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力の腕試し「段位認定審査会」

皆さん、「段位認定審査会」というイベントをご存じでしょうか?
静岡県パワーリフティング協会が主催する筋力審査会です。
歴史は古く、おそらく40年以上前から全国的に行われて来ました。
当時は「力試しの場」として多くのトレーニーに親しまれていましたが、年を追うごとに開催県が減り、現在は静岡県のみで続いています。

元々はボディビルの連盟が主催していましたが、参加者の減少に伴いパワーリフティングの連盟に主催が移りました。
今では静岡県独自のものとなっているようですが、トレーニングの目標・モチベーションとして昇段を目指す人がいるうちは継続していくとの意向で、毎年小規模ながら実施しています。
今回のコラムは、この段位認定審査会について紹介していきます。

1.内容
審査はフロントプレス・ベンチプレス・スクワットの三種目で行われます。
段位ごとに決められた重量を、ルールに従って10回反復できれば合格。
段位は初級から最高十段まであり、女性は基準重量が男性の約半分に設定されています。
重量は次の表の通りです。

①フロントプレス
禁止事項:
 シャフトを顎より上で切り返して上げること。
 膝を曲げて反動で上げること。
 足を前後に配置し上げること。

床に置いてあるシャフトをフロントラックポジションまで持ち上げ、指定された重量を10回反復します。
肘が伸ばしきれていればOK。
チーティングを使うことはできませんので、プッシュプレス・プッシュジャークのように下半身の力を使うような動きはレップにカウントされません。
スタートはラックにかけていない状況からなので、重量が増えてくると床から持ち上げるだけでも難しくなってきます。

②ベンチプレス
禁止事項:
 シャフトを胸でバウンドさせてあげること。(胸で静止しなくてもよい)
 尻、頭、肩のいずれかがベンチ台から浮くこと。また靴底が床から浮くこと。

パワーリフティングルールにおおむね準拠し、指定された重量を10回反復します。
プレスコールはなく、胸で静止すれば1回と認定されます。
普段からベンチプレスに取り組んでいるトレーニーにとっては比較的挑戦しやすいですが、勢い任せの動作は通用しません。

③スクワット
禁止事項:しゃがみの深さが床と大腿部を見て並行より浅いこと(平行はよい)

シャフトを担ぎ、指定された重量を10回反復します。
パワーリフティングでは「ヒップジョイント部が膝の上面より下」と厳しい基準ですが、段位認定では床と大腿部が平行、いわゆるパラレルスクワットが認められています。
これはボディビル連盟が主催していた頃の名残で、一般的なトレーニーでも挑戦できるように配慮された結果です。

 

選手が一番苦労するのはフロントプレスです。
例えば二段の基準はベンチプレス75㎏、スクワット100㎏、フロントプレスは50㎏となっています。
ベンチプレス・スクワットは男性であれば現実的にクリアできるイメージが湧くと思いますが、フロントプレス50㎏はどうでしょうか?
10レップ反復しないといけないこともあり、FTGYMの多くの男性挑戦者が二段~三段のフロントプレスがクリアできずに足止めを食らい、昇段が難航します。

2.審判と判定
現在審査会を運営しているのがパワーリフティング協会のため、試技の判定は基本的にパワーリフティング連盟が認める審判資格を持つ者が行います。
パワーリフティングと同様に主審1名、副審2名です。

主審のコールはありませんが、放送係というスタッフがいて、「1、2、3…」と数を数えていきます。
10回終了後に主審の「判定」の合図で審判が旗を揚げ、白旗2人以上が上がると成功とみなされ、段位が認定されます。

途中、禁止事項に触れる試技があった場合は主審から「もう少し深く」「反動使っている」などと注意が入り、注意をした後のレップでも修正できなければ「ストップ」と声をかけられ、その時点で試技は終了です。
明らかに禁止事項に触れる試技があれば1回目で声をかける場合もあります。
試技は3回まで挑戦できます。

審査会はアットホームな雰囲気ながらも、判定は非常に厳格です。
過去に認定を受けた方々の実績を守るため、判定基準を下げることはありません。
段位の重みを守ることこそ、この審査会の価値を高めているのです。

3.実施時期・場所
毎年7月に静岡県浜松市と富士市が交互に実施しています。
富士市では体育館を借りていた時代もありましたが、参加者数が5〜10名程度となった現在では、施設規模としてジムで十分対応できるようになりました。
現在はFTGYMで実施しています。(その年によって変更になる場合もあります。)

来年度は浜松市で実施予定です。
県外の方でも参加できますので、気になる方は私までお問い合わせください。

4.認定後の楽しみ(FTGYMの場合)
FTGYMでは、認定を受けると木製の名札に名前が刻まれ、ジム内に飾られます。
武道の道場にある名札掛けのような渋いデザインで、多くの会員が「自分の名前を残したい」と努力を続けています。


ジムに飾られた名札掛け

FTGYMでは最高位が七段。
私の夫、福島勇輝が若い頃に取りました。

七段の重量はフロントプレス100㎏、ベンチプレス150㎏、スクワット200㎏です。
スクワット200kg×10は、Epley式で計算した推定1RMで約266kg。
男子66kg級の日本記録を超える水準です。(2025年9月6日時点で255.5㎏)

さらにフロントプレス100kg×10は推定133kgとなり、ストロングマン級の強さが必要。
ここまで到達するのは並大抵のことではありません。
実際、七段を持つ夫が言うには「コツ」があるとのことですので是非聞いてみてください。

5.段位認定審査会の魅力
この審査会の参加者はパワーリフターからボディビルダー、健康目的のジムの利用者まで幅広く、実際の審査会は競技会のような緊張感がありながらも、交流の場としても楽しまれておりコミュニケーションの場になっています。

ただ健康目的でジムに通っている方でも、明確な目標があるとトレーニングにもメリハリが生まれます。
各段位の数字が決まっているので「初段を取ったら、次は二段!」と明確な目標を立てることができます。(初段以降のハードルはぐっと上がってしまいますが)

選手登録も必要なく、だれかと競うことが苦手な方にも好評です。
また、女性は半分の重量で挑戦できますので、男女関係なく楽しめる審査会です。


FTGYMで行われた段位認定審査会の参加者達

6.最後に
「段位認定審査会」は、単なる筋力測定を超えた“挑戦の文化”として、静岡県で今も続いています。
かつては全国で行われていたこともあり、もしかすると他の地域でもまだ開催されているかもしれません。
「私の県でもやっている」「段位を持っている」という方がいらっしゃれば、ぜひお知らせください。


◆コラム執筆者

福島未里(ふくしまみさと)
静岡県富士市FTGYM所属
FTGYM(https://ft-gym.com/)

【パワーリフティング(ノーギア)ベスト記録】
 スクワット 145kg
 ベンチプレス 113kg(一般女子57kg級 日本記録)
 デッドリフト 165kg
 トータル 423kg(一般女子57kg級 日本記録)

【ウェイトリフティング ベスト記録】
 スナッチ 72kg
 クリーン&ジャーク 95kg

【大会成績(抜粋)】
 2013年 アジアベンチプレス選手権(ジュニア57kg級・フルギア)優勝
 2014年 世界ベンチプレス選手権(ジュニア57kg級・フルギア)準優勝
 2017年・2018年 ジャパンクラシックベンチプレス選手権(一般女子57kg級)優勝
 2019年 世界ベンチプレス選手権(一般女子57kg級)5位
  同年  ジャパンクラシックパワーリフティング選手権(57kg級)優勝
 2022年 ジャパンクラシックパワーリフティング選手権(57kg級)優勝
 2023年 静岡県ウェイトリフティング選手権(女子59kg級)優勝
 2024年 全日本女子選抜ウェイトリフティング選手権(59kg級)10位
 2025年 国民スポーツ大会 パワーリフティング(女子中量級)3位

【保有資格】
•日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
•NSCA-CSCS
•柔道整復師
•産前産後アスリートサポートスペシャリスト

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