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主観的運動強度を使ったプログラム作り

読者の皆様こんにちは。

ゴールデンウィークは如何御過しになられたでしょうか?

私はいつもと変わらずラグビーとアメフトの練習と試合帯同に追われる毎日でしたが、試合会場への移動で高速道路に乗ると思わぬ渋滞に巻き込まれ「あぁ世間はゴールデンウィークなのか・・・」と僅かながら大型連休の影響を味わうだけでした。

さて今回は昨年7月にお話した運動強度のコントロールに関連した話の続きをしたいと思います。

昨年はGPSを使った練習量や強度の確認とコントロールについてのお話を中心にさせて頂きましたが、実際にはGPSを選手全員分購入できるチームは数少ないと思いますので、今回は選手が実際に感じた運動強度をモニタリングする方法についてお話しようと思います。

【主観的運動強度とは】

主観的運動強度(以下RPE: Rate of Perceived Exertionと省略)とは読んで字の如く選手がセッションの運動強度を自分の主観により数値化するもので

このような表を使い(チームによっては20段階を使う場合もある)セッション後に選手1人1人に確認をする方法です。

 

私のチームの場合はセッション終了から15分以内に必ずスマートフォンのアプリを使って入力するように指示しています。

入力された情報はコーチングスタッフや学生トレーナーが随時チェックできるようになっています。

入力させる項目はこちらで設定可能で、私のチームでは起床時に体温・体重・就寝時刻・起床時刻・睡眠時間などを記入し、朝の体調・精神的な疲労・肉体的な疲労・睡眠の質などは選手の主観で10段階評価を記入させます。

また、練習前には練習前の体重。

練習後には練習前後の体重を打ち込み、ウェイト・トレーニングや練習の強度をやはり10段階で記入させます。

もっと沢山記入させる事も出来ますが、あまりにも項目が多過ぎると選手も大変ですし、こちらも情報が多過ぎて振り回されてしまうので現状ではこのぐらいが丁度良いと思っています。

 

【RPEを使ってプログラムの作成と疲労のコントロールを】

現在私のチームでは、3~4週間練習強度を徐々に上げて行き、次の1週間は強度を落とすサイクルを組みながら練習を行っています。

そのなかで試合日を考慮し、日々の練習強度のターゲットを設定しコーチで話し合いメニューを考えます。

数値化するのはRPEの予測数値と練習時間をかけた数値で、例えば60分のウエイトトレーニングで選手がRPEで8と答えたのなら60×8=480です。

その日の午後の練習が100分で選手がRPEで7と答えたら700です。

午前のウエイトトレーニングと午後の練習を足した1180がこの日のトータル運動負荷とします。

このようにしてRPEを利用して強度を数値化しプログラムを作っていく事で、闇雲に練習量を増やしていくのではなく選手の疲労をコントロールしながら段階を踏んで計画的に怪我を予防しながら強化して行く事が可能となります。

 

 

【選手の教育とコーチングの指標】

当たり前ですが、選手にトレーニングをさせるうえで強くする事と同じぐらい気を付けなければならないのが怪我をさせない事です。

どんなに強くなっても試合に出られなければその選手は試合では戦力ゼロです。つまり選手を追い込むには選手が壊れないギリギリのラインを知る必要があります。

RPEのような運動強度の指標を用いる事で障害を未然に防ぎながら強化を行っていく事が重要です。

加えてRPEを毎日つける事は、選手が自分自身のコンディションに興味を持ち自己管理能力を高める事に繋がると私は考えます。

毎朝必ず体重計にのる、体温を測る、朝食をとる、どれくらいの睡眠時間を確保できているかを知る。そうした習慣をつける事に役立ちます。

勿論、過去の自分のデータを見ることによって、自分が何をしたら体調を崩したのかとか、何をしたら調子がよかったのかを考えることもできます。

ウエイトトレーニング種目の数値も打ち込めるので、何㎏で行えばよいのか、記録が伸びているのか、どれくらいの期間停滞しているのか、怪我をする前に数値に戻っているのか、といったこともグラフで分かりやすく見る事が出来ます。

競技練習以外の行い、取り組みが如何に競技能力に繋がるかを知り重要性を理解する事に繋がるのです。

さらに、現在私のチームで活用しているアプリは、選手が不調を訴えるチェックをするとコーチやスタッフにアラートで知らせてくれる機能がついています。

例えば、体温がいつもより高いことがわかれば、練習前に声を掛けて検温させます。

鼻水や咳、のどの痛みなどを訴えていれば、様子を聞いて練習可否について相談します。

重症化を防ぐのは勿論ですが、チーム内で感染症が蔓延するのを防ぐ事も重要です。

 

また、身体の何処に痛みや違和感があるのかも部位毎に分かりやすくチェックできるようになっていて、やはり練習の前にコミュニケーションをとり、アスレチックトレーナーの指示を仰ぐように役立てます。

我々コーチ陣もRPEのデータを用いて自身が作成したプログラムやスケジュール、毎日の練習で課したトレーニングの振り返りを行う事が出来ます。

こちらが狙った負荷を与えられているのか?

選手の体重が落ちているのは走らせすぎではないか?

ウエイトトレーニングを早朝に行う為に睡眠時間が減っているのではないか?

それによって集中力が低下しウエイトトレーニングのRPEが低いのではないか?

ランニング量やコンタクト強度を下げているのにRPEが高いのは練習時間が長過ぎるのではないか?

などなど、いろいろな情報を得る事が出来ます。

 

【まとめ】

大学スポーツのような100人を超える選手をコントロールしなければならない現場において、今回紹介したようなアプリを利用する事は非常に有効だと思います。

しかし情報をとる事だけに必死になり実際にその情報をどう使ってチームを強くしていくかを考えるところまで頭が回らない場合もあります。

また選手達がデータをとる事に飽きてしまい好い加減な報告をするようになる場合もあるでしょう。

そうならない為には常に選手達から得られた情報がチームのプログラム作りの為に役立てられ、正確な情報を入力していく事が選手達にとってもチームにとっても有益である事を、情報をフィードバックしながら理解させていく事が必要です。

パワーリフティングやボディビルディングのような個人競技を行っている選手の多くは自分自身でコンディションを管理すると思いますので、普段のトレーニング日誌に加えてRPEを記録する事で自分のコンディションの振り返りをする事も出来ると思います。

将来パーソナルトレーナーやS&Cコーチを目指される方は、自分自身の身体に対して選手としての目線とコーチとしての目線。両方を備える事が重要だと思います。

 

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■コラム執筆者

佐名木宗貴
ベスト記録(ノーギア)
スクワット 241kg
ベンチプレス 160kg
デッドリフト 260kg

戦跡
パワーリフティング
・全日本教職員パワーリフティング選手権 90kg級 優勝
・2009~2012年 近畿パワーリフティング選手権 4連覇 75・82.5・83・90kg級4階級制覇
・ジャパンクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 準優勝
・アジアクラッシックパワーリフティング選手権大会 83kg級 優勝
・東海パワーリフティング選手権大会 93kg級 優勝

ボディビルディング
2000~2001年  関東学生ボディビル選手権 2連覇
2000年     全日本学生ボディビル選手権 3位
2011年     日本体重別ボディビル選手権70kg級 3位
2011年     関西体重別ボディビル選手権70kg級 優勝

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