタートフェイズと同じ動きである事からオリンピックリフティング種目のフォーム習得の為にも重要な種目と言えます。

(細かいテクニックの話しまですると同じではないが、大まかに床から太腿までバーベルを引き上げると見れば同じ)

オリンピックリフティングでは足首・膝・股関節を同時に伸展させ、一気に床面を蹴って垂直方向に飛び上がるような筋力を発揮する事で上手く下半身で発揮したパワーを上半身に繋げるという動作が必要となります。

極端なワイドスタンスではスピーディーに垂直方向に飛び上がる事は出来ません。

ですので、オリンピックリフティング種目で行うパワートレーニングに繋げるためには、ワイドスタンスが得意な選手であっても、ナロースタンスでも高重量でバランスを保ち、正しいフォームで引き上げるスキルと筋力が必要です。

【ベルトの使用】

競技アスリートを指導しているとよく聞くのが「ベルトを使うべきか否か」という質問です。

勿論怪我を予防する為にはベルトを使う事は正しい事ですが、負荷がかかった時に自分で腹圧を高め姿勢を保持するというのも大切なトレーニングです。

私は好きな単語ではありませんが、所謂「体幹」のトレーニングとしても重要なポイントです。

特に若年層のアスリートで意味も無くウォームアップ重量からベルトをつけていたり、アームカールやレッグエクステンションマシンでベルトをつけているようなケースも見受けられます。

これは競技力向上の面から見るとプラスの要素は低いでしょう。

大切なのはベルトを巻く理由だと思います。

ベルトを使う理由は記録を伸ばす為ではなく怪我を防ぐためです。

勿論ベルトで腹圧を高めてデッドリフトやスクワットを行ったほうが高重量を扱えるのは確かです。

しかし他競技アスリートにとっての最優先はデッドリフトやスクワットの1RMの向上ではありません。

そこを間違わなければ良いと思います。

そのうえでベルトが必要なほどの重量で計画的にトレーニングするのならば意味があるのではないでしょうか?

【スクワット同様、将来の為のフォーム指導と指導者の育成を】

繰り返しになりますが、ラグビーに限らず様々な競技のアスリートにとってデッドリフトは必要なエクササイズです。

バリエーションによって主となるターゲットは変えられますが、基本的には脚だけの種目でもなければ背中だけの種目でもなく、全身種目です。

勿論、体幹部の筋力向上にも役立つと思います。

しかし怪我のリスクを減らすためには正しいフォームの習得が必須です。

特定のフォームに偏る事無くナローでもワイドでもルーマニアンでもスティッフレッグでもシングルレッグでも・・・ 色んなバリエーションで姿勢を崩さず動作が出来るようにトレーニングして欲しいと思います。

そして街の市民体育館で「君ベンチ何キロ?」という定番の会話が交わされるのと同じぐらいに「君デッド何キロ?」という会話で盛り上がるようになれば日本人のフィジカルの底上げにも繋がると思います。

その為にもスクワット同様、正しいフォームを指導出来るコーチやトレーナー、部活動指導者の育成が必要です。

スクワット同様、フォームを崩さず出来る様になるまでは1年ぐらいなら60kg未満でも構いません。

無理して引く事よりも綺麗に完璧に引く事を最初は目指して、この効果の高い種目をベンチと同じ認知度まで引き上げて欲しいと思います。

コラムニストやコラム内容についてのメッセージは下記のアドレスまでお送りください。

コラム用メールアドレス: column@sbdapparel.jp

※どのコラム宛かを明記してください。
※お送りいただいたメールの内容は、コラムで取り上げられる事があります。

■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

 

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