SBDコラムをご覧いただきありがとうございます。
コラムニスト福島未里です。
今回のコラムは2回にわたって対談形式でお送りいたします。
2024の夏はパリオリンピックで盛り上がりました。
私も2021年の東京オリンピックまで女子柔道のサポートスタッフとして活動していましたが、その後にS&Cコーチの役割を引き継いでくださった柴田昌奈さんとの対談です。
二人ともパワーリフティング(柴田さんはベンチプレス競技)に取り組む中でアスリートへのサポートにその経験や知識を生かすことがあったのか、ざっくばらんにお話させていただきました。
会話を書き起こしたものになりますので、読みにくい部分もあるかもしれませんが気楽にお読みいただけますと幸いです。
対談者紹介
名前:柴田 昌奈(シバタ アキナ)
【所属GYM】
ゴールドジム溝の口神奈川
鎌倉パワー湘南BP
【競技成績】
2021年度 神奈川県ベンチ初出場(女子69kg級 優勝)
2022年度 ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 69㎏級 一般3位 M1優勝
2023年度 アジアクラシックベンチプレス選手権大会 69㎏級 M1優勝
2023年度 ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 69㎏級 M1優勝
2024年度 全日本ベンチプレス選手権大会クラシック部門69㎏級 一般&M1優勝
1.二人の出会い
福島:味の素ナショナルトレーニングセンターの地下にあるトレーニングルームでしたね。
柴田:私がトレーニングに行くといつも福島さんがトレーニングしていて。
この人えぐいベンチ挙げるなと思っていました。(笑)
それがきっかけで話しかけましたね。
福島:そうでしたね。
私も日本のトップの施設でもちゃんとウェイトトレーニングしている女性S&Cコーチってあんまりいなくて、気になっていたんですよね。
ビルダーみたいにちゃんと追い込んでいるから、なんか親近感があったんですよ。
2.現在の仕事内容
福島:私が2021年の東京オリンピックまで女子柔道のトレーニングサポートをしていて、オリンピックが終わって静岡に戻ろうかなと思ったときに、次のパリ五輪に向けての後任をお願いしたんです。
お仕事内容は私が担当していたときとあんまり変わらないと思うんですけど、今はどういったサポートをされていますか?
柴田:日常的にサポートしている選手はウェイトトレーニングを基本的に実施しています。
また、試合が近くなったら心肺機能の強化でサーキットトレーニングを実施します。
あと多分福島さんと違うところは、以前バレーボール競技をサポートしていたので、柔道界であまりやられていなかったアジリティートレーニングを指導できるということが強みだなと思っています。
最近道場でアジリティートレーニングを実施することも増えました。
なので、ウェイトトレーニング・ステップワーク・体の使い方、を中心にやっているって感じですかね。
福島:そこ私が苦手としていた分野だったりするのでいいですよね。
やっぱり、軽量級とかに需要ありますか?
柴田:軽量級と怪我明けの選手に需要がありますね。
3.バレーボール選手と柔道選手の違い
福島:バレーボールから柔道にサポート種目が変わりましたが、S&Cコーチ目線で柔道選手に対する第一印象を教えてください。
柴田:そもそも世の中のイメージ的に柔道選手って体が大きい重量級のイメージがあるじゃないですか。
だからどれだけ大きい人かな、と思っていたんですけど最初に会った選手が軽量級だったんです。
福島:48㎏級と52㎏級の選手でしたね。
柴田:バレー選手も背は大きかったじゃないですか。
だから「ちっちゃ!」って思いました(笑)
福島:柴田さんが最初に会った二人は特に可愛らしいタイプの選手でしたね。
柴田:だから第一印象としては柔道の選手なのにちっちゃいなっていう…。
それなのに実際サポートに入ったら、バレーの選手と比べて重量に対するメンタルブロックが全くない。
「重さ上げよう!」って言ったら「あ、ハイ」みたいな。
重さを増やすか回数上げるかで選択させたら即座に重さ。(笑)
バレーの選手ってやっぱり重いのをあげると体が重くなるっていう固定概念があるんです。
だから柔道選手は重量に対するメンタルブロックと扱う重量感も半端ないなっていう。
そこがもう圧倒的な印象ですね。
福島:ネガティブな側面は何かありましたか?
柴田:身体操作的な部分。
バレー選手ってひねったりするから、胸椎の動きが柔らかいんですけど、柔道選手は本来動かさなければいけないモビリティジョイントみたいなところのまったく出来なさですかね。
コンタクトの違いはもちろんあるとは思いますが、バレーとは真逆ですよね。
力すごいな、重さに対する意識すごいな、でもこの人体動かないな、っていう。(笑)
福島:そういった意味では昌奈さんってなんとなく特殊というか。
ウェイトバリバリやっている感じがあるので、バレーボール業界ではちょっと異質な人間だったんじゃないですか?
柴田:バレーにいると、「身体操作弱いね、アジリティー弱いね」なんですよ。
だけど柔道に来たらそれが逆転して、「この人アジリティー強いね、ウェイト弱いね」ってなりました。
競技が変わっただけで自分の立ち位置が逆転してびっくりしました。
4.プログラムの中のBIG3の取り入れ方
福島:私がサポートしていた時は、自分がパワーリフターという面もあるし、BIG3は基礎のトレーニングとして取り入れることは重視していました。
昌奈さんがパリ五輪に向けて何か考えて入れた部分や、むしろ逆に入れなかった部分などあったら教えてください。
柴田:基本的にスクワットは例外がない限りはやらせたい。
選手として全てのものを強くするにはスクワットすごくいいなと思っていて。
私はすごく苦手なんですけど。
で、「スクワットって、どのトレーニング?」って選手に聞くと、脚のトレーニングって返ってくるんですけど、私は脚ってとらえてなくて。
呼吸の入れ方とか、背中の使い方で体幹周りも強くなるし、呼吸を止めるから、全身運動にもなる。
例外で本人が40キロ担いだだけで「もう無理」とか「絶対やりたくない」という以外、基本的にスクワットは全選手にやらせたい。
デッドリフトに関しては、 腰痛が多かったり苦手意識もあったりする選手も多いから、トレーニング苦手であんまり好きじゃない選手だと、ハーフデッドやラックプルみたいにガンガントップサイドだけで「脚とかいいよ、とにかく背中だけ強くしてこう!」みたいな感じにやることもあります。
あとは、若い選手はやっぱり下からのデッドリフトってものすごく大事だと思うので、プルトゥーニーで床から膝までとか。
立ち上がると腰が痛いけど、ヒップヒンジがしっかりできればそこまではできるから、ヒップヒンジの習得で実施します。
福島:ヒップヒンジの習得で膝までのデッドですか。面白いですね。
柴田:ハーフデッドにすると、とにかく背中じゃないですか。
プルトゥーニーを入れている選手の目的はやっぱり臀部とかハムストリングス。
下から引くことによって、ヒップヒンジ動作しっかり入れることでそこにも刺激が入る。
だからトレーニングっていうよりも、初期でデッドリフト超嫌いだけど、この子ちょっとやった方がいいんじゃないかなって思ったら入れてみたりします。
福島:割とフォームが固まってないと、その部分をやるのは難しいですよね。
柴田:股関節を動かしてヒップヒンジ動作ができないと。
だからもうそこの習得です。
福島:なるほど。そういう意味でも、プルトゥーニーをやることは結構あるんですね。
柴田:あとはダンベルのデッドリフトとか。
福島:ヘックスバーとかやりますか?
柴田:やりますね。肩痛がある選手。
肩が前に入っちゃっているから、持った時にどうしても背中が丸くなっちゃう。
で、肩が前方変位しているから、これも修正したい時にヘックスバーも使ったりします。
スクワットはベーシックで、とにかくしっかり入れたい。
デッドリフトも基本的には入れたい。
だけど、その選手の状況に合わせて変化させていく。
デッドリフトは結構バリエーション持ってやっていたかもしれないです。
福島:デッドリフトって股関節のヒンジのタイミングとか、膝を伸ばすタイミングとかがちょっとずれるだけで結構変わってくるし、習得難しい部分もあるじゃないですか。
だから、避けがちな人も結構いますけど、スクワットと違って床から引いて、重心が絶対前にある状態で引かなきゃいけないっていうものは、やっぱデットリフトでしか得られない旨みがある気がします。
柴田:デッドリフト苦手な子ってフロントスクワットうまくできてないイメージあります。
前に持っていかれちゃう。
福島:軸の取り方というか、バランスの取り方が上手じゃないっていう選手ですかね。
柴田:だからダンベルに一旦その子は切り替えて、で、スクワットのウォームアップでフロントスクワット入れて、2セットぐらい。
で、バックスクワットをやる。
それで、前に持ってかれないんだよっていうことを感じさせて、ダンベルからシャフトにレベルアップしていく。
福島:なるほど。フロントスクワットでちょっとそこを学習させといて移行していくって感じですね。
柴田:その前に持ってかれないって、やっぱ受けのとこでは柔道では大事ですよね。
福島:間違いないですね。
柴田:あとはラックプルなんかした時は、ベンチはあんまり入れてないんですよ。
だけど、しっかり顎を鎖骨に入れて、肩下げて返すことによって小胸筋に力が入るからベンチのボトムのようなイメージになるじゃないですか。
だから胸にもアプローチ…まではいかないかもしれないけど、なんとなくその胸を張るっていう動作をデッドリフトでも習得できるから、ベンチ入れてない選手なんかは結構積極的にデッドリフトやらせています。
福島:なるほどね。面白いですね。
じゃあ実際ベンチプレスはそんなに入れる頻度は少ない感じですか。
柴田:スクワットもデッドリフトも嫌、っていう限られた選手しか入れてないですね。
もうその選手はベンチとディップスしかしていない。
あとは、例えば私の中でベンチは技術種目って考えていて。
私の競技的なベンチのやり方はいろんな引き出しはあるんですけど、めちゃくちゃ背中にアプローチできるやり方で前やっていました。
だから背中が強い選手で、もうデッドこれだけ重さつけたらちょっと余力ないなとか、ワンハンドロー引きすぎて背中に直接アプローチするのはキツいかなってなった時に、ベンチを背中にアプローチするように胸椎の伸展をとにかく出させてやる。
あとは、肩痛の選手で胸椎の伸展出したいからやるとか。
何かしら本当に理由がない限りベンチは積極的にやらないです。
私自身がバレーボールから来ているんで、バレーボール選手って腕長い、仕事量多い、スパイク打つから肩痛訴えることが多い、ブリッジ超嫌がる…で、あんまりBIG3の中ではベンチを積極的に入れるタイプではなかったので、その流れを受けてあんまり柔道でも入れてなかったかなと。
福島:面白いですね。その背中のアプローチの考え方とか、勉強になります。
私はとりあえずトレーニングの最低ラインとしてBIG3やっていましたね。
特に若い選手とかは、スキルの習得の上でも、BIG3の基本の動作スキルが習得できれば私のサポートから離れてどこに行っても大丈夫だろうっていう部分はあったので。
あの時はまずBIG3を習得させるっていう意識をしていました。
5.サポートをするうえで、ベンチプレスという競技をしていることで何かメリット・デメリットはありましたか
福島:パリに向けて後任を探すときに、ウェイトトレーニングをガツガツやっている女性S&Cコーチがいいなと思っていたんです。
誰かいないかなって考えたときに、私の中で昌奈さんしか出てこなくて。
柴田:ベンチやっていてよかった~
福島:結構重さを持って、競技として今取り組まれているじゃないですか。
しっかりウェイトをしているという面でもいいですし、ベンチプレスという競技をしている面でもいいですし、それがサポートをしていくうえでメリットになったことやデメリットかもしれないと思ったことあれば教えてください。
柴田:私、学校の先生もしていたので、教えるってことが今まではすごく一方的だったかなと。
だけど、自分が競技するようになって、試合前の緊張とかピーキングとか、そういったことも考えるようになりました。
あとはチームで練習したり、自分でパーソナルを受けたりした時に、このタイミングでこういうこと言われたくないなとか、このタイミングで声かけてもらったら嬉しいなとか、選手側に立つことで気付くことがありました。
だから、本当に競技始めてから選手から優しくなったっていわれるんですよ。
選手の気持ちわかる…と言ってしまうのは違うかもしれませんが、考えてあげられるようになったっていうのは気持ち的なメリットかな。
フィジカル的なメリットはやっぱりバレーの選手と比べてものすごい重量を扱うので、自分も競技やっていて、負けたくないとは思わないけど自分も同じように持ちたいなっていうのがあるから、結果的に自分のトレーニングの質が上がりました。
それから柔道選手は胸椎とか股関節とかめちゃくちゃ硬いってお話しましたけど、ベンチでは胸椎とか肩甲骨の動きってすごく重要じゃないですか。
だから、そういったところを自分のトレーニングでやってみようって考えて、それを選手に還元できる。
自分の体で実験して、選手に伝えて、自分の競技にプラスになるし、選手も競技にプラスになるっていうことがメリットですかね。
福島:選手側の気持ちになるって、自分が真剣に競技に挑まないとなれないですよね。
自分がこれやってよかったからちょっと選手にもやってもらおう、みたいなのはあります。
結局、トレーニングも自分が1回やったことあるやつじゃないと選手に提供できないじゃないですか。
柴田:ですよね。こういうのをやらせしてみようと思ったらまず自分でトライして、「ないわ」とか(笑)
だからこそ、指導する側はしっかりウェイトしてほしいですよね。
福島:昔の話なんですけど、ウェイトを全然やってこなかったS&Cコーチのプログラムは、自分でやったことがないから選手にとって死ぬほどきついってことがありました。(笑)
柴田:めっちゃ種目とか設定してそう(笑)
あとこれはいろんな意見がありますが、お手本じゃないけど一緒にやってみるっていうのもいいですよね。
福島:選手から一緒にやってもらうのはうれしいって言われますね。
柴田:トップ選手になればなるほど人を見ていますし、観察眼がすごいからどうこう言うよりも一回やってあげた方がよかったりしますよね。
選手からみた視点ってまた違うから。
福島:意外と自分が気付かない質問とか飛んできたりしますよね。
柴田:「ちょっと待って!何もそこ意識したことなかったわ!」みたいな。
だからトレーニングしているメリットはめちゃくちゃありますね。
トレーニングで重量を扱う競技だったっていうのはあるかもしれませんが。
福島:なるほど。コンタクトのないような別の競技だったらちょっとまた違ったかもしれないですね。
次回、②に続きます…
◆コラム執筆者
福島未里(ふくしまみさと)
静岡県富士市FTGYM所属
FTGYM(https://ft-gym.com/)
ベスト記録
パワーリフティング(ノーギア)
SQ145kg
BP113kg(一般女子57kg級日本記録)
DL165kg
TL423kg(一般女子57kg級日本記録)
2013年度
アジアベンチプレス選手権大会(フルギア) ジュニア57㎏級1位
2014年度
世界ベンチプレス選手権大会ジュニア57㎏級(フルギア)2位
2017年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57㎏級1位
2018年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級1位
2019年度
世界ベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級 5位
ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会 一般女子57kg級1位
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子63kg級1位
2021年度
ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会 一般女子57kg級2位
2022年度
ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会一般女子57kg級1位
保有資格
日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
NSCA公認CSCS
健康運動指導士
柔道整復師